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さようなら浮気夫

帰還の儀式まで残り7日。

私は夜理人の部屋を訪ねた。


夜ご飯が終わってすぐだから、千裕はディーさんと部屋で待っている。たぶん二人で剣の素振りしてるんじゃないかな……男子って暑苦しいね!


部屋に入ると理人はソファーに座ってスマホを眺めていた。

……あんたはまた点かないスマホを……、あっでもあと7日で帰れるもんね。そしたら連絡取りたくてたまらなかった彼女とまた繋がれるね。好きなだけ会えばいいさ、もう邪魔者はいないよ~、なんてね。

妻なのに邪魔者だったって過去の私不憫だな!


理人の対面のソファーに座る。理人は私を見ない。


「結論から言うけど。私とチヒロは帰らない」


理人のスマホを持つ手がぴくっと動く。まだ私を見ないまま、ふぅーーと細く息を吐く。


「……帰らないで、どうすんの」

「こっちで暮らすよ」

「……ちゃんと考えてんの?チヒロの事とか……」

「チヒロも残りたいって」

「そんなの……今だけじゃないのか?今後帰りたいってなったらどうすんだよ」

「大丈夫だよ。そんなの気にしてたら何もできないもん」

「お前……軽く考えすぎじゃねぇっ!?」

「理人」

「もう元の世界戻れなくなんだぞ、お前だって……っ」

「あのね。チヒロこっち来てから、剣の稽古受けてるんだよ。自分からやりたいって言ったの。文字も習ってる。学校まで通いだしたし、友達もできたんだって」

「だから……なんだよ……」

「好きな子もいるんだよ。その子のために強くなりたいんだって。大きくなったらその子を守れる騎士になりたいって……もうね、ものすごく真面目に言うの。まだ7歳のくせに男の顔してさ。それでさ、すっごい努力してる。勉強も稽古も真剣にやってる」

「そんなの」

「チヒロね、こっちの世界で自分の未来みてる。あの子もうこっちの世界で生きてるんだよ。私はチヒロの夢、応援したい」

「お前は……それだけのために帰らないのか?」


理人がここにきて初めて私の顔を見た。

それだけって、我が子のために残るっていうのはすごく大きな理由になるよ。でも、理人が聞きたいのはそういうのじゃないんだろうね。


「私、ディーさん……騎士さまの事すごく大切に思ってるの」ちょっと笑みがこぼれてしまった。

ディーさんの不安そうな顔を思い出したのと、理人の浮気にキレてた自分が他に好きな人できたことがなんかおかしくて。


「ディーさんにたくさん大切にされて、好きだって言われて、帰らないでって訴えられて。私この人と離れたくないって思ったの」

「お前、ちょっと口説かれたくらいで本気にしてんの?すぐ捨てられたらどーすんだよ!ここは異世界で頼れる人間いないのにっ」

「元の世界にだって頼れる人いないよ、もう」

「そ、れは……」

「まあね。絶対浮気しないって信じてた理人も浮気したし。モテモテ美形騎士さまのディーさんが浮気しない保証なんてないよね。捨てられない保証も。……でも、そんな先の事考えて不安になってディーさんから離れたくないって思ったの。捨てられたらそのときは心機一転この世界で生きてくよ。チヒロもいるんだしさ。捨てられたからって人生終わるわけでもないし。でも……できればずっと一緒にいられたらって思うけどね!元の世界を捨てちゃうくらいには、好きになっちゃったからさ!」


私の言葉を聞いて理人は「バカじゃん……」と呟いた。

いつもの、バカにしたような冷めたような言い方じゃなくて、呆れたみたいに。

俯いた理人の目尻が赤くなっている気がする。泣くなよ理人。もう嫌いだって他人だって思っても、家族としてずっと一緒に過ごしてきた相手に泣かれると私も辛い。やっぱりお互い情はあるんだろうね。


「理人もね、新しい生活頑張りなよ!まだまだ人生長いんだから。チヒロに会えないのはさみしいだろうけど、私が責任持って立派な男に育てるからさ、どうか心配しないでよ」

「心配だから……流されやすいし子供っぽいし、お前ほど頼りない奴もいないわ」

「そこは。そこは私も成長中だから。ちゃんと子供や自分を大切にしていきます」


真面目な顔で宣言すると、理人はちょっとだけ笑った。

どうせ元の世界にいたって、離婚したら離れるんだから。そう変わらないって。千裕のことはあれだけど、私の事はどうか気にせず生きていって。


嫌いになったり苦しめられたり憎んだり、負の感情をたくさん覚えた理人だけど、この先別の世界に行って会えなくなると思うと、不思議と「幸せになって」と思える。

浮気のことで悩んでたことが遠い昔に感じる。

やられたことはやっぱりトラウマだし許せないけど、きっとそれも今後時間と共に薄れていく。

それでいい。


「これ、渡しておくね」


こっちの世界に連れてこられたときに持っていたバッグをテーブルに置く。

スマホや財布や鍵は、この世界では必要ない。あとはこれ。


「帰ったらこれ出しておいて」


緑の紙。

記入済離婚届。

これはね。これは出しておいてくれないとなんかモヤっとしちまうね。

ていうか帰らなかったら私と千裕の存在って元の世界でどういったことになるんだろうね。

普通に行方不明扱いなのかね?

とりあえず離婚届出したあとに行方不明なったとゆーことでいいよ。私達のこと心配して何がなんでも探す!みたいな人はいないだろうし大丈夫。

どうせこっちの世界にいたらそこはわからんままだし、理人にまかせる。すまんね。


「わかったよ……お前ってほんとバカな」


今のはいつものバカにした言い方だった。

バカってなんだ大事なことだろうが!




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