ゼフ(覚醒)
そこは数多の死体が積み重なった平野だった。まるで戦争が起こったあとのような凄惨さだ。だが、この光景には違和感があった。みな同じ武装をしている。どちらが勝ったにしろ、一方的に蹂躙されないかぎり、戦場が一つの側だけの死体で埋め尽くされることはないはずだ。
その答えは、より多く死体の山が築かれた場所にいた。
「ここにいる全ての者たちは私の復讐のために命を落とした」
師匠はこちらに振り向かず、このあたり一帯を見渡した。
東を向こうが、西を向こうが、あるのは死体だけ。引き裂かれ、ねじ切られ、破壊されたその数々。むせかえるような悪臭に俺は若干顔をしかめる。さっきまで五感を封じられた空間にいたのに、ここはその逆で五感の刺激が強すぎる。ここが記憶の中のシーンに過ぎないと理解していても慣れるものではなかった。
「かつての私には恋焦がれた相手がいた。私を閉ざされた世界から救い出してくれた英雄。ともに世界を旅した仲間でもあった……まあ、結局その恋は叶うことはなかったのだが」
師匠はこちらを振り返って自虐的な笑みを浮かべた。
「彼は旅仲間の魔術師と結婚して一児の父親となった。みっともないことに、私が自分の想いにケジメをつけたのは、その赤子を初めて見た時だったよ。この戦争が起こったのはその矢先のことだった。すでに引退した身だった二人を敵国は無視できなかった。一線を退いたとはいえ世界に名を馳せていたからな。二人は宣戦布告ののち速やかに謀殺された。妻は首を掻き切られ、夫は胸を何度も刺された。そして……赤ん坊は首を絞められて死んでいた。私が最初に発見したんだ。苦楽をともにした仲間とこの腕に抱いた子供を」
師匠は激情のままにまくしたてた。
覚醒してより深く師匠と繋がったせいだろうか、それとも俺自身が共感を覚えるからだろうか、師匠の話は俺にとって他人事ではなかった。その結末が目の前の光景だったとしても、師匠を非難するようなことはしない。
「私は……決して善人ではない。だから、私とともに歩む未来は最良のものには絶対にならない。復讐とは、多くの人間にとって果たされないものだ。そして、時間が傷を癒してくれるわけでもない。ただいつまでもそこにいるわけにはいかないというだけだ。だが、少なくとも私といれば真相には辿り着けるだろう。あとはゼフ、自分次第だ」
「……ありがとう、師匠。俺は正直あんたのことを信用してなかった」
「だろうな。君が一番あの中で打算的だった。それは悪いことではない」
この人には本当に頭が上がらない。
「それで、俺一人の覚醒であの化け物を退治する方法はあるのか?」
「ある。私は君の記憶の中の私で、厳密には現実の私とは別の存在だが、現実の私も同じ判断を下すことだろう。まあ、皮肉なものだよ。復讐に染まった君があのスキルを獲得するなんてね。だからこそ、私たちは窮地を脱することができるわけだが」
師匠がにやりと笑う。本当に敵に回したくない笑顔だ。
「ゼフ、幸も不幸も私とともにある。君は私の弟子だ。それを忘れるな」
「ああ、そういう約束だったな。次からはもっと心をこめて師匠と呼ばせていただくよ」
意識が遠ざかる。全身を駆け巡るように憎悪と無力感と憤怒が入り乱れる。これはオーステアの、師匠の感情だ。そして、最後には温もりが全身を包み込んだ。彼女が俺たちのことをどれだけ大切に思っているのか骨身に染みる。それが行きずりの契約から始まった関係だったとしても、彼女に対する感謝が絶えなかった。
メインキャラの容姿が掴めないとの指摘があったので、近いうちに六人の設定を公開しようと思います。




