切り札
――――――――オーステア――――――――
成功した。
深い闇の中、どす黒いエネルギーが滞留する空間で五感を奪われながらも私は確信した。一か八かの賭けだったが、ひとまずほっとする。だが、ゼフが何のスキルを引き当てるかも運次第だ。あの異世界の神に有効打にならないスキルを取得してしまえば、エルドリッチのあの剣があったとしてもかなり勝ちの目は薄い。おそらく千回切り刻んでもアレの体力の半分も削れないだろう。だが、私たちはやるしかなかった。やらざるをえなかった。
そして、その心配も杞憂に終わった。
「ゼフ! 可能ならばこの闇を打ち払え!」
私の声に応じるかのごとく重く息苦しい闇は取り払われた。
そこにあったのは神々しい光を纏ったゼフの姿だった。隣にいたテューンの顔はなかなかの見ものだ。だが、今はそこに注意を向けている場合ではない。ゼフが瞬く間にこの空間を光で満たし、光を纏っているとなれば答えはただ一つ。自然と口元が緩んだ。
「『聖気術』か! ゼフ、三十秒でいい! 私を守れ! 使い方はもう分かっているだろう?」
「なんだこれは! まさか……そんなまさか我が神の御業が雑兵ごときに……そんなことが許されるとでも! む、なんだこの力は……キサマなにをしているっ! まずいまずいまずい、その力は我が神と真逆のもの。なぜそのようなものが突然! 突然降ってわいたように! ならん! ならんならん!」
サージェスの取り乱しようは私の予想を裏付けるものだ。これで安心して遠慮せず叩き込めるというもの。止めてみせよ、サージェス。私の弟子はそこまで甘くないぞ。
今まで静観に徹していたサージェスも魔術を詠唱する。敵は物量で私の行動を阻む手段にでた。触手のように絡み合った骨の塊から指の先ぐらいの細かな骨のかけらが大量に射出される。
その全てを、ゼフは撃ち落とした。
ゼフの指から弾かれた光球は空中で分裂を繰り返し、正確に飛来する骨を捉えた。
攻撃が無力化された敵の判断は早かった。腕を持ち上げ、肉弾戦に持ち込もうと接近する。
私は空間収納スキルで盾を引き出して、それを私と異世界の神との間に投げた。煌びやかな、およそ荘厳とはかけ離れた聖騎士の盾。我が愛しの英雄の装備。
それをゼフが掴んだ。
ゼフから溢れ出していた聖気が盾に収束する。そして、ゼフを包み込むように発散される。膜のように形成された淀みのない統制がとれた気の流れ。それが、骨の圧倒的な質量を持っての突進を一歩も動かずして防いだ。
二度目の奇声が轟いた。聖気に阻まれ、それでも神は強引にその膜を突き破ろうとする。徐々にゼフの体が踏ん張っているにもかかわらず後ろに押されていく。
そう簡単にはいかないか。
私は考えを巡らせた。だが、結論に至るよりも早く、敵に飛びかかる男の姿が映った。
リョウタだ。リョウタが使うなと忠告しておいた左腕で異世界の神の下腹部を力のかぎり殴打した。その衝撃で神は後ろに大きく仰け反り、リョウタは竜体化できていない部分から千切れながら反対側に吹き飛んでいった。
半ば呆れながらもチャンスを作ったリョウタの行動に私は賞賛を送った。
あともう少しだ。もう少しで完成する!
自分の体内で練り上げられる聖気が仕上がってきている。だが、それを指を咥えてみていられるほど敵は優しくない。
またあの黒い球体を作り上げようと手に持った頭蓋骨を前に突き出した。あれの残滓を取り除くことは出来たが、直撃したら今のゼフをもってしても跡形もなく消滅してしまうだろう。私のスキルが発動するより早く球体は練り上げられる。
「悪りぃがそれはさせらんねえな」
エルドリッチの剣が神の身体を貫いた。一本、二本、三本と。防御を捨てて攻勢にでた神に抗う術はなかった。ほんの僅かに球体の完成が遅れた。
それで充分だ。私は聖気に変換した体内の魔力を全て放出して、それを右手に集めた。これで準備は整った。
「思い知れ、これが聖気を纏った竜の一撃だ!」
ーーーホーリーブレス!
私の右手から放たれた光の奔流は、闇の球体をかき消し、下半身を含む上の部位を全て浄化させた。ほとばしる光が部屋全体を白く染める。部屋の各所で蠢いていた骨は糸の切れた人形のように大きな音を立てて崩れ落ちた。
その音が鳴り止んだあと、部屋はしんと静まり返った。
サージェスを見ると、驚愕の表情を浮かべてはいるがその目は死んでいなかった。
まだ終わってない。それを理解するには充分な情報だった。ぼとりと、神がいた場所に一つの頭蓋骨が落下する。それはあのドレスを着た骸骨がかかえていた頭蓋骨だった。間違いなくあの神の邪悪なオーラを宿していた。




