表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーミット・ブルー  作者: 狐宮
10/12

第一章『ラシュティエート強襲』 Ⅴ

 第十話『混生六将』


事実上、陥落したと言えるラシュティエート、それを弧を描くように取り囲むシアル・ラン。

 今まで、シアル・ランの存在が、彼の地を堅固足る物としていた。攻め入る場所は限られている。

シエル・ランの道二つ、残る一つは、シアル・ランの最も西、ラシュティエートから北西に位置する

 城砦都市ツェルム。いまだ落ちてはおらず。シェジェの予測は外れてはいなかった。

イズエリアから更に二手に分かれる所までは読んでいた。

 然し、ノブナガの駆る駿馬、その馬術までは読めなかった。結果、ラムザ達が封鎖する前に彼は既に

 シアル・ランを抜けていたのだろう。

文字通り、最後の砦となってしまったツェルムは挟撃の危機に瀕しており、

 外側からは、勢力を確実に増やしてきた混種混生軍がすぐそばまで来ている。

 内側からは、ラシュティエートで得た混生種達と、共に信長が向かってくる。

逃げ場は無い。死地とも呼べる其処へ、自身の存在意義とも呼べるソレに悩みながら、

 彼は馬を走らせている。 純血種と混血種の共存、虐げられる事もなく、恐れられる事もなく。

そんな場所をつくたい。それがブルーとアーネの旅の目的ではある。ではあるが、余りに険しい。

 本当にそれが可能なのか? その方法は在るのか? 彼は目的を見失いかけていた。

 「…アーネ。 エステシアさん…私は、私はどうすれば、何をすれば…」

考えるという事は、想像以上に時間の経過が早い。

 結局、答えも出ぬままツェルムへと辿り着いてしまう。

シアル・ランの北西に位置する、ラシュティエートへの堅固なる門。シェルム城砦。

 元々は小さな砦だったが、ガルガー子爵家の人柄か、代を重ねるごとに大きく、堅固なモノと

 なっていった。山を削り取り、それを材料とし、建造物が立ち並ぶ。

高低さも激しく、そこを越えるには、いくつもの要所を越える必要がある。

 険しき山に建てられた堅牢なる砦。それがツェルムだった。

 その内側からの入り口に、砦の兵が十人程、配置され、武器を構えてブルーの行く手を遮った。

 「止まれ」

 「私は、ブルーと言います。こちらにアーネ…いや、ラムザ団長殿やセリス…ティセリス様は

   こられておりますか?」

その言葉に彼等は、互いに顔を見合わせる。恐らくは話は着ていたのだろう。

 女性と見紛う顔立ち、線の細い容姿に加えて、紅い厚手の衣服とマント、

 そのマントには白い獅子の紋様…、間違いなさそうだ。と、彼等は頷く。

 「ブルー殿でしたか、子爵閣下より、聞いております。どうぞ、お入りください」

 「ありがとうございます。それと、後からノブナガ率いる混血種達が迫ってきています」

 「やはり…落ちましたか。その事をお早く子爵閣下にお伝え下さい」

大きく頷いたブルーは馬を蹴ると、教えられた場所に向かい、馬を走らせていった。

 そこから一時間程かかっただろうか、一際大きな屋敷が見え、そこへと辿り着く最中、

 見慣れた白と青の衣服に鎧を重ねた、金髪の女性らしき人を見かけた。

 「…ティセリス…姫」

向こうも気付いた様ではあるが、ここでも一つ問題が起きている事を、彼は忘れていた。

 相手は一国の姫君であり、しかるべき敬意を払わねばならない。

当然の事。そう当然の事だが、セリスはそれを望んでいない。彼を友として、身分の関係なく

 接して欲しいのだ。ただ、それは彼女の我侭であり、ブルーはそこに踏み込む事が出来なかった。

 「ブルー、無事でしたか」

 「ティセリス様も、ご無事で何よりです」

馬を折り、深々と頭をさげようとした瞬間、セリスに止められる。

 「身分を黙っていたのは謝る。けど、私は…」

姫としてでは無く、一人の友として扱って欲しかった。いや、友人が欲しかった。

 それを言いたげではあるが、ブルーは後方からノブナガが迫ってきている事、

 加えて、ラシュティエート王城陥落、その事をセリスに伝えた。

 「後から来たシェジェ老や、お父上様。ラムザ団長とアーネから、

  これからの話は聞いている。恐らく、ラシュティエートは落ちるしかない…と」

そもそも何故…と、ブルーは疑問をぶつけて見たが、答えは単純だった。

 どこの国にも悪しき風習は残っている。それを刺激され、国の上部、

 その一部が私兵を動かし住人を近隣の村へ退避。

その後、これが最良とばかりに混血種狩りを始めた。ちなみに賛同した住人達は残ったという。

確かに、内側の危険な芽を先に刈り取れば…ではあるが、余りに安易で愚かだ。

 しかも、そこにノブナガ居たのだ。結果は明らかではある。

 「我が兄も、其処に残り、国を守る為、戦う…と、お父上様の言う事も聞かず」

 「国を守る為に、国民を殺す。そんな矛盾にも気付かなかったのですか?」

 「違う。君は知らないだろうが…、彼等は国民である以前に、その多くは

