新たな敵
―――――――――テューン―――――――――
私たち二人は程なくして、ディランを犠牲にして生き延びた地点に帰ってきた。
「まさか……倒したのか、一人で」
そこには、あの壁に張り付いていた化け物に馬乗りになったまま死んでいるディランの姿があった。その身体は決して深くない切り傷が無数にあって、装備に至るまで血まみれの状態だった。常人なら身動き一つ取らなくなる出血量なのに、ディランはその身体であの化け物の胴体をぐしゃぐしゃになるまでチェインフレイルを浴びせつづけたのだ。
私たちに危害が及ばないように、死ぬとわかっているのにディランは化け物をねじ伏せたのだ。その執念に敬服せずにはいられない。
「逃げずに一緒に戦ってれば……」
「テューン、それは結果論だよ。もしもばっかり考えてたらディランの気持ちも浮かばれないからね? こういう時はスパーッと……素直に感謝すればいいよ」
「そうか、すまない……」
「ごめんね、ディラン。あとで必ず戻ってくるから。それまでもうちょっとだけ我慢してて」
ディランの肩に手を置き、フリージアはそっと手を添えた。
彼女の心中は穏やかではないはずだ。悲しみや怒りを全て呑み込んで現実を受け止めている。私にとってのゼフがフリージアにとってのディランなのだとしたら、私はこうして冷静さを装えないかもしえない。
「フリージア、ここまで来て聞くのもなんだが、どういう作戦でいく?」
「あると思ってる?」
「だと思ってたよ」
「でも、一つだけやり残したことはあるよ! それを試してからでも遅くない。勝ちの目はまだあるよ。テューンはなにかないの?」
「……私はオーステア様の弟子で、その資格はあると自信を持ってた。だけど、最近怪しくてね。ただ力を分け与えてくれる異世界人、としてしか師匠を見てなかった。だから、師匠という存在が仲間の中に入り込み、かき乱す度に妬ましくすら思っていた。みっともないことこの上ない。師匠はそんな私にも親身に接してくれたんだ。だから、やれること以上のことをやりたい。今の私にはそれぐらいのことしかできない」
「いいね、今のテューンは私のパーティーに誘う価値があるよ。荒れてた頃だったら分からなかったけど」
「……私を知ってたのか?」
意外だった。確かに悪い意味で有名だったけど、フリージアからしてみればそのへんの雑草と変わらない人間だったはずだ。
「その時にはもうテューンは王都を離れてたからね。パーティーに誘うつもりだったよ。テューンがまともな人間だったらね! まあ、私感覚のまともってちょっとズレてるかも」
「それは……違いないな」
「そこは否定するところだよ! 全く、テューンは処世術というのを学ばないといけないね!」
そう私のことを叱りながらフリージアの口元には笑みがあった。釣られて私も笑う。
そして、フリージアの後方、闇の中で二つの赤い光がちらついた。
「フリージア、敵だ」
「位置は?」
「さっきまでフリージアの右斜め後ろ少し目線高めのところにいた。この暗さで距離も不明だ。二つの赤い光、おそらく何かの眼だ。それ以外の情報はない」
「充分だね。テューン、魔術で光を放つよ。目を焼かれないように気をつけて」
私はこくりと頷いた。
そのあとに響き渡ったのは鳥の鳴き声だ。大量の、壁や天井を埋めつくさんばかりの鳴き声。私はその声に聞き覚えがあった。
そう、今の今までその存在を忘れてた。王宮のダンジョンで遭遇した鳥の形をしたモンスター。そいつらがいつのまにか私たちを取り囲んでいた。




