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75.〈砂痒〉星系外惑星系―9『未確認飛行物体―1』

〈交遭〉

〈砂痒〉星系最大の惑星。

 直径およそ一八万キロの巨大なガスの塊。

 従える衛星の数は三百を超し、惑星近傍はもとより、その軌道上にあまたの軍事施設が置かれた――大倭皇国連邦宇宙軍の根拠地だった。


虚探知(ゴースト)ではないのね?」

 稲村船務長が指揮下にある要員に問いかけた。

「はい。依然として明瞭度は低いものの、探知そのものは確実です」

 飛行科次席指揮官の野越中尉がこたえる。

 現在、〈あやせ〉艦橋に在席している誰しもの席には同じ情報――自艦に先行して飛翔しているプローブからもたらされた情報があった。

 その存在を外部から捉えられることのないよう電子的、熱的にほぼ沈黙状態にあるプローブ――外部探査の探知手段を受動的(パッシブ)なものに限定して慣性飛行しつづけているプローブが送ってきた光学映像を主とする情報。

 未確認飛行物体(UFO)発見の報である。

 当然、と言うべきだろう――完全に予想外の遭遇だった。

 探知はほぼ偶然――なんなら奇跡と言ってもかまうまい。

 真空の宇宙にあって瞬くことなどある筈もない星々の光が時折欠けるのをプローブのちいさな光学レンズが捉えたのだ。

 ()()()が星の光を(さえぎ)った。

 光源である(はる)かな星々とプローブの間にいる不明物体が、かそけく弱い光を(えん)(ぺい)したのに違いなかった。

 が、

 惑星や任意の指定空間探査のため投入されるのがプローブという機械である。

 基本的に使い捨てで、従って、まずもって求められるのは調達費用の(てい)(れん)さ。

 多目的な用途にもちいるということと相まって、搭載されてある機器類は、それがどういうものであっても性能面は大したことがない。

 つまり、

 捕捉した目標までの距離がおおきく、かつ、搭載しているセンサーの能力が高くないため、情報量が絶対的にすくない。

 それどころか、その信憑性しんぴょうせい――探知の確実性からまずは疑い、検証をくわえる必要さえあった。

 センサーはもとより、演算回路(これには識別用のソフトウェアも含まれる)、通信装置等のプローブに搭載してある機器の誤作動、あるいは恒星間空間よりはよほど濃い、ガス体が局所的に凝集しているのを見誤った結果おくられてきた報告なのかも知れないからだ。

 そうした疑念が払拭(ふっしょく)され、否定されてはじめて次の段階――探知対象たるUFOが、はたして微細天体なのか、それとも人工物なのかの判別作業に手順をすすめることが出来るのである。

 もちろん、

 距離も離れているし、UFO/〈あやせ〉双方の軌道要素からして、それが脅威となるだろう可能性は低い。

 そこまでは、稲村船務長に限らず、いま艦橋内部に同席しているスタッフ全員が同じように考えている。

 だが、主権領域境界域――機雷堰の敷設された空域を航過した際の一件があった。

 ただでさえ、〈あやせ〉を含めた逓察艦隊所属の艦艇は、任務遂行にはほぼ単艦であたるのだ。

 現状は、戦時。

〈ホロカ=ウェル〉銀河系に住まう誰が知らなくとも、〈あやせ〉に乗る自分たちは――自分たちだけは、そのことを知っている。 

 不測の事態にそなえ、警戒を怠ることなく、対応準備をととのえ万全を期しておこうとするのは当然だった。


(……天体等の自然物ではない、わね)

 稲村船務長は、自らのコンソールを操作しながら、思考をめぐらしている。

 正答を得ようとするには、対象の観測は時間的、距離的、くわえて機器の性能的にも、質、量、その双方がまったく不十分であり、必要を満たせてはいなかった。

 だから、荒っぽい推算しかおこなえなかったが、それでも、UFOを微細惑星等の自然物だと考えるには、その飛行速度は速すぎた。

 慣性飛行状態にあるのは間違いない。

 しかし、だとするならば――プローブによって発見されるまでの過去においても現状の速度を有していたとするならば、UFOは、その出自を〈砂痒〉星系の外、恒星間空間に求めざるを得なくなる。

 とてもの事、恒星〈砂痒〉が、その重力でもって引き留めておくことなど出来ない――公転軌道を描かせることの出来ない速度でUFOは移動しているからだ。

 更に付け加えるなら、UFOの進路を逆算した場合、その道筋(ルート)は、〈あやせ〉が舳先(へさき)を向けている〈交遭〉を経由(フライバイ)し、〈砂痒〉星系内惑星系に属する惑星群の公転軌道を横断してきたものと推測できた。

 であれば、いかなる意味においても、そこに置かれてある早期警戒網が対応行動をおこさないでいた筈がない。

 おおきな運動量を有した質量体というのは、ただそれだけで脅威であるからだ。

 粉々に――それこそ存在を抹消するレベルで破壊しないと安全を確信できない。

(つまり……)

 稲村船務長は、指先であごを摘まみながら、自分のおこなった演算の結果――コンソールのディスプレイ上に図示されたUFOの過去の推定進路に目をこらす。

(つまりは、これは〈交遭〉から飛来してきた人工物なのに違いない)

 そう結論するのが妥当だろうと考えていた。

(でも、当たりをつけられるのはそこまで、ね。現状、あれが健常で、なんらかの任務を果たすべく機能しつづけているのか、それとも、損傷しているのか、残骸なのかまではわからない)

 ここでも、やっぱり速度がネックか、と呟いていた。

 天体と考えるのには速すぎる速度も、人工物にしては首をかしげざるを得ない、どうにも中途半端なものなのだ。

〈砂痒〉星系の外へ出ようとしているのなら遅く、

 周辺環境を観測しようとしているのならば速い。

 加えて、それは〈交遭〉から飛来してきている。

 ブービートラップの可能性も否定できなかった。

 防空部隊が根拠地を置いていた惑星〈香浦〉の惨状、また『敵』の奸智(かんち)が脳裏をよぎる。

『敵』は機雷堰を抜けた皇国航宙艦が、ほっと安堵するのを見越して(わな)を仕掛けていた。

 その徹底ぶりからして、正体不明のこの飛行物体も、うかうか近づいてくるマヌケを仕留めるための(えさ)なのかも知れない。

 そんな疑念を(ぬぐ)いさることが出来ないのだった。

「……ウン!」

 ひとしきり頭をひねったその後に、稲村船務長は、なにごとかを決心した感じで一人うなずいた。

 そして、

 上官に連絡すべく、通話装置を操作したのだった。

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