元錬金術師
――――――――テューン――――――――
祭壇の間の状況は芳しいとは言えなかった。
リョウタは心臓を槍に貫かれ、もがき苦しんでいる。ゼフも耐えてはいるが満身創痍だ。表情が抜け落ちた顔をしていて、今にでもその場に倒れ伏しそうだ。
「はっはー、科学というものを齧ったせいでドロテアが私の魔術を消したことに変な先入観を抱いてしまったよ! なにせ彼女は現存する最古の錬金術師といっても過言じゃないからね! 私の及びもつかない錬金術を開発したのかと豊かな想像力を無駄に働かせてしまったわけだ」
ドロテアの挑発とも受け取れる言葉にいつもの調子で答えるフリージア。科学という言葉が初耳な私には言っている意味がわからなかった。だが、ドロテアの冷めた表情から、彼女が的を射た発言をしていることが伝わってきた。
鎧の騎士が手をとめ、こちらに振り返る。完全にゼフに背を向けた形になったが、ゼフにはその好機をモノにする体力が残っていないようだった。
「フリージア、それは一体どういうことだ?」
「よく聞いてくれたね、テューン! 実はね、ドロテアは錬金術師であると同時に魔術師でもあるんだよ! 私の祖国じゃもはやその手の常識は異世界人によって改められているけど、トリュンはまだ根強く残っている。私もその常識にいつのまにか引きずられてしまってたみたい」
フリージアは続けた。
「錬金術師は魔術師になる才能がなかった人間がなるっていう……そうだなー、落ちこぼれの烙印のような差別があるんだよね、この国に限らず。それはテューンもなんとなく分かるでしょ? 錬金術師もジャンルは違えどそれなりに社会貢献してるにもかかわらずね。だから、わざわざ魔術師が錬金術師の真似事なんてしないし、逆も然り。そこで思い出したんだけど、昔はそんな棲み分けなんてなかったらしいんだよね。ということは! ドロテアが魔術師でもあるなら、私の魔術を消した方法がいくつか思い当たる。つまり、彼女は私にとって未知の力を使う脅威じゃなくなるってわけよ! まーでも、少なくとも私と同等かそれ以上の魔術師であるのは間違いないね!」
常識人なら最後の一言で非常に悩ましくなるところだ。それの意味するところを理解しているはずなのにどこかフリージアは緊張感に欠けている。
私はどうやらフリージア寄りの人間らしい。余裕のない時の私ならあるいはフリージアを責めていただろう。パーティーの存続こそが私の願いだったからだ。だけど、私の本当の願いは別にあることを教えられた。私が常々口にしていたこと。口にしておきながらないがしろにしてきたこと。フリージアには感謝してもしきれない。
「それで? 私が魔術を扱えると見抜いたところで何かを覆せるのか?」
「え? そういう話してないよ?」
「……なに?」
「単に私だったらドロテアをブチのめすことができるって事実を話しただけ。さてさて、私も元錬金術師だし、似た者同士仲良く殺し合いしよっか!」
にんまり笑うフリージアににたりと歪に笑うドロテア。
「面白いガキだとは思っていたがこれほどまでとは! 魂の器が三つ壊された時点でもはや掛ける慈悲はなかったが、ちゃんと殺したあとに墓を建ててやろう。それが私のおまえに対する敬意だ」
「墓を建ててもそこに入るのはドロテアだよね! テューン、私の仇は譲ってあげる! 私はドロテアを倒すから!」
「ああ、任せてくれ!」
私は剣を抜いた、鎧の騎士に向かって。恐怖は湧かなかった。思考はこれまで以上にクリアで、自然と笑みがこぼれた。
先制したのは鎧の騎士だ。やつは地面を蹴って、全力で私に刃を向けた。




