気づかされたこと
――――――――テューン――――――――
「ちょっと待ってくれ。フリージア、今どんな状況か分かって言ってるのか?」
フリージアの無謀とも言える発言に思わず口を出してしまった。
「全て私のミスだよ。私のパーティーメンバーはみんな私を庇って自分を犠牲にした。私さえ目覚めればこの悪夢を終わらせることが出来ると信じて託してくれた。そういうところでしょ?」
どうやら頭に血がのぼってとか、絶望的な状況を悲嘆してとか、そういうヤケになっての行為ではないらしい。彼らはお互い全幅の信頼を寄せていて、それに応えるために動いている。だが、傷一つ負わせられなかったあの鎧の騎士に対して果たして対抗策などあるのだろうか。
だからこそ、私は聞かざるをえなかった。
「……勝ち筋が見えない圧倒的に劣勢な戦いなのに、どうしてそんなに躊躇なく決断できるんだ? こちらの攻撃は一切通用せずに、一撃で叩きのめされたのに、どうしてまた立ち向かうことができる? 中間がいなくなって、たった一人なのにどうして……」
不死身でもないのに。
私は最後の言葉をのみこんだ。なにかとんでもない過ちを犯している気がしたからだ。だけど、私はそれが何か掴めていない。不死身であることはフリージアには関係のないことだというのは確かだ。それでも、彼女の瞳は揺るがない。
「私は命を危険に晒さないと生きてる実感を得られない類の人間らしくてね。ゲルシュでの暮らしは不自由こそなかったけど退屈そのものだったよ。両親は私のことを最後まで理解してくれなかった。けど、私の人生を縛り付けるほど頑固でもなかった。ディランはその時から私と一緒にいてくれた。彼は私の家の使用人だったから。それで、冒険者になった私の最初の仲間でもある」
フリージアは続けた。
「仲間が増える度に私は全員に尋ねた。私についてくればまともな死に方は出来ない。死ぬことよりももっと苦しいことがあるかもしれない。それでもいいなら私についてきて、って。みんな私を選んでくれた。だから、せめて私はみんなが眠るお墓ぐらいは安らかなものにしないといけない。私に限らず、生き残ってしまった冒険者ってそういうもんでしょ、テューン?」
彼女の眼を私はちゃんと見ているだろうか。彼女と向き合えてるだろうか。ただ、彼女に対して抱いていたモヤモヤとした感覚の正体だけは分かった。
フリージアは私の憧れていた冒険者像そのものだ。冒険者を目指すきっかけとなったあの人と性格こそかけ離れてるが、その生き様はまさに私がそうなりたいと思った姿に他ならない。
そして、今の私の現状はその理想から乖離しているからこそ認めたくなかった。
私の濁ってしまった夢が、私の色褪せてしまった憧れが彼女を通してまた鮮やかさを取り戻していく。私は冒険者になりたかった。自分の意見を押し付けて、使えないなら切り捨てた。最後には誰とも組めなくなっていた。ゼフたちとパーティーを組んだあとは、気を揉んで、打算を繰り返して、優しさからではなくパーティーに固執しているからこそみんなに尽くした。
オーステア様は恵まれていると言った。そう、私の意識の問題だ。そして、それを今痛感させられた。
私は……心から仲間を信用できていないのだ。心のどこかで道具のように捉えている自分がいる。
フリージアの言葉は当然のことだ。仲間に敬意を払う。死んだあとだってそれは変わらない。いつのまにか他人を尊重する余裕を私は失ってた。なにもかもがうわべだけに過ぎなかった。
私は今までの自分の行いを恥じた。
「……フリージア、すまない。私が間違っていた。こんな未熟者でも構わないなら私も一緒に戦わせてくれないか?」
「いいよ! ふっふーん、さてさて、テューン。私と派手に暴れようではないか!」
「なら、ボクはここでみんなを守ることに専念します」
終始無言だったヤンが守りを買ってでた。ツェーリの心配をしていると一目でわかる仏頂面だったが、単独行動に出るほど短絡的ではなかった。それどころか、協力的でさえいる。
そのことからも、ヤンが極めて理性的で、合理的に物事を捉えることができるエルフなのだと認識できた。
「ヤン、ありがとう」
「精霊がツェーリの無事を教えてくれてますからね。それに、オーステアさんについていくと決めたのはボクたちです。その責任は全うします。ですが、もしツェーリの身に何かあったら、ここから出られたとしても、これから先ボクはもうオーステアさんたちとは関わり合いを持ちたくありません」
「そうならないことを願うよ」
ヤンの言い分はもっともだった。そして、オーステア様と同じく私もそれを望んでいない。それだけじゃない。もう犠牲者は出させない。そのために、私は全力を尽くす。
しっかりと気を引き締め、フリージアと二人で来た道を引き返した。




