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エキゾチック色男な彼は魔法騎士さま

城内を説明しながら案内されたのは、客室が並ぶ一角の大きな部屋だった。

居間のような広い空間に椅子やテーブルやチェストや様々な棚や本棚などがゆったりスペースを使って置かれていて、そのどれもが豪華な作り。奥には寝室がありクイーンサイズのベッドがひとつと、セミダブルくらいのサイズのベッドもある。バストイレ付きだ。外国のスイートルームみたい。泊まったことないけど。

帰りたいとうんざりしていた旦那も、この部屋を見ると「すげーな」と目を輝かせている。

息子はもうあれだ。扉を全部開けて回ってうろちょろしている。まあそうなるよね。


「お食事は全てお部屋にお持ちしますし、お茶やお菓子なども言っていただければすぐお持ちします。どうぞ遠慮なさらずお呼びください」召し使いの人は部屋の中のことなどを一通り説明すると、お茶とベルを置いて控え室に下がっていった。


「これなに?鳴らしていい?」

「ダメに決まってるじゃん!これはレストランとかにある呼び出しボタンと同じだからね、用事がないのに鳴らしたらダメなの!」


ベルを持ち上げようとした息子に言って、そーっとベルを高い棚に移動させる。

室内探検はもう飽きたらしい。テレビもゲームもないし、ちょっと暇そうだ。どうしよう……あと100日もあるのに毎日暇をもて余して絡まれたら体力が持たない……。

城の中や庭を歩いてもいいか明日にでも聞いてみよう。今日はもう正直精神的にも疲れたし、夕方だし、部屋から出ないで休んでいたい。


旦那は大きなふかふかのソファーに寝転がり、スマホをいじっている。

こんなへんてこな状況なのに、いつもと同じく無関心な感じで話しかけてこない。もっとさ、あるんじゃないの?どうしよう?とか、びっくりしたね!とかさ。


「電波ないんだから、スマホやめれば?」

「だって暇だし。テレビもないじゃん」

「もっとさ、この状況に心配とかないの?」

「いやあるから。でもどうにもならないじゃん。さっき聞いただろ」

「子供だっているんだから」

「しつけーな」


旦那は鬱陶しそうにため息をつくと、スマホを持ったまま寝室に移動して扉を閉めた。

……こんないや~な感じで100日間……。

もっと父親らしく頼もしくしてほしかった。別に私に対してなにもしなくていいから、息子に対しては。もう期待とかする方が悪いってわかってるんだけどね。でもさ、こんな異世界とか…なんか大変なことになってるんだから…息子になんかないんだろうか、と思ってしまう。


