尻に敷かれる男
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
エルドリッチの部屋を出た俺たちは今後のことについて話し合おうと、王宮を後にするため廊下をぞろぞろと歩いた。見送りのためにエルドリッチが先導する。その顔は晴れ晴れとしていた。
「よっぽど苦手なんだな」
「ああいう堅苦しいのは性に合わねえのよ。あんたなら分かってくれるだろ?」
「まあ、そうだな」
エルドリッチのぼやきに同意する師匠。
「そういえば、以前からレナート卿とは面識ぐあったんだよね。ドラゴン退治をした時に」
「おう、リョウタ、よくわかってんなぁ。もしかして俺のファンか?」
「いや、そういうのいいです」
「はぁー、俺のメッキも剥がれちまったなぁ。もう少し俺に優しくしてくれてもいいんじゃねえか?」
「貴方に優しくしたところで得られるメリットが何一つ浮かばないのですが、よろしければ私めにもお教え願えないでしょうか、エルドリッチ様?」
突如背後から声をかけられ、ピタリと足をとめるエルドリッチ。不機嫌なのかわからないいつもの厳しい顔つきのウルリカ王女が立っていた。
「ウルリカ、どうしてここに。ほら……王位継承とか……あー、そういうんで、忙しいんだろ?いやあ、俺なんかに構ってる暇あるんですかねえ」
なぜかしどろもどろのエルドリッチに首を傾げる俺。そんな様子のエルドリッチにツカツカとウルリカ王女は近づいた。その堂々たる気品はまさに王の風格に相応しいものだった。
「昨晩、多忙だったはずの人物が歓楽街に姿を見せた、と目撃証言が寄せられたのですが……それも、ラルフを引き連れて」
「ちょっと待て。そいつがラルフだって証拠あんのか?」
「彼ほど目を引く人物はそういないでしょうね。貴方と一緒なら尚のこと」
「あー、イケメン高身長で挙動不審?」
仲間の俺たちならすぐにラフィカだと連想できる特徴をマテが述べた。ちなみに、ラルフとはラフィカの本名で、軍から逃亡して冒険者として身を潜めた時に付けた偽名だ。
ウルリカ王女はマテをちらりと一瞥し、再び責めるような目でエルドリッチを見た。
「そりゃ……うん、我慢できなかったの……」
なんか可愛く言ってるつもりだろうけど、気持ち悪いだけだぞ。
さすがにこの二人の間に入っていけないので喉まで出かかったその言葉をのみ込んだ。
「おまえ、さっき女も酒もないってぼやいてなかったか?」
「テューン、てめえ人の傷えぐるんじゃねえよ!」
「エルドリッチ」
ウルリカ王女の冷え切った声が張り上げてもないのにはっきりと耳に残った。勝手気儘に振る舞うエルドリッチでさえ凍りつく。
「貴方のためにとっておきの仕事を用意しておきました。お見送りが済んだらレナート卿のもとまでお越しください。寄り道せずに」
ふっとウルリカ王女は笑い掛け、返事を聞く前に視線を移した。視線の先には師匠がいた。師匠は手に持っていたエメラルドのネックレスを差し出した。そして、ダンジョンの中、国王様だった人物が残した言葉を伝えた。
「何もして上げられなかったことを悔やんでいた。彼は安心していたよ」
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。何かあれば何なりとお申し付けください。今は少しばかりごたついているのでご期待に添えられないかもしれませんが、いずれ必ずお返し致します」
「なに、私にも得があった話だ。これからも変わらぬ友好な関係を望むばかりだよ。それに、頑張ってくれたのは弟子たちだ。労うなら彼らを労ってほしい」
「はい、落ち着き次第改めて場を設けさせていただきます。それでは、いずれまたお会いできる日を楽しみにしております」
ウルリカ王女は深々と頭を下げた。つられて俺たちも頭を下げる。王宮の礼儀作法なんて俺たちには分かる由も無いし、唯一明るいマテは憮然とした表情でそっぽを向いていた。隣にいるツェーリでさえ頭を下げているのにもかかわらず、だ。
そして、ウルリカ王女が立ち去ったあと、静寂を打ち破るようにぽつりと篠塚が呟いた。
「なんか、二人って夫婦みたいでお似合いだね」
「こえーこと言うなよ!」
エルドリッチの悲鳴にも似た声が王宮の廊下に響いた。




