架空の人物
――――――――佐倉涼太――――――――
混乱している篠塚には期待しないほうがいいだろう。そもそも、篠塚がオンラインゲームというジャンルをやっていた可能性すら薄い。といっても、俺だってがっつりやってたわけじゃない。ネットに繋がってないアクションゲームやRPGならやり込んだことはあるけど。
「リョウタ、オンラインゲームとは何だ?」
「師匠の世界って一山隔てた先にいる人と魔力とかスキルとかなしで会話できる手段ってあります?誰でも使える道具で」
「そう限定されるとないな」
つまり、通信技術に関して師匠の世界はだいぶ俺たちの世界に遅れを取っているということだ。この世界にも同じことが言える。
「えーっと、とりあえず事実確認をしたいんだけど?」
「おう、なんだ?」
エルドリッチはどっしり構えており、説明を俺に委ねる気満々である。名指しした理由がこれかよ。
「呪われた体なんだよね?」
「そういう設定だな。剣の効果が適用されたぐれーだ。実際呪われてんだろーよ」
「……使ってる剣の効果について以前に聞いた時、だいぶボカした説明をしたよね?」
「ああ、スキルの説明文にそう書かれてたからな。俺も半信半疑だったし、そう言うしかねえだろ?」
「……カードゲームとかでよくあるフレーバーテキストってやつね」
「フレーバーテキスト?」
師匠が聞き返してきた。
「あー……なんていうか、物語には直接関係ないけど、その物語を引き立てるための裏設定……かな」
「それとエルドリッチの生い立ちがどう関係してくるんだ?」
今度はゼフが質問してきた。
そう、そこからがややこしいんだ。ネットもゲームも知らない層にエルドリッチがどういう存在なのか説明するには。点と点を結び付けるだけじゃダメだ。そもそも点にあたる部分さえこの世界の常識に当てはまらない。
「どう関係してくるんだ、リョウタくん?」
エルドリッチが便乗して問いかけてきた。
あんた当事者だよね? しかも、普段くん付けなんてしないくせにイヤらしいやつだ。顔もとぼけててイライラが加速する。
「すいません、一旦オンラインゲームとかフレーバーテキストとか単語全部頭から追い出しましょう。そのうえで、改めて何でもいいから英雄が登場する架空の物語を想像してください。別に英雄じゃなくても自分の好みの人物で結構です」
一同が頷くのを確認して、俺は話を続けることにした。
「ある日突然、その人物に自分がなってしまうところを想像してください。顔も声も全身のありとあらゆる部分に元の自分は存在せず、ただ魂だけは自分のものであると。自分はその人物にしまったのだと。その状況がまさにエルドリッチの置かれている状況です」
「おー、すげえ。だいぶ端折ったな。小難しいこと考えずにそう説明すればよかったわけだ」
めちゃめちゃ感心してるがエルドリッチ、この恨みは忘れないぞ。
「なるほど。リョウタとトモエの同郷であるにもかかわらず容姿がまったく異なっているのは、エルドリッチの今の姿は本当の体ではなく、架空の存在が実体化して彼の魂がそこに憑依している状態ということだな?」
「師匠、そのとおりです」
「つまり、エルドリッチと同じ架空の物語から飛び出した人物がジークリットと共謀しているわけか。そして、そいつらもまたリョウタとトモエが暮らしていた日本という国の人間だと……それはまた、珍妙だな」
そのとおりだ。オンラインゲームのプレイヤーと会話するようなことがあるなんて、この異世界に来てから色々なことに適応できたと思っていたが、まだまだ想像もできないことがたくさんあると思い知らされた。
そして、エルドリッチがこの事実を明かしたくなかったのは、単に説明がしづらいだけじゃない。明らかに俺や篠塚と違う方法で異世界に転移している。その理由に対して慎重になっているのだ。それはつまり、同郷だからといって進むべき道が異なっていれば、容赦なくエルドリッチは俺たちを切り捨てるということ他ならない。