「お母さん、お父さんと仲わるいね」と千裕に言われる。

しまったと思うが、しかたないかなとも思う。だってもう隠せないくらい夫婦関係終わってるもんね。しかも息子は小2だし。隠しててもわかっちゃう年頃だよね。

明日離婚届出すつもりだった事もあり、正直に話すことにした。こうやってギスギスしたとこまた見せて、息子が状況もわからず悩んだら可哀想だし。


「……あのね。お母さんとお父さんお別れしようと思ってるんだよね。チヒロに言わなくて悪かったけど、言ったら悩むかなと思って」

「お別れって、別々にくらすの?」

「そうだね。本当は明日そういう手続きしようと思ってたんだよね、こんなことなっちゃったけど」

「ふーん」

「ふーんてあんた」

「お父さんお母さんにつめたかったもんね。だからお別れするんでしょ?」

「まあ……他にも色々あるけどね」

「お母さんもお父さんきらいなの?」

「……正直好きじゃないね。こんなことチヒロに言うの良くないことだけど」

「いつから別々にくらす?」

「お家帰ってからかなぁ……。あっもちろんチヒロはお母さんと暮らすからね。お母さんチヒロと暮らせないのとか無理だから」

「んー。お父さんとくらせないのさみしいけど、アキくんちもお母さんしかいないけどお父さんともたまに遊ぶっていってたし。お父さんともあえるんでしょ?」

「あーアキくんち母子家庭だもんね。そうそうそんな感じ。お母さんとお父さんがお別れしても、チヒロとお父さんはいつまでも親子だからね」

「ならおれはいいよ」


なんだか思ってたよりも物わかりの良い息子にびっくりする。やだやだって泣き叫ばれるのも覚悟してたのに。

小2ってこんなに大人なのか……。そして友達同士で家庭の状況とか話したりするんだね……。


「まあお母さんとお父さんそんな感じだからさ、今みたいに喧嘩っぽくなったりあんま喋らなかったりするかもしんない。チヒロいやでしょごめんね」

「うん。でもお父さんお母さんのことムシしたりするからしょうがないとおもう」

「見てたのか……」

「けっこういっつもやってたし」

「だよね……なんかごめん……」

「お父さんスマホやってるとおれもたまにされるし」

「……あるね。確かにあるねそういうときね」


はぁ~~とため息が出てしまう。

千裕が小さいときはまあ可愛がってたもんだけど、5歳くらいになって口答えしたり生意気になったり遊びも面倒なのを要求されるようになると、旦那は息子への扱いがどんどん雑になっていった。

まあ気持ちはわかるけどさ。今までみたいにごまかしもきかないし、大人の都合を持ち出すと問い詰めてくるし。思い通りにならないからね。

でもこのくらいの歳の子はみんなそんなもんだし、みんな子育てしてたら通る道なんだけど、

旦那はそこに度々イライラしているようだった。

そんな旦那を見て私もイライラするっていうね。


でもそんなことされても、千裕は父親のことは普通に好きだと思う。たまには遊んでもらってるし、別れても会いたいみたいだし。

だから私も、千裕には旦那の悪口を言わないでいようと思う。ちょっと愚痴っちゃう時はあるかもしれないけどね、私もほんとにダメな母親だ。


その夜、千裕が寝るとベッドに転がって自分も寝ようとしてる旦那に話そうよと声をかける。

面倒くさそうにむくりと起き上がる旦那。これだけでもうやる気が半分くらいなくなるよね。でもなんかよくわかんないままずるずるは私が耐えきれないから、旦那が嫌な態度でも話し合いするしかない。


「この間も言ったけど、私本当は明日離婚届出す予定だったから」

「またその話?」

「またじゃなくて。今こんな異世界とか来ちゃったから出せないけど、本当ならもう明日離婚してたからね」

「出す気本当にあんのお前?」

「本気だって言ったじゃん。向こう帰ったら予定通り出すからね」

「俺は反対したけど?離婚しないって」

「いやあんた浮気してたじゃん。前の時、また関係切ってなかったら次は本当に離婚って言ってあったじゃん」

「してないって浮気なんて」

「は?してたじゃん!」

「だから今は。そうやって疑われると嫌になんだけど」

「浮気現場知り合い見てるから。ここまできて嘘つかないで」

「お前俺のことほんっと信じてないよな」

「信じられるわけないじゃん、裏切られてんだから」

「信じられないなら終わりだな」

「だから離婚するんじゃん」


振り出しに戻る。なんだこの意味のないやり取りは。

旦那は呆れたようにわざとらしくため息をついた。いやそれこっちがやりたいからね。なんでお前がやんの。ほんと無理。ほんと無理この人。


「そう言うことだから、明日から私はあんたのこと旦那だと思わないからね」

「はあ?離婚してねぇじゃん」

「それはこんなことになったから出せないだけだから。気持ちは既に離婚済みだから」

「バカかよ」

「それ。そうやって私が真剣に話しててもバカにするところ。本当に嫌い」

「あっそ。じゃあ好きにすれば」


そう言うと旦那は広いクイーンサイズのベッドじゃなくセミダブルのベッドに移動してふて寝した。

好きにすればってなに?そこは、もう離婚でいいよ。だろ。こうやって人のことバカにして好きじゃないって態度とるくせにハッキリしないとこが嫌だ。

こっちはもうきっぱり離婚したいのに。なんか本気にしてないんだよね、私が離婚したいって言っても、気分で言ってるとか思ってるらしい。

違うから!そんなかまってちゃんみたいな感じじゃなくて本気で!マジで離婚したいから!




次の日の朝ご飯が終わると、召し使いじゃない人が部屋を訪ねてきた。

とても背の高い男の人だ。兵士らしき人達が着てた鎧とは違う、軍服みたいなのを着た……なんかとりあえず兵士より立派な感じの人だ。兵士と同じく腰に小振りな剣を下げてるし、兵士より位が高いとかそんな感じかな?