   奴隷商やら、それに類する場所から逃げ延びてきた難民なのだ」

 「だからと言って…」

 「判っている…判っているとも!! 」

 「なら、どうして自分達だけ逃げたのですか!? 連れて逃げるという選択肢は無かったのですか!」

 「それは…!!」

セリスは事が起こる前にツェルムへと来ていた。それが出来よう筈も無く。

 彼女が望む、ブルーとの距離が確実に、そう確実に広がり始めた事を感じ取っていた。

 しかもそれは、既に手も届かない程に、遠く、深い溝となってしまったのではないか…と。

 「追い詰められてもまだ内輪揉めってか。おいそこの同胞!」

聞き覚えの無い、やや高めの声色が、屋敷付近の崖の上から聞こえ、

 その声の主が、軽々と飛び降り、やや膝を折りつつ、地に降り立った。

ややくすんだ茶色の髪は無造作に肩まで長く、前髪は左目を隠す様に長い。

 右目から彼の瞳は茶色だと判る。それに鎧はつけて無いが、見た事のある黒い衣服に羽織。

 「君は、…ノブナガの?」

 「貴様っ! どうやってここまで!」

飛び降りてきた彼に二人は、別々の反応を見せた。敵意を見せられないブルーと、

 明らかな敵意・殺意を込めた視線を向けるセリス。

そんな二人の内、ブルーを見る男は、口元に僅かな笑みを浮かべる。

 「ああ、そうだ。ノブナガ様が率いる混種混生の民。

   一応、俺はその中でも、王の信頼厚き者、混生六将…なんて呼ばれてるがねー」

 「その君が、此処に単身で何をしにきたのでしょうか?」

今までノブナガは、側近を置いていなかった。今まで本当に戯れであったのか、

 だが、今回それは現れた。つまりは戦を仕掛けてきているという事なのだろう。

ブルーは、彼と接する事でツェルムの危機を肌で感じ取っていた。

 この男も混血種、少なくとも、単身で飛び込んでくるだけの自信と腕があるのだろう。

 出来ればこの場で争いは避けたい、そう思った矢先。セリスが剣を構えて斬りかかる。

 「問答無用!!」

 「あちゃー…聞きしに勝るお転婆さんじゃねーのよ」

彼は武器を持っていない。だからこそ、ブルーは会話が成立する相手だと思った。

 だが、セリスはそれを好機とみなし、斬りかかった。

 コレほどまでに考えが噛み合わない二人が、果たして、広がった溝を埋められるものかと。

右上段から振り下ろされた白刃が、混血児の彼の左肩目掛けて振り下ろされる。

 それを呆れるように見た瞬間、ユラリ…と僅かに彼は動き、白刃を紙一重で交わす。

 それと同時に、腰を落とし地面を踏みしめ、上体を捻り、右拳をセリスの腹部めがけて打ち込んだ。

その一撃は、腹部の鎧に見事に命中し、強烈な衝撃と鈍い音と共にセリスを後方へと殴り飛ばす。

 「ぐ…ぁっ」

 「女の子は殴りたかねーのよ。 つかさ、せめて自己紹介くらいさせてくんね?」

先程の痴話喧嘩染みた言い合いからか、セリスは冷静さを失っている。

 それを見て、呆れるように自己紹介でもしようか? そう促す混血児の男は、軽く礼をする。

 「んじゃまず俺っちから、人族と君等も知ってるだろ? 禁忌の民。

   その混血児。グリアルスレイト・リ・イグセンティス…長いんでスレイトと呼んでくれや」

禁忌の民…。アーネと同じ? いや、それにしては耳が…。

 その視線からブルーの意図を感じ取ったスレイトは、軽く肩を竦めた。

 「アレは目立つからね、根元から切り落としたよ」

 「…!! そこまでしないと、生きていけなかった…と言う事ですか」

 「そーそー。そゆこと。ま、切ったからといって聞こえなくなるワケでもねーし」

 「私程度では、想像出来ない程の生を送られてきた、と言う事ですか。

   私も混血児、名はハーミット・ブルー」

ようやく自己紹介してくれたよー、と、若干喜んでいるようにも見えるスレイトが、

 不思議そうにブルーを見る。何で君がそっちに居る? では無く、その種にだ。

だが、その会話も続かなく、起き上がり息を正したセリスが、間に割ってはいる。

 それを見たスレイトが呆れるようにこう一言。

 「おいおいねーちゃん。もう、終わったんだよ。純血種様の支配する時代は…」

 「…私は、認めてない」

 「往生際が悪いねー…。そこまで俺っち達を苦しめる…生活が楽しかったかい?」

陽気にも取れたスレイトの対応は、最後の一言のみ、憎しみすらも込めた重い感情が込められる。

 それに対し、セリスは違うと、首を大きく振り、否定した。

 「私は…お父上様は…団長や皆。それは一握りでしかなかったけど…心を痛めていた」

 「へー? で、結果はどうなったんだい? こっちの大将みたくに矢面に立ってくれたかい?」

 「それは…」

立場上、そうもいかない。ヘタに動けば他国との友好関係も揺らぎ、下手すれば国が滅ぶ。

 そんな事がそう易々と出来る筈もなく、ただ何か出来ないかと、

  水面下で僅かな行動をとるしかなかった。

 「そーゆうさー? 何の覚悟も無い哀れみだけ向けてさー、満足だった?

