22.たかはし けんた(5)の証言4
「黒いおじちゃん?」
「りっちゃん!そのおじさんって誰?」
「りょーくんもよ!知ってる人なの!?ねぇ!」
鸚鵡のように繰り返す祐輔に、驚いて口を出して来たのは母親達だ。そりゃあ子供が自分の知らない所で他人に会っていたとなれば、心配するのも無理はない。
「りっちゃんわるくないもん!けんたくんとね、なかよくしたいんだって!だからね、おてつだいしてっていわれたもん!」
「だからって知らない人と話しちゃダメでしょう!?何もなかったから良いものの、不審者だったら2人が危なかったのよ!」
「ママいつも言ってるよね?お友達のことは知らない人に教えちゃダメだって!どうしてお約束破ったりしたの!」
我が子を心配する親達の剣幕に圧され、今にも泣き出しそうな子供達。祐輔は彼らが泣き出して話を聞き出せなくなる前に、急いで会話を繋げる。
「そっ、それで2人は何をお手伝いしてあげたのかな?」
「えと…、えっとね、」
「りょーた、おぼえてる…けんたくんがね、くらくなってね、あそんでるっていった」
袖で涙を拭いながら、ぷっくり頬を膨らませて告げる子供達。男の子の発言にハッとしたのは、先ほど話を聞かせてくれた少年だった。
「多分、俺がさっきお巡りさんにした話だと思う。この前母さんと話してたのを、涼太も聞いて覚えてたんだ」
「そんな…高橋さんに申し訳が立たないわ」
額を押さえて青褪める母親がそこまで落ち込む理由が理解できず、祐輔はつい不思議そうな顔を作る。それに気付いたもう1人の母親が、落ち込んでいる彼女に聞こえないようそっと耳打ちしてくれた。
「高橋さんちのお爺さん、この辺の地主さんでとっても厳しい方なんです。もし私達の子が不審者に健太くんの情報を漏らしていたと知れてしまったら、この先どうなるか」
「ああ、なるほど…安心して下さい、誰からの情報提供かは伏せられますので」
俯き酷く猫背になった母親を慰めつつ、祐輔は子供達に続きを促す。どんな人物だったのか、特徴など覚えている範囲で尋ねた。
「おようふく、まっくろのおじちゃん!」
「パパよりもおじちゃんだったよ」
「りんごのジュースくれた!」
最後の一言は心配する母親を余計不安にさせただけだが、何とか情報を引き出せた幸運に祐輔は礼をして相田の元へ合流した。念の為、情報源は伏せると再度母親達を安心させてから。
「斉藤!どうだ、何か気になることはあったか?」
「はい、どうやら健太くんのことを聞き回っている不審者がいたらしくて」
健太を抱いたままの相田の耳元へ、そっと情報を共有する。万が一本人に聞かれても可哀想だという2人の計らいだ。
「それが白いお化けの正体か?」
「いえ、不審者を見かけた子供達の話は真逆です。見た目が真っ黒らしいので、関連性は低いですね」
「だよなぁ。もし誘拐だとして、真っ白な服装はそれはそれで怪しいだろうし…」
「どうかしました?」
会話の中で、相田がふと黙り込む。空いている手を顎下に置いて思案に耽ると、公園を一周見渡してポツリ呟いた。
「いや、意外と怪しまれないのか?」
「えっ?でも、白い服なら目立ちませんか?」
「周りを良く見てみろ。植え込みの背丈は高く、周りにも高い建物が多いから中から様子が見え辛い。それに加えて事件は夜起きた。意識して公園内を見ない限り、人がいるかなんて分からないと思う」
「言われればそうですね…通報出来たのも、健太くんが入り口にいたからと考えるのが妥当に感じます」
しかし話はここで止まる。健太に接触した者の服装が黒か白かなんて問題は些細なことで、重要なのは今後も事件が起きるのかどうかだ。
「健太くんの方はどうでした?」
「それがなぁ…白いお化けが印象強過ぎて、覚えてないって言うんだよ」
「健太くんが?記憶力は良いだと思ってたんですが…やっぱりトラウマが残ってたり」
「これ以上、進展ないよなぁ。公園周りの防犯カメラ、一から確認してみるか?はぁ…何時間かけることになるのやら。お化けの記憶だけすっぽり忘れてくれたら良いのに」
項垂れる相田を見詰め、祐輔もこれから映像画面とひたすら睨めっこなんて勘弁願いたいと冷や汗を掻く。何としてでも知恵を振り絞らねばと、うんうん唸った。そうして、一筋の光を見出す。
「記憶を消す…?そうだ、彼女なら何とか出来るかも」
閃いた思考の中に見えた人影は、つい最近関わりを持ったばかりの少女・七条奈々子の影だった。
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