後日
「ほらレニー、あ〜ん」
「……」
「あ〜ん」
「…く、」
屈辱的すぎる……
お父さん、お母さん。ジェリーからとんでもない屈辱を受けている僕は今、船に乗っています。
あのあと僕の「故郷に行ってみたい」ていう願いを叶えるべくヴィンスを筆頭に3人が頑張ってくださいまして。
なんですけど、まさかこんなでっかい豪華客船で行くとは思いもよらなかったのです。
流石はヴィンスとジェリーと言うべきでしょうか。船なのに全く揺れません。しかも、僕らのためだけに何人もの召使いさんを雇ったそうなのです。
そのおかげでというかそのせいで、こんなことになっているのです。
プライベートということで、ソファーとローテーブル。ゆったりと腰掛けながら豪華なご飯を頂いています。
隣でジェリーが僕に「あ〜ん」しようとしている以外はとても、とても素晴らしい光景です。
「ほ〜ら、美味しいよ〜」
美味しいなら自分が食べればいいのに……
「……」
止める気配のないジェリー。
嫌ですと顔に書いてそちらを見ても、ニコッとするだけ。
仕方がないので差し出されたスプーンをパクリと口に含む。
くっ……美味しい………
「そうでしょ、そうでしょ!美味しいでしょ!
美味しいですって顔に書いてある!」
キラッキラの笑顔でジェリーが言う。
さっきは無視したくせに!
「レオナルド様、こちらを。」
アルが僕に飲み物を渡してくれる。
それにお礼を言ってコクコク飲見終わると、見計らったように口を拭いてくれる。
赤ん坊だよそれ!赤ん坊の扱い!
「君さ〜わかりやすすぎるよ?もうちょっと隠したら?」
ジェリーはアルを睨みながらも僕にスプーンを向けてくる。
変なところで器用さを披露しなくていいんだよ。
そこであれっ?て思った。いつもなら対抗心燃やしてくるヴィンスがいない。
「そういえばヴィンスは?」
「いるよ」
アルの後ろからコツコツと足音を鳴らしてヴィンスが歩いてくる。
「ちょっと船長と話していてね。寂しかった?」
う、うわぁ最悪のタイミングで質問しちゃったな〜
「あはは、露骨に面倒な顔するじゃん」
「ちょっ、ジェリー!そんなこと言うとヴィンスまた拗ねちゃ…」
流石商人、相手の表情の変化に気付いて凄いね。なんて言ってる場合ではなく。
「ほら、おいで、寂しかったね」
一生懸命ジェリーに言ってると、反対側からヴィンスに持ち上げられ、彼の膝の上に乗せられる。
これ赤ん坊じゃない……ペットだ………
まぁ拗ねてないから良しとするか…。
「ご飯、美味しい?」
「はい、とても美味しいです。」
「うん、よかった。どれが一番美味しかった?」
「えっと、これ…とか?」
一番ていうかこれしか食べれて無いんですけど。
そう思いながらさっきジェリーに食べさせられた料理を指す。
「そっか、俺も食べたいな」
……?食べれば良いのではないでしょうか?
執事だとか雇い主だとかが無くなってラフな関係になってから、僕はヴィンスに対して結構失礼になってしまった気がする。まぁ思うだけで言わないからまだ大丈夫だと思う。
そんなことを考えている僕をじっと見つめ続けるヴィンス。
「??美味しいですよ?」
ニコッ
?????
なんの笑顔?
「食べさせてほしいってよ」
え?
ヘンテコなこと言ってるジェリーを見る。ニヤニヤした眼と目が合う。
いやいやいや、……え?
真上にある顔は相変わらず完璧な笑顔で僕を見てる。
いや、いやいやいや、え?……え??
僕の優秀な執事も黙ったまんま。気のせいか微笑んでないか?
「ほらほら、はい、これ!ちゃあんと言うんだよ?あ〜んって」
フリーズしてる僕に構わず楽しそうにスプーンを手渡してくるジェリー。ほら、こぼしちゃうよ!とかなんとか言ってるけど……え?未だに理解してないんですけど……
「まぁ、俺ら頑張ったよね〜?もはや伝説レベルの一族探して〜?故郷探して〜?スケジュール組んで〜?船用意して〜?こんだけ頑張ったんだしご褒美くれてもいいんじゃないかな〜〜」
!!
ジェリーの言葉に再起動した僕。
たぶん彼は今だにニヤついてるんだろうけど、ずっと頼りっきりだったのは事実。
「……これ、ご褒美になるの?」
「今はこれで充分だよ」
そっか……まぁお金とか要求されないだけマシか……
腹を括ってスプーンをしっかり持つ。
「……じゃあ、はい、どうぞ……………………………………??これ嫌いでした?」
何故か食べてくれないヴィンス。たしかに僕が美味しかったってだけでヴィンスの嫌いな食べ物だったかも?
「レニー、さっき言ったじゃん、あ〜んって言うんだよ、あ〜んって」
今日一番の屈辱かもしれない。
というかこんな時だけ阿吽の呼吸してくるのなんなの!?
いつもは張り合ってるのに!
……はぁ。
もう一生やらない
そう心に誓って今一度腹を括った。
「……あ、あ〜ん…」
「ふふ、……うん、美味しいよ」
笑った!笑ったんだけど!絶対許さないんだけど!
たぶん今恥ずかしさで顔真っ赤だけど怒ってるのでそのままヴィンスを睨む。
僕怒ってます!!!
「うっ……」
お?流石に効いたかな?
目元を隠して俯いてしまったヴィンス。
僕怒ってますから!反省してくださいね!二度とやりませんし!
「レニー……それは…だめだよ………」
そう言って僕の肩に手を置くジェリー。
こちらは片手で口元を隠してる。しかも何故か顔が赤い。
「えっ、な、ど、どうしたんですか、笑ったのがいけないんですよ!?」
「…………いや、なんでもないよ。笑ってごめんね?
それよりさ、レニー?甲板にでようか?行きたいって言ってたよね?」
「えっ!出ていいんですか!はい!行きたいです!」
いつもの涼しげな顔に戻ったヴィンスが嬉しい提案をしてくれる。
さっきの怒りは何処へやら。でも、だって、船だよ!船に乗ったら見なくちゃ!水平線!
潮風も気持ちいいんだろうなぁ〜。
「さ、行こうか」
僕を抱えながら立ちあがろうとするヴィンス。
流石に無理です。
「歩けます!」
「そう…?残念。じゃあまた今度」
今度もありません!これっきりでペット扱いはやめてもらいたいですね!悶々としながらも自分の足で歩き出す。
あれ?
「ジェリーは行かないの?」
「あぁ、彼はまだダメージがね。」
「?」
「さ、行こう」
ジェリーを振り返ろうとしたらやんわりと阻止される。
僕って意外と怒ると怖いんだなぁとか呑気なことを考えてたので、閉まる扉の向こうで「無理、あいつ立ち直りはやっ!直撃しといてはやっ!これが年月の差なのか…??」とか言ってるジェリーの声は耳に入ることが無かった。
基本的深く考えない主人公なので「今はこれで充分」に疑問を持ちません。頑張って!