   俺っち達を見下して、楽しかった?」

再び、軽く肩を竦めた瞬間、スレイトがセリスの視界から消えた。

 そう思えた。彼はその強靭な足腰から一足にセリスの足元に踏み込み、怒りに満ちた右拳を

 彼女の顎目掛けて振り上げようとしていた。もう喋るな、そう言わんばかりに。

 「…テメェは黙れ」

陽気な雰囲気が一変、重く憤怒に満ちた眼差しで、彼女の顎を狙っていた。

 その一撃は、これ以上彼女の口を開かせまいと、確かに捉えた筈だったが、

 ブルーの斬り払いが、彼の右腕を遮るように打ち払った。

彼にしてみれば、斬り落とす気でいたのだろうが、彼の手甲を切断するには至らず。

 スレイトは左で右手首をさすりつつ、ブルーを不思議と見ていた。

 「貴方の言い分は良く、判ります。 けれど、貴方もそれ程の力を持ちながら、

   どうして、皆の矢面に立とうとしなかったのでしょう?」

 「…妹が居たからねー。流石に巻き添えはしたくなかったさ」

 「それはつまり、貴方にも何かを犠牲にしてでも、得る覚悟は無かったと」

 「言う…ねぇ」

ブルーの発言に対し、スレイトは痛い所を付かれた…と、軽く額を左手で覆った。

 だが、覆われた左目から、鋭い眼光が奔り、またしても視界から消える様に、今度はブルー

 の足元へと一足に踏み込み、腹部目掛けて打ち込んだ。

速度、タイミング全てが見事にかみ合い、避けられる事など考えられなかった。

 だが、ブルーは体を横に反らすと同時に、スレイトと息がかかる程の距離まで肉薄してみせる。

 「なに!?」

慌てて、左拳で素早く打ち払うスレイトの左目が見たものは、息も掛かる至近距離の打撃に反応し、

 更に左脇腹へと回りこんでいたブルー。

 「ちぃっ!!」

ブルーの反応速度も相当ながら、それに立て続けに上体を捻り、

 右膝蹴り反応するスレイトも相当な物である。更にそれすらも反応し、ついに背面をとってみせた。

一瞬の攻防が止まり、静寂があたりを包む中、スレイトの額に冷たい汗が一滴。

 「それが、テメェの力、か?」

 「いえ、私の師匠より授かった体捌きです。それよりも、先程の失言、お詫びします」

 「…。ち、萎えたわー」

そういうと、彼は一度強く地面を蹴ると、大きく跳躍し、崖へと足をかけ、

 ほぼ絶壁に近いソレを蹴り更に上昇し、ついに頂上に近い所へと。

 「なんでテメェみたいのがソッチに居るのかわかんねぇ…。

   けどよ、名前は覚えたぜ? ブルー」

声は届かなかっただろう、然し、その意図は確かにブルーには届いたようだ。

 ただ黙って彼を見送る心中は、ただ一つ。『妹が居た』その過去形で発せられた言葉だった。

それが彼が奮い立った原因に他ならないのだろう。 静かに姉妹剣を腰に納め、セリスを見る。

 恐らく、初めて混血種と戦ったのだろうか? 焦りや不安、絶望の色すらその瞳から見てとれた。

 あのような強者が六人。それに及ばないにしても、多くの混血種達が敵に回ってしまった。

 加えて、ノブナガの存在である。 

私達は、既に取り返しのつかない場所に立っていたのでは無いかと。

 本人の意思とは関係なく、恐怖からくるだろう震えを、両腕で自分の体を抑えていた。

 「私は…私は決して、見下してはいない…そんな、そのような」

どう、彼女に接すれば良いものか、ブルーもまた悩む。既に落ちたとは言え、身分の高い方だ。