「初めまして。私はディアンと申します。これから100日間、貴女方の護衛兼サポートをしますので、宜しくお願い致します」


優雅に挨拶をするその男の人は、こっちに来てからよく見た西洋人のような人達とは少し違った、エキゾチックな雰囲気の色男だった。

背中まである黒髪をポニーテールにしていて、肌は薄い褐色。瞳は綺麗な菫色。そして鍛え抜かれているとちょっと見ただけでわかる肉体。……やだ肉体とか言っちゃったやだやだ。全体的に整っていて雄々しい雰囲気だからつい舐めるように見てしまった。


「あ、ありがとうございます。護衛…ですか?」

「はい。王城内は安全ではありますが、念のため迷いビトの方には護衛が付けられるのです。私はこの王城に魔法騎士として勤めている者です」


「まほう?きし?」と息子の千裕が興味を持つと、ディアンと名乗った騎士さまは整った顔を崩してにこりと優しく笑い、腰を屈めて千裕と目線を合わせる。

「魔法は見たことありますか?」と聞かれ、千裕はぶんぶん頭を横に振る。でも表情はものすごくキラキラしている。小2だもんね。魔法とか興味津々だよね。いやお母さんも興味津々だけどね。


「後で見に行きますか?魔法は決まった場所でしか使えないので」と騎士さまに言われると、千裕はぐーーんとテンションが上がって「行きたい!まっまほう!お母さんすごいねまほうだって!」とはしゃいだ。

お母さんも正直すごいテンション上がってるよわかるよ。まあ会ったばっかの人の前で騒げないから我慢してるけどね。だって28歳だからね。


その後名前を聞かれて、そういえば昨日はバタバタしていて名乗っていなかったと気付き自己紹介した。

旦那は騎士さまに対してむすっと態度が悪い。たぶん背が高いし色男だからおもしろくないんだろうな。旦那は向こうでは背が高い方だったけど騎士さまの方が高いし、顔も正直レベル違うし。

……いや、旦那だってスタイル崩れてないし顔もまあまあだし職場の若い子にはモテていた。まんまと浮気してるし。おっと関係ないこと考えた。とりあえず、今までちやほやされる立場だったのに自分より良い男が現れたからこうして態度悪いわけだ。私は美女見たら良いもの見た気分になるけどね。男ってめんどくさいね。

まあでも、旦那のこういうところが夫としても父親としてもダメなんだろうね。良い男と張り合ってまだ恋愛する気満々みたいなところ。

あ、今日から旦那だと思うのやめたんだ。理人ね。



この世界の人は、日本の名前はちょっと言いづらいらしい。

笹木、と言おうとすると、サシャーキ?と何度も間違われた。シャッシャアキとかね。真面目な顔で呼ばれると笑えてしょうがないから、名字じゃなくて名前で呼んでもらうことにした。


私の「マナ」はみんな普通に呼べるらしい。「チヒロ」も、「チシィロ?」と数回間違われたが、練習すれば呼べた。ただ「リヒト」はダメだった。「リーヒト」とか「リッヒト」になってしまうらしい。

苦戦する騎士さまと召し使いさん達。

もうそれでいいんじゃないの、と言ったら理人に睨まれた。でも上手く言えないもんはしょうがない。

理人は「リーヒト」や「リッヒト」と呼ばれることになった。

リーヒト……なんかまぬけな響きだ……。でもまあ不可抗力だからね、みんなわざとじゃないからね。まあ私は笑っちゃうけどね。それも不可抗力だよ。うん。


そういえばあの昨日説明してくれたおじいちゃんは、セドリックさんと言うらしい。

おじいちゃんはとても国に貢献した魔法師で、もう高齢だから現役は退いたらしいが、魔法師長という肩書きで魔法師達の指導をしたりしているらしい。

おじいちゃんなんかすごい人だった。でものほほんとした気持ちになるからまた会いたいな。







エキゾチックとは異国情緒のある様を表す言葉で、人によって感じ方や使い方は様々ですが、主人公のマナは「中東や東南アジア的な異国風の魅力」があるという風に使っています。

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