偉大な冒険者
ーーーーーーーーテューンーーーーーーーー
まずは一撃。剣で与えたときよりも大きく陥没する。
鎧の騎士は野獣のような雄叫びをあげる。あるいは、子供のような癇癪を起こしたか。いずれにしろ、私は動じない。慢心もしない。なぜなら、これは私の体力が尽きるのが先か、鎧の騎士が動かなくなるのが先かの消耗戦だからだ。
そして、また一撃。
回数を重ねる度にコツを掴んできた。力みすぎた武器の持ち手を加減し最適化する。常に呼吸に気をつかい、体力の消費を極限に抑え、最高のダメージをぶち込む。頭の中に描いた戦いのイメージがぶれないように逐一修正する。単純な動作の相手ならそれは容易い。慣れてしまえば、王宮ダンジョンでのあの絶望感なんかより全然大したことない。
やれる!
そう思った瞬間、鎧の騎士の動作が変化した。
初めて、鎧の騎士はガードしたのだ。防御のために大剣から手を放し、メイスを……私の武器を掴んだ。イメージから逸脱したその行動に私の思考は一瞬遅れた。そこに、鎧の騎士の腕が振り上げられ、私の顔面を殴打した。
どれほどの時間飛んでいたのだろう。気づいたら私は壁際まで転がっていた。意識を保てているのは吸血鬼になって強靭な肉体を得たからだ。普通の人間なら間違いなく死んでいた。朦朧とした意識が回復すればまだ武器を振るえる。
予備動作なしの一発でこれか……あの大剣を全力で振り抜かれたらひとたまりもない……。大丈夫だ。まだやれる。この程度で負けを認めるわけにはいかない!
手から離れたメイスは鎧の騎士がぞんざいに投げ捨てた。そして、再び大剣を拾うと私に向かってゆっくりと歩きだした。だが、私はまだ立ててすらいない。体が言うことを聞いてくれない。脊髄を痛めた可能性もある。
「テューン、立って! 休んでる間はないよ!」
「分かってる……!」
気持ちは前向きでも体がそれについていけていない。普通なら死んでたとか、気絶してないからマシとか、そういう半端な言葉は頭から捨て去るべきだ。勝つか負けるかしかない。だから、私は立たなければならない。
「アアアアァ! ちくしょう! 寝ぼけてる場合か、私の体!」
自分の身体を叱咤し、辛うじて動いた腕で半身を起こす。だが、これだけじゃ間に合わない。
はやく、はやくしなければ!
その時、一本の矢が鎧の騎士に命中した。それは大したダメージにもならない足止めにもならないはずの矢だった。だが、鎧の騎士は一瞬だけ動きをとめた。何に攻撃されたかを確かめるためだろう。そして、鎧の騎士は馬鹿正直に突っ込んでくる人物を視認した。
その人物とは、マテだった。
「全然勝てる気しないけど! 超絶鬱陶しいコバエみたいな動きなら、私がパーティーで一番だよ!」
振り下ろされた大剣は掠りもしない。手で捕まえようが足で払おうが、ひょいとかわしていく。その代わり、マテの攻撃は一つとして鎧の騎士を脅かすことはできなかった。
なるほど、確かにコバエだ。マテが鎧の騎士の気をそらしてくれた。遠くに見えるツェーリも一役買ってくれた。いつのまに二人が協力し合える関係になったのか分からないが、二人には感謝しなければならない。
そして、マテがパーティーと言ってくれたことに、嬉しさがこみ上げてきた。
もう一度やり直せたら、今度はちゃんと向き合いたい。
振り返れば、私が覚醒できないでいる理由は明白だった。不死身になったということが、さらに私を鈍らせたんだろう。だけど、根本的な理由は私が私自身の夢をないがしろにしてしまったからだ。
口にするだけで中身のない言葉に成り果ててしまったからだ。手段がいつのまにか目的になってしまっていたからだ。
フリージアのおかげで目が覚めた。
私は……私の夢は……大切な仲間とともに偉大な冒険者になることだ!