 失礼な行為は出来ない。 二人はただ、その場に立ち尽くしていた。

そんな中、屋敷の方より、剣戟が聞こえたのか、紅い蓬髪の少女が慌ててこちらに来た。

 「あ、ブルーだー!」

 「…アーネ? 無事だったのですね」

無事だろう、そう思っていた。セリスもこちらに来ていると言っていたが、やはりこの目で見ない

 限りは心配は消えなかったようで、彼女を見て、彼は一度自分の胸を撫で下ろした。

 「良かった」

そう言うと、アーネの頭を優しく撫で、暫し考える事を止める事にした。

 「あ、そーだー! ガルおじさんが早く会いたがってるよー?」

 「ガ…ガルおじさん?」

ブルーとセリスが同時に驚くように口を開く、子爵階級の閣下に対して、なんという無礼な…と。

 それとは知らず、あくまでマイペースで二人の手を強く引っ張り、屋敷へと連れ帰った。

セリスとブルーの溝は広く深まってしまったが、そこへ渡る為の橋は確かに存在している。

 今は無理だとしても、その橋を渡り、互いに歩み寄れる日は、そう遠くないのも知れない。


**子爵家 屋敷内**


主に山から削られた石造りであり、あくまで防衛の為のモノらしく、高い調度品等は見当たらず。

 いや、それがここの当主の性格を現しているのだろうか。

煌びやかな装飾はただの一つも見当たらない。そんな長い通路を歩き、

 その行き止まりに一つの大きな扉がある。それを元気に押し開けたアーネ。

 「ガルおじさーん! 連れてきたよー!!」

 「こ、こらアーネ…」

またしても言葉が重なる二人、アーネの事に関しては思考が一致するらしい。

 そんな彼女を止め様とする二人を、一人のいかにも頑健そうな巨漢の男が右手で制した。

 「構わん。それよりも、外で何かあったようですな…」

当然、心配事はそちらだ。男の視線はその隣に座っている王へと向けられる。

 「恐らくは、先見の者だろう。 どうであったか? セリスや」

言葉は、彼女へと向けられ、慌てて二人は膝を突く…が、アーネはボケーっと立っている。

 「ほぇ?」

二人の行動を不思議と首を傾げつつ、立ち上がったブルーに無理矢理屈まされた。

 「こら、アーネ。 国王陛下と子爵閣下の御前だから」

 「やーだー」

必死で逃げようとするアーネを見て、巨漢の男は重い鎧をガチャリと鳴らし、歩み寄り

 彼女の頭を撫でている。

 「少年、古来より、禁忌の民は奔放でな。 それに、これはこれで、心地良い」

 「し、然し…」

 「良い、と、言っているのだ」

その言葉に押し黙り、静かに頭を下げた。 続いて、向こうが欲しいだろう情報を出来るだけ

 簡潔に伝えると同時に先程のスレイト。混種六将の件も伝えた。

 「ノブナガを除いた敵の将は、六名。それに加え、大よそ一万五千の混生種達…か」

 「絶望的。と、いうしかないかな? ガルガー殿」

 「現状では、まさにそれ、と言うしかありませんな」

外側より、六将率いる一万五千、内側よりノブナガ率いる不特定多数の混生種達。

 ヘタをすれば二万を超える大軍の挟撃。 こちらの兵力は精々六千。

頼みのエステシアもいまだ連絡取れず、ブルーは戻ってきたものの、現状の戦力差は絶望的である。

 そんな中、慌ててツェルムの兵が扉を押し開け、転げるように入ってきた。

 「か…閣下!! 北東…北東のエンディカートの防御が破られたとの…」

