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ここに揃うは正義の志士達

諸国が跳梁跋扈する中で、とびきり酷い国が一つ。

グランドオールと呼ばれる軍事国家があった。

軍部の専政に未だに残る貴族優遇と腐敗の要素をこれでもかと抱え込んではいたが、今はまだ他国の侵略が成功し経済が奇跡的なバランスで保たれているからこそ巨大な力と威をもって近隣諸国を圧迫し続けていた。


しかしその代償に虐げられた人々がいた。

貴族に軍人にと・・・虐げられた人々がいた。

グランドオールは奇跡的に巨大な力を保ってはいた・・・が唯一の失敗は弱者の不満を無視していたことだった。

隣国に拠点を構える革命軍に旗印と大義を与えてしまったことだった。





革命軍REO

そう呼ばれる組織がある。

構成員数も長すらも拠点の正確な位置すらほぼ不明。

しかしグランドオールに反する一大勢力であると誰もが信じたし、弱き者はその名の下に募った。


帝国の奥地、誰もが足を踏み入れぬ場所。

そこにしつらえたかのように一軒の建造物があった。

建造物とはいっても、最低限の雨風を防ぐ機能しかない質素な二階建ての小屋。

現代社会においてもあり得ぬ程に先時代的な小屋。


敢えて一つ注釈をつけるとするならば、その小屋の入り口に完全武装の男性が立っていた。

全身にプロテクタを纏い、腰には一振りの長刀。

髪は短く刈り上げ一見真面目そうにも見えるが、眼は濁り切り全てに絶望していた。


「・・・・・・・」


硬く結ばれた口が僅かに動く。

そんな彼の目の前で空気が歪んだからだ。

空気が歪み圧縮し、、、そして二つに割れる。

中からぞろぞろと複数の人が出てくる。


不可解な現象が目の前で起こっているというのに男の無表情は変わらない。

ただ黙って彼らの為に扉を開く。

そして一礼しそのままの姿勢で待機するだけ。


「ご苦労様」

「・・・・・・」


声をかける者もいた。

しかしその男はお辞儀の姿勢のまま黙するのみ。

声をかけた方も答えが返ってくるとは思ってなかったのかそのまま扉をくぐっていった。


「・・・・・・・・」


全ての者が小屋の中へと入り、目の前にあった不可思議な門が閉じられる。

男はそれを確認すると小屋の扉を閉じた。

そして黙したまま、また扉の前に立つ。

それが自分に課せられた使命だと言わんばかりに。




「ひゃあっ、相変わらず拠点防衛隊隊長は極まってましたねぇ」

「・・・・私語(しご)は慎めケルビン、死期(しご)を迎えさせるぞ」

「つ、つまんねえ!」

「っ///」


先程、門の男に声をかけた青年がまるで触れてはいけないものに触れて飛び退くような奇声を上げまくる。

金色の髪に青と緑のオッドアイ。

しかし明らかにコンタクトを両目に入れてその色にしたことが分かる不自然で不健康な色をしていた。

軽薄で狂気を孕んだようにもみえ、明るい性格と簡単に評せそうにもなかった。

実際彼の腰に帯びた武器はいくつものピック、、、拷問専用の大長針だった。


その青年に注意しようとして逆に変な失敗を犯したのは茶髪の大男。

全長二メートルにも渡る大男。

灰色のフードを身に纏い、ゴーグル付きのヘルメットを被りと『いつでも容姿を隠せる』恰好をしていた。

今は素顔を晒していて、意外にもその素顔は精悍だった。

現在は赤面しているが。


「ケルビン、フドア、もうすぐ御前だぞ」

「へ~い」

「すいません、姐御」


列の先頭を歩く女性が叱責するように振り向き一睨みする。

