第二十六話 収束
シャルドがサウザーに辿り着いてすぐ、ウルスのハッカー部隊に、イニファイ側へ移された物流管理システムを解析させた。
その夜、解析側の観測ログに、外部から短い接触があったと報告が入った。通信経路は何重にも撹乱されており、元を辿ることはできない。
だが、触れた場所は見えた。シャルドはログを見つめた。
「そこを見るか」
作った本人でなければ、のぞかない場所だった。
シャルドの中で、仮登録試験で異常ログを残した人物と、一本の線でつながった。
シャルドは静かに目を閉じた。
その二日後、リンの助言を受けて、調査会社の当たり先を変えたところ、ベルサから北西へ向かう道沿いで、若い二人組の目撃情報が上がった。帽子で髪色は確認できなかったが、背丈と片方が赤い自転車である点が一致していた。
酒場の二階の小間にリンを呼び出し、シャルドはテーブルに地図を広げた。
「この先は、ダーガスに続いている。またどこかで働いているのか、その先に抜けたのか」
「ダーガスね。行ってみるかい」
「頼む」
シャルドは表情を崩さなかったが、声には少し熱がこもっていた。
リンは、地図を指差した。
「ベルサでは、自転車で街に入ったすぐのところで宿を取っていた。北西へ向かってダーガスに入ったのなら、この辺りの裏道のモーテルから当たる」
シャルドとリンは、ダーガスへ車を走らせた。ベルサから内陸へ入ると、低い森の切れ目に赤土の斜面がのぞき、日差しを遮るものが少ない開けた道路が続いた。街へ入る頃には、道路が何本もの幹線に分かれ、古い煉瓦の建物と、新しい白い倉庫が交互に現れた。大型車両が通るたび、路肩の埃が舞い上がる。ヴィオールは、この道を自転車で抜けたのだろうか。知らぬうちに、シャルドの目元に力が入った。
「この辺りからだね」
そう言うと、リンは目立たないよう一人で街中に入り、モーテルを七軒、コインランドリーを二軒、食堂を一軒当たったが、それらしい情報には当たらなかった。
シャルドは、車の中で調査員への指示を飛ばしていた。
リンは倉庫群を歩いて行った。しばらく歩いたところで、倉庫の奥に灰色の高い防音壁が目についた。
「ライリバー。ドローンの発着場か」
そのとき、搬入口から男が出てきて、慣れた手つきで脇の自販機で缶コーヒーを買い、いつもの場所らしい壁にもたれた。
リンは、自販機に寄り、自分も同じコーヒーを買った。缶を開けて一口飲むと、その男に声をかけた。
「ここって、ドローンを使っているの?」
「ああ。日に何度か、あの壁から上がる」
「見てみたいね」
「よそもんはみんなそう言うな」
「最近誰かに言われたのかい?」
「ああ、先日も若いのが目を輝かせてた」
「へぇ。どんな子だい?」
「あー、のっぽとチビの二人組だったな。のっぽの兄ちゃんが、人が乗れるのかって。旅客用じゃねぇって言ったんだが、乗りたがってたよ」
リンは缶を揺らして言った。
「自転車だった?」
「ああ、たしかそうだったな」
「片方、赤い自転車じゃなかったかい?」
「そうだったかもしれんな。なんで知ってんだ?」
「知人の子が、家を飛び出してね。背の高いのと小さいの、二人で動いてるらしいんだ。まだこの辺りにいるかな?」
「さあな、すぐに自転車で行っちまったよ」
リンは飲み干すと、ゴミ箱に放り込んで男に手を振った。
少し離れた倉庫の影で待っていたシャルドに合流し、路地に停めていた車に戻る。車に乗ると、リンはスマホを開いて操作しながら話す。
「ああいうのも目としては機能する」
「調査会社にも追加で当たらせる」
「あんたの弟、ドローン便に興味があるみたい」
「乗り込もうとしているのか?」
「分からない。けどこの先のガーヌチャーに、ドローン便が飛んでいる。経路を当たらせな」
その夜は、ダーガスのビジネスホテルに宿を取った。シャルドは、シグ・マルシュ名義の滞在IDを使った。表向きは、ウルスの研究交流員として登録されたものだった。
翌日も、リンはダーガスで聞き込みを続けた。夕方、シャルドの元へ調査員からの報告が届き、さらに北西へ行った先のモーテルで、三日前に自転車の若者二人が宿泊したとあった。髪色や自転車の色も一致した。
シャルドは、同じホテルに泊まっていたリンの部屋を訪ねた。
部屋には、旅慣れた女の荷物が雑然と置かれていた。ベッドの上には開いたままのバイオリンケースがあり、小さな机の上には書き散らした譜面と地図が広がっていた。
シャルドは一瞬だけ譜面に目を留め、それからリンに告げた。
「ガーヌチャーを探りたい」
リンは散らばった紙を無造作に重ね、バイオリンケースを閉じた。




