一休み
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「はぁ、やっとまともなベッドで眠ることが出来そうだね」
宿に着いて第一声はそれだった。声の主はマテだったが、みんな共通の思いを抱いていた。
加えて、俺と篠塚は半年前にこの世界に飛ばされて、初めてのことをたくさん経験したうえで、この劇的な日々を体験した。本当に目まぐるしい毎日だった。
この宿は冒険者御用達の宿で、パーティーメンバーが別々にならないように大部屋がいくつもある。割りかし高めだが、今回はウルリカ王女が負担してくれた。いつまでも執務室の床に寝かせるわけにも行かないという配慮だ。
「そういえば、ラフィカの姿見なかったね」
「そうだな。エルドリッチにコキ使われてるはずなんだが、話題には一度上がったがそれっきりだった」
篠塚の言葉にテューンが頷く。
「ラフィカってどんな人なの?」
今までずっとマテの傍にいて寡黙だったツェーリが口を開いた。マテと囁くような声でやり取りはしていたが、いつの間にこんなに仲良くなったんだ。
「冗談みたいなやつだ。せっかく精鋭部隊として出世の道を歩んでたのに、全部投げ捨てて冒険者になった。思うところも多々あるが……まあ、それでも私たちの仲間だ」
テューンの含みのある言い方も、ラフィカを引き入れた本人である複雑な心中からくるものなんだろう。ただ、最後のセリフは以前のテューンなら絶対に言わなかったのではないかという予感があった。
彼女はパーティーの姉御役であると同時に、どこか冷めたような印象を受けた。少なくとも、ゼフと同じでラフィカが逃走兵である事実を知ったら、師匠と出会う前なら問答無用でラフィカを追放していたはずだ。
やはりダンジョンでの出来事が影響しているんだろう。
「はーい! オーステア! テューン! その他のみなさん、元気にしてたー?」
「まだ半日しか経ってないよ」
扉の向こうから教育テレビのお姉さんを彷彿とさせる元気の良い声がする。そこに突っ込みをいれるのは、やる気があるのかないのか分からない独特の口調のソフィアだ。
彼女たち二人は仲間の亡骸を弔うために別行動をとったが、また会う約束をしていた。その待ち合わせ場所がこの宿というわけだ。
そして、部屋の中に入る二人。
「もう葬儀は済んだのか?」
テューンがそう聞くと、フリージアは少しだけ陰を落として、
「いやー、まだだよ! みんなにも葬儀に参加してもらいたいと考えておりまして。いかがでしょう?」
「……むしろいいのか? 彼らとの付き合いは一日とない。迷惑にならないか?」
「一緒にダンジョンに潜った仲間じゃん! 自分の死に際にいたなら尚更だよ!」
「そうか、なら行かせてもらうよ。なあ、師匠?」
「もちろんだ。彼らは勇敢に戦って死んだ。敬意を表さなければ冒険者の名折れだろう?」
「はっはー! オーステアのとこの冒険者も似たようなもんなんだね!」
「そうだな。こちらもそう変わらなくて安心しているよ」
「それじゃ、私たちも王女様に会いにいくからまた明日迎えにくるよ!またね!」
フリージアはブンブンと手を大きく振り、ソフィアは丁寧なお辞儀をした。突然訪問してきて、サッと去る。まるで嵐のようだった。まあ、それが彼女らしいといえば彼女らしい。
彼女ら二人が帰ったあと、一呼吸置いてゼフが口を開いた。
「今後の予定だが、村に無事を伝えにいこうと思ってる。村にはお別れも言いに行かなくちゃいけない。だが、諸々の事情があって全員は無理だろう。王都に残るやつと、村にいくやつ。二手にわかれよう」
村って何のことなの、とマテに耳打ちするツェーリ。
私たちがお世話になってる村のこと、と返すマテ。
仲睦まじいのは良いことだ。喧嘩してるよりも何倍もね。でも、めちゃくちゃ違和感があった。
「ゼフ、それならおまえは王都に残れ。村には私がいく。おまえには気が気でないことがあるだろ?」
「……いいのか?」
「はい! 私とマテもテューンに付いてきます!」
マテの手を握りそのまま挙手するツェーリ。驚いたマテだったが、面倒な顔と満更ではなさそうな顔半々で結局行くことにしたようだ。
「ヤンはどうする?」
「僕はこちらに残ります。二人の仲を邪魔しちゃ悪いので」
苦笑いを浮かべたヤンはツェーリとマテのほうに視線をやった。
たしかにあの二人の和気藹々とした空間に入るのは気まずい。前はヤンがマテのポジションだったが、完全に席を奪われてしまったようだ。
「それじゃ、テューン、マテ、ツェーリで葬儀が終わったあと村に向かってくれ。あとは待機組だ。今日はもう他にやることがないから自由だ」
なんだかんだでリーダー的な役割をこなしているのはゼフの性分なんだろう。みんな指摘もせずそれに従っている。それだけで冒険者パーティーとしてのみんなの胸のうちが明らかになるようだった。