ケルビン、フドアと呼ばれた二人は余程その女性が怖いのかぶるっと身体を震わせ謝罪の言葉を口にした。

淡い青色の髪を後ろでくくった女性にしては長身の女性はフンと鼻を鳴らし、再び歩を進める。


「私まで姐御(あねご)に怒られたじゃないか、まるで実の姉御(あねご)のように」

「わりい、わりい・・・そしてつまんね」

「っ///」

「何回繰り返すつもりですか二人とも・・・」


呆れたように後ろを歩く少年が声をかける。

少し柔らかい髪質をもった小柄で美しい少年だった。

中性的で柔らかい表情、何より声が耳に優しい甘い声。


「久しぶりに会えたのが嬉しいのは分かりますけど、毎月会えるんですから」

「ひゃあっ、それはそうだった!」

「・・・・・ミカエルには敵わないな」

「お二人の方が先輩なんですから反論してください・・・そういうのは望んでないです」


二人が一目置くような言葉をかけるが、そういうものにトラウマがあるのかミカエルは凄く凄く嫌そうな顔をして身震いする。


「・・・・・・お前ら」

「「「・・・・・・・・(黙)」」」

「まあ、いい・・・そろそろ全員被っておけ」


小屋の中に隠された隠し扉。

その厳重なセキュリティーを幾重もの生体認証をこなしてようやく開く。

地下へと続くその道をくぐった先には開けた地下拠点があった。

革命軍REOの本拠地レイナース。


革命軍の装備・設備を開発する技術職

革命軍の庇護下にある難民・被迫害者

御前を守る近衛隊

そして彼らの生活を支える生産業

多くの者がその拠点で生活をしていた。


謎の移動手段を通じて門を潜り、地下道を通じここまで来た彼らはそれぞれ顔や容姿を隠し始める。

それぞれがフルフェイスのマスクを被る。

動物を模したものがあれば悪魔のような非現実の生物を模した者まで。

しかし彼らの姿はそれが公式だった。


「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」」


無言で歩く彼らの姿を畏敬の眼線が幾つも突き刺さる。

手を止め足を止め、、、運転すら止め彼らに道を譲る。

彼らに平伏する。


声もかけない、出来得る限り身体的特徴を見ようとしない。

けれども彼らに敬礼を取っていた。

英雄の志士達に敬いの心を誰もが向けていた。


重い沈黙の道を抜け、彼らは道を進む。

蛙のお面を被ったミカエルあたりは既に喘息気味の呼吸を繰り返しているが、歩く集団は皆胸を張って一歩一歩進んでいく。

期待に敬意に応える為に。






レイナースには革命軍REOの長『御前』が常居している。

その為に御前館というものがレイナースの奥にある。

館に入る前に更に念入りな身体チェックを受け、武器も仮面もそこで預けられる。

武器を隠せそうなフドアのフードすらも。

念入りすぎるとも思えるが、『御前』が亡くなればまさしく革命軍は崩壊するので誰も反対はしなかった。


館の大客間にようやく通される。

そこには食事が用意され、また技術職や近衛を取り仕切る幹部が既に着席していた。

ここまで長い移動をしてきた彼らも指定された席に着きようやく一息つく。


「ふう、、、」

「ため息をつくな、ライカ!御前の居わすところだぞ!」

「ご、ごめんなさい!」

「まあまあ、姐御。流石にあれだけの視線の嵐は辛いって・・・特にライカは新入りなんだから」


ライカと呼ばれたツインテールの少女は涙目で必死に謝っている。

ツインテールの少女といえば明るさや向かん気・ツンデレだが、それとは一切無縁でおどおどしていた。

