道中の雑談
――――――――マテ――――――――
「そういえば、フリージアに何か言われたの?」
まだ頭が痛いようだけどだいぶ持ち直してきたツェーリがそんな話を切り出してきた。私はあからさまに嫌な顔をしたと思う。今は目元ぐらいしか外気に晒してないので表情は見せてないけど、雰囲気で伝わったはずだ。だけど、ツェーリもそれを覚悟していたんだろう。取り繕うような真似はしなかった。
「……別に。大したことじゃ」
「マテ、ちょうど良い機会だ。以前の私なら詮索しなかったが、私は仲間ともっと色んなことを共有していきたいと思ってる。マテが貴族だったことに驚いたし、動揺もした。だが、それ以上に私はみんなと共に冒険者をやっていきたい。だからこそ、マテの本当の気持ちを知りたい。どうせここには私とツェーリしかいないんだ。みんな揃ってるよりは気が楽だろう?」
よくもまあ、そんな恥ずかしいセリフを流れをぶった切って口にできるね。私には到底無理だ。
素性を隠して冒険者になったし、みんなに合わせて行動してきた。別に隠れ蓑にしてたわけじゃない。本当に仲間だと思ってる。でも、本音を口にしたことはほとんどない。そういう点でも抵抗があった。
私はツェーリを見た。
彼女がトモダチになってから本当に調子が崩れる。すぐベタベタしてくるし、他の人には気を使うのに私には遠慮なんてしない。
何が一番嫌って、それを嫌だと思ってない自分が嫌だ。本当にどうかしてる。
私は二人の視線に逆らえず、酒場でのフリージアとのやり取りを話した。
「本当はメッセンジャーなんてしたくないけど、もう王都を出るって聞いたから一応伝えとくよ。『いつでも貴方が戻ってこられるように席を空けておきます』だって」
「ふーん、好きにすれば?」
フリージアには関係のないことだけど、私は王女様の伝言に腹が立ってぞんざいな態度をとった。フリージアもこんな使い走りのような真似事を甘んじて受けなければいいのに。少しずつだが体に入った酒が程よい酔いをもたらしてくれたのに、一気に醒めてしまった。いや、あの王女様がその労力に見合う対価を用意してくれたならいくらフリージアでも従うこともある。私はそんな王女様のしたたかなところがいけ好かない。
「どうするかは、マテが決めることだよ。私はただ伝えただけ。でも、一つだけ言わせてもらっていいかな?」
私は意外に思った。この話は続かないと考えていたからだ。フリージアも不本意そうだったし、私もこれ以上触れるつもりがなかった。
彼女は冒険者として私の先輩だし、功績も私より格段に上だ。雲の上の人とも言える。下位の冒険者の憧れで、私も実際に彼女の戦いを目の当たりにして尊敬の念を強めた。さっきは王女様への嫌悪感から毒を吐いたけど、本当なら敬語を使いたい相手だ。それをフリージアが許さないだけで。
「確かに、王女様は自分の利益になることじゃなきゃそんな話を持ち掛けないよ。でもそれって彼女の立場からしたら当然のことなんだよね。そこに腹を立てるのは筋違いだよ。マテは自分の立場でその提案を受けたらどうなるか、ちゃんと自分の目線で考えなきゃいけない。感情に流されたら、大事な拾えるものも拾えなくなるよ。最終的にはマテが決めることだけど、私の今の言葉を頭の隅にでも置いといて」
同じ言葉を王女様から聞いたら私は激昂していたかもしれない。他の人からでも素直に受け止められなかったかもしれない。この時のこの場所のフリージアの言葉だからこそ、彼女の言う通り頭の隅ぐらいには置いておこうと考えた。
「マテって偉い人の家系なの?」
「望んでそうなったわけじゃないよ。だから冒険者になったんだし。今更貴族に戻る気なんてないから」
「……ふーん」
ツェーリがいつもと違う反応を見せたことに私は首を傾げた。口を閉ざして何かを考え込んでいるツェーリに戸惑った私は、なんと声をかけたらいいかわからなかった。
「あの王女様が何を考えているか、正直私もわからない。肝が据わっていて一筋縄ではいかないのだけは確かだな。話してくれて感謝するよ。力になれることがあったら遠慮しないで言ってほしい。仲間として協力できることをするから」
「ありがと」
話してみると案外気分がすっきりした。日差しに陰鬱な気持ちにさせられていただけに、頭のもやもやが少しでも晴れたのは私の体を軽くさせた。ただ気がかりだったのは、それからツェーリの口数が減ったことだった。
真夜中のうちに村につくこともできたが、迷惑になるということで、私たちは一度野宿をすることにした。女三人本来なら危険だけど、テューンがいればむしろ襲ったほうが可哀想だ。