 「もうそこまで来ている…か」

北東のエンディカート。小さな街ではあるが、そこから北へと伸びる街道があり、

 交易の盛んな場所でもある。そこに兵を割き、防衛に当たっていたが…。

となれば、戦力は更に増大し、勢いを増してこちらへ…か。

 ふと、部屋の隅で眼を瞑り、思考を張り巡らせていた老人に目が行く。

 「シェジェ老…」

 「悪しき風習を利用し、勢力を増やし…いや、奴の狙いは何か…」

 「混生種達の為に立ち上がった、優しき男。と、私は見ましたが」

軽く首を振り、そんな者が、人の命を弄ぶか? と、子爵に伝えると、彼はそれもそうか、

 と、黙り込む。

 「恐らくは、大乱。世に混沌を求めておるのかも、しれんのう」

…。その言葉に子爵も王も黙り込む。ラシュティエートでは、混生種狩りが行われてしまった。

 それが、ここより遠方の国々にも伝わらない事は在り得無い。

じきに彼等の耳にもノブナガの存在が届き、混生種狩りが行われるだろう…と危惧する。

 彼が投じた石は、瞬く間にこの西の大陸全土へと広がり、混沌を生み出す、と。

 そんな絶望的な中、シェジェはぽつりと呟いた。あれは、本当に人の子か? と。


考える時間も惜しむかのように、ツェルムの先、半日程の所にある平原。

 クラウディア平原に、おおよそ三千の兵を配置。そこにラムザ・アーネとブルーも居る。

王家の血筋を断たれぬ限り、ラシュティエートは滅びたわけでは無い。

 そんな事から、セリスはこの戦いには…これない筈だったが…。

 「やっぱり着ちゃったねー…。ああ、おじさんの首が…」

 「セリスだー!」

 「…、本当にスレイトの言う通りのお転婆ですね」

 「お転婆に頑固が加わるとどうなると思うね? ブルー君」

そんな猪が白馬のレゼントを駆り、ラムザ達の前へ来ると、彼等は二人揃って溜息を吐いた。

 「何故、私を置いていったのですか? 団長!」

 「何故って…判らないわけでもないよねー? おじさんの気苦労とか諸々」

 「…それは。 ですが、私は」

着ちゃったものは仕方無い。というか帰ろうにも帰らないだろう。

 ノブナガがこちらには居ないとはいえ、三千で少なくとも…。

周囲を見ると平原だ、隠れる場所も無い。双方、正面からぶち当たるしかない。

 勝機があるとすれば、相手は戦闘経験の薄い混生種だという事。

 それにもう一つ、期待が持てる、問題は動くかどうか…。

南部の盾姫と似て否なる北部の戦斧と唄われる戦上手、これまた面倒くさいお姐ちゃんと、その父親。

 …現れたら頼もしい限りであるが、おじさんの胃とお財布に風穴あいちゃうよ…と。


ま、特異な力に気をつければ、或いは…などと淡い期待を打ち消すかの如く、

 東より見えるは、地平を覆い尽くすかのような影がこちらへと。

 「なんて…数」

 「たくさんだー!」

余りの兵力差に一瞬絶望の色を浮かべるが、アーネはまるで動じていない。

 特異な力からくる自信か、はたまた戦を知らない故か…。

そんな二人を見つつ、心配ながらも、これ以上先へはいかせられない。

 腰から片手剣を抜き放ち、全軍に号令をかけた。

兵数差はおよそ、五倍。とてもじゃないが、勝てる見込みなど在りはしない。

 そんな死地とも呼べる戦場へと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