ケルビンの執り成しに姐御は一度は口を紡ぐがそれでも納得いかないのかぶちぶちと文句を続ける。


「幹部である以上、慣れておけ・・・これからはずっとああいう視線の中で動くことになるんだ」

「・・・・・ま、オイラ達よりはまだマシさ。レイナースにいつもいるから常時視線集中するからね。ね、近衛隊長殿?」

「・・・・・・・・そうだな」

「毎日、、、気が遠くなりそうです」


技術職、及び近衛隊の長が新入りのライカに面白おかしくレイナース常駐幹部の大変さを語り始める。

ライカは自分がもしそうだったらと顔を青くしていた。

ようやく空気が弛緩する。

姐御は自分が少しやりすぎたと思ったのか、ライカにすまんと目配せする。

ライカは気にしてませんよと首を振った。


「そういえば御前は?」

「趣味の野菜栽培だろ」

「いつも定例会議の刻限ギリギリまでやってるからな、あの人・・・・」


御前の数少ない趣味の野菜栽培。

地下であろうともLED照明など設備を整えれば可能ではある。

しかし仮にも革命軍REOの長である御前が農業にいそしんでるなど、知られたくないのが実情だ。


「それに・・・・・アイツはまた欠席か?」


革命軍REO幹部たちがここに集まるのは月に一度の御前会議の為。

革命軍の最高司令部での情報を共有し、方針の転換及び立案を図るため。

本来欠席など許されない場所である。

実際空席は僅か二つしかない。


現在農業にいそしんでいる最上位席である御前の席。

そして革命軍の中でも表に出る機会の多い実働第四部隊隊長の席。


「今、第四は何してたっけ?」

「確か、、、隣国に行ってた気がする」

「また遠くまで、、、となると」

「その予想の通りだろ」

「皆さんここまでお疲れ様です」


全員が立ち上がり、胸に手を当てる。

簡易の敬礼の仕草である。

新入りのライカが若干慌てふためいてはいるが、一見チャラそうなケルビンですら周囲に遅れず整然と敬礼をこなす。

大客間に神々しさすら身に纏って入ってきたのは齢17くらいの青年だった。


「姉様は特にお疲れ様です。グランドオールからわざわざここまで大変だったでしょう?」

「御前様、、、そのようなお言葉勿体なく」


姐御はそう言って頭を下げる。

御前は笑みを浮かべて姐御の手を握った。

姐御は実の弟に手を握られただけだというのに普段の様子とはまるで異なり大赤面である。


「今日は泊まっていってくれますか?」

「え、、、ええ」

「楽しみです」


姐御の口がだらしなく緩むのを見て、皆が暖かい眼を向ける。

しかし御前が自分の席へと向かい、姉御から視線を外した瞬間に彼女の顔が修羅へと変わる。

・・・・・幹部たちは殺されまいと笑いを必死でこらえた。

ライカは失敗して既に肩が震えているが。


「皆さん、座って下さい」

「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」


御前の言葉に一斉に皆が席に着く、、、ライカを残して。

大神官、法皇、、、御前は彼らと同じく神の僕のような不思議な魅力を持っていた。

そしてそれだけでもなかった。

自分よりも年上の者達ばかりの前であっても彼は少しも動じていなかった。


「では定例議会を始める前に、、、皆の名を」

「はっ!」


幹部代表である近衛部隊隊長が揃う全員の名を読み上げる。


「第一席 近衛部隊隊長ブック・マッケル

 第二席 情報統括ウィンディーネ・クラネリアス(姐御)

