義賊ジークリット
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「随分楽しそうにしているな」
そう皮肉げな第一声を放った人物は黒色の少し癖のある髪を肩まで伸ばした壮年の男だった。その男の冷ややかな視線に珍しくエルドリッチはしかめっ面を全開にした。
「エルドリッチ、私を紹介してくれないのか?」
「……あー、こちらは忠義に厚いと評判のレナート・カーライル卿だ。東の辺境伯と一般じゃ有名だ」
「君たちとは一度会うべきだと判断させてもらった。その結果、奇しくも懐かしい者の名前を耳にしたわけだ。義賊、ジークリット。因果なものだ……」
「知っているのか!?」
ゼフが声を上げた。礼節も忘れて言葉を遮られたというのにレナート卿は機嫌を損なわずにむしろ朗らかな笑みを浮かべた。
「一度刃を交えたこともある。やつのやってることは民のためとはいえ秩序を乱す行いだ。私の領地に足を踏み入れた以上、私には捕らえる義務があった。それに、やつのやり口も気にいらん」
レナート卿は続けた。
「ジークリットは悪事を働く者どもを皆殺しにする。慈悲はなく、苦痛も与えない。彼女に遭遇して生きながらえた悪党は一人もいないだろうな。ともかく、彼女には生と死、善と悪の区別しかなく、その中間にあるものを切り捨てる傾向がある」
「……ご無礼をおけしました。差し支えなければ、外見の特徴をおしえていただけないでしょうか?」
先程とは打って変わって、冷静さを取り戻したゼフは丁寧な言葉遣いでレナート卿にさらなる情報を求めた。
「礼儀は弁えているようだな。私も昔はよく目上のものにたてついたものだ。とやかく言うつもりはないが、良い心がけだ。ジークリットの外見についてだが、私も奴の顔を見たわけではない。やつは全身を黒ずくめの衣装で覆い、辛うじて鈍い銀の瞳が隙間から確認できるぐらいだった」
ゼフは天を仰いだ。
黒ずくめの外見に鈍い銀色の眼。ほとんど情報がないといっても過言じゃない。銀色の眼は魔族である証明だろう。それだけは、ドロテアの証言の裏付けになった。
「あまり期待に添えられなかったか。しかし、ジークリットの件については私も協力を惜しまないつもりだ。質問があるなら何でも聞いてくれて構わない」
「どうしてそんな……見ず知らずの俺に」
「私にも利がある話だからだ。なぜ私の一族が辺境伯として東部に広大な領地を保有しているか、なぜ東部において辺境伯が王と同等の権限を有しているのか……それは全て、魔族の侵攻を防ぐためにあるからだ。トリュン国最初の王、ドグラス様の命により、私たち一族は今日に至るまで、魔族と戦うために己を磨き上げてきた」
レナート卿はまっすぐにゼフと向き合った。その言葉が真実であると、その瞳は物語っていた。




