エルドリッチの正体
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
明け方すぐに俺たちはエルドリッチの元を訪ねた。フリージアが執り行った葬儀は結局夜更けまで続いた。途中で抜けた村訪問組が心底羨ましくなるほどぐでんぐでんに酔っ払った大人たちを、フリージアの指示で水をぶっかけたり、介抱したりするという地獄絵図が完成した。
ゼフはひどい頭痛に見舞われて目がほとんど開いてなかった。まるで電池が切れた機械のように動かない。口が半開きのままで、呼びかけてもちょっとだけ顔を動かすのが精一杯という感じだった。
ヤンは完全に潰れていたので宿に残してきた。
同じぐらい飲んでたはずの師匠はけろりとしている。さすがは千年生きているだけある。関係あるかは知らないけど。
「ひでえありさまだな、おい」
エルドリッチはゼフの惨状に苦笑いを浮かべた。エルドリッチの隣にはレナート卿がいた。そして、反対側の隣にはラフィカが立っている。
今回はエルドリッチの部屋に呼ばれるのではなく、応接間で待機させられた。だから、俺たちのほうが先に席についてる形になっている。長いテーブルに向かい合うように着席する三人。
「慌ただしくてすまんな。ようやく貴族連中との折り合いがついた。戴冠式の準備に追われているところなんだ。さて、こちらの都合は置いといて、単刀直入に言わせてもらう。ジークリットの足取りが掴めた」
レナート卿の言葉にぴくりとゼフが反応する。閉じかかった目がさっきよりもマシに開いてた、今度は少し睨むような顔つきになったけど。無理もない。ゼフにとっては待ち望んだ情報だ。
「しかし、問題が生じた。単独で活動していたはずのジークリットに仲間らしき人物が同行していることが確認された。しかも、派手に動いてくれてる。私が頭を抱えるほどにな」
そう言う割にはレナート卿の頰は緩んでいた。
この人もしかしてジークリットのファンなんじゃ?
「レナート卿、言葉と表情が一致してないが?」
師匠の指摘に素知らぬ顔をするレナート卿。
「そんなことはない。しかし、もしそう見えるのなら長年我が国を蝕んできた犯罪組織が一夜にして駆逐されたおかげだろうな」
「ジークリットといえど、これほどまでに大掛かりなことをしでかしたことはない。おそらくジークリットと一緒にいる人物が一枚噛んでいるとみて調査を進めた。派手に暴れてくれたおかげで目撃者も多かった。その結果……エルドリッチと特徴があう証言が寄せられた」
不服そうな顔でだんまりを決め込んでいる男に視線が集まる。だが、態度からも手を貸しているのがエルドリッチじゃないことは想像できた。
だとすると、どういうことか。
「突如出現する魔法の剣に、瞬時に敵か否かを見分ける眼。やつらは人混みの中でも正確に犯罪者だけを仕留めた。エルドリッチに死体を確認してもらったから間違いない」
「私たちもいきなり襲われたことがあるから信憑性はあるな」
「そうなのか?」
「んなこともあったなぁ」
しみじみしてるけどごく最近のことだよね?
「私もエルドリッチの過去は知らん。詮索するつもりもなかった。異世界のことなど知っても仕方ないことだ。しかしだ、ジークリットの共犯者との関連性が浮上した今、問い詰めねばならん。説明するためには、オーステア殿の弟子であるリョウタとトモエが必要不可欠だ、と彼から申し出があった。この場を設けさせていただいたのはそのためだ」
「私と涼太が……どういうことですか?」
篠塚の質問にエルドリッチは深い溜息をついた。彼にとってはこういう正体の明かし方は不本意だったんだろう。
彼はしきりに自分の立ち位置を気にしていた。自分がこの世界にきた意味を模索していた。その割にはめちゃくちゃなことをたくさんしている気がするけど、それがそもそもの彼の性分なんだ。そのことはそのこととして、彼はこの世界について慎重に物事を進めようとしていた。
それが謎の人物によってぶち壊されたわけだ。
「信じてくれるかわからねえけどよ。俺の体は俺のものじゃねえんだ。この体は俺のやってたオンラインゲームのキャラクターなんだ。それがどういうものなのか、今からこいつらに説明しなきゃなんねえわけよ。俺が頭を抱えてる理由わかるか、リョウタ?」
オンラインゲームのない世界の住人にオンラインゲームの説明をする。それはまた難儀なことである。よくも俺を道連れにしてくれたな、エルドリッチ。
そして、エルドリッチの正体についてある程度の見当をつけてた俺でさえ、その事実はにわかに信じ難かった。だって、現実の人間とゲームのキャラクターが同じ次元にいるって、これまで見てきた様々な出来事よりも遥かに不可解なことだ。