 第三席 技術部隊隊長クッカー・プラネリス

 第四席 実働第一部隊隊長フドア・オーレ・クラッカー

 第五席 特殊工作部隊隊長ケルビン

 第六席 表諜報部隊隊長ミカエル・ランキング

 第七席 実働第二部隊隊長ノア・ルーカス

 第八席 裏諜報部隊隊長マイレージ・オーバー

 第九席 実働第三部隊隊長ソフィア・アビゲイル

 第十席 物資流通管理部隊隊長ライカ

 第十一席 拠点設備管理部隊隊長クククク・クズニータ

 第十二席 実働第四部隊隊長・・・・・は欠席

 そして特席 拠点防衛隊隊長はいつも通り門前です。」

「そこまでで大丈夫。ありがとうございます、ブック」

「はっ!」


御前は敢えてわざわざ分かっていることを述べさせた。

全てを分かっていてわざとそうさせていることに皆悟っていた。

『御前の行うことには全てに意味がある』からだ。

近衛部隊隊長ブック・マッケルが座ると共に扉が開かれる。

皆の視線が扉を開いた少女に向けられる。


燃えるような赤色の髪の少女だった。

誰かセンスの良い髪切り師に任せたのだろう、ショートバングショートヘアに髪は整えられていた。

少し走って来たのか汗で少し萎んでしまってはいるが、彼女の眼鼻立ちの美しさを邪魔しないようにという配慮だったのだろう。

大きな瞳にくっきりとした鼻、小さく細めの顔。

十分に美少女だった。


彼女は息も絶え絶えにさっと跪く。

スカートがふわっと浮かび上がりそうになり、皆が一斉に目を逸らした。

・・・・・『女性まで』も

そしてやはり遅れ気味のライカは見間違いかと何度も目をこすった。

彼女だけはハッキリと事象を目にした。


「申し訳ありません、御前様・・・はあっ、はあ、、兄の代理で来ました、、、メアレン・キャストでございます。」

「いえ、まだ会議は始まってませんから」

「失礼しました」


彼女はそう言って、席に着く。

そして思い出したかのように、腰に巻いていたストールをひざ掛けのように掛ける。

その瞬間、皆が一斉(・・)()安心の吐息をついた

未だに目をこするライカを除いて


「何か?」

「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」」


メアレンは可愛い仕草で首を傾げた。

それはそれは可愛らしい仕草で。

なのに皆は何も言うまいと視線を逸らす。


「そういえば今日も履いてないんですか?」

「はい、勿論です」

「「「「「「「「「「御前様!」」」」」」」」」」


なのにその優しさを台無しにする御前様。

皆が不敬も忘れて一斉に突っ込んだ。

そして皆が動揺する中でも御前様はにこやかだし、メアレンはどこか誇らしげ。


ちなみに履いてないといえば分かるでしょう?

なにを履いてないかなんて・・・ねえ?

そう・・・アレだ。

何度も注意したであろう姐御ですらどこか疲れた様子でメアレンに対応しているくらいだ。


「性癖は人それぞれだ、、、しかし御前の前でくらい履け」

「お断りします、それにこれは願掛けですから」

「ひゃあっ、きっぱりだねえ!」

「実働第四部隊の隊長代理で来ているのだから、、、いやもういい」


あの姐御が諦める・・・・・

新入りのライカにしてみれば何事かというべき事態である。

部隊によってはかかわりがない部隊もあり、物資流通管理部隊と実働第四部隊とは残念ながら今まで関わりがなかった。


「あのう、、、ミカエルさん」

「なんです?」


運よく近くにいてそれでいて質問にちゃんと答えてくれそうなミカエル・ランキングに耳打ちするように問いかける。


「何で、、、その、、、、履いてないんですか?」

「ああ、、、、」


ミカエルは苦笑い気味に彼女に耳打ちする。

耳打ちが終わった後、ライカは凄く渋い顔をした。


「実働第四部隊隊長って、、、変態なんですか?」

「・・・・・・・泣くから止めてあげてください」


革命軍REO。

素性も何もかもが公表されない影に秘される対グランドオールの最大集団であり御旗。

味方ですら素顔を隠す程のトップシークレットを持つが、正真正銘正義の志士達である。

その実は最高司令部は有能でありながらもどいつもこいつも一癖あるファンキー集団だったりもするが。





「へくちっ」


男のくせに可愛いくしゃみをするものだ。

燃えるような赤毛の青年はポケットから紙ティッシュを一枚取り出すとしっかりと鼻をかんだ。

そして悪びれもなく当たり前かのようにくず紙をそのまま海へと流す。

そこは港街の港湾だった。


「なんかとんでもない汚名を着せられてる気がする・・・・」


彼は革命軍REOの最高幹部であり、彼らの中ではかなりの常識人である。

なのに『履いてない』妹のせいで早速新入りからとんでもない汚名を着せられている可哀想な人。

実働部隊第四部隊隊長リテイク・キャスト


「やっぱりメアに任せず自分で行けばよかったかなあ、御前会議」


既に手遅れの彼の言葉は潮風が攫っていった。


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