2.さて、どうしましょうか。
そんなこんなで前世の記憶を思いだしたので、いったん転生後である今現在の現実に意識を戻してくる。
心臓がばっくんばっくんと高鳴っている。
はぁー。
豪華なシャンデリアに柔らかい大きなソファー、暖かな日差しを取り入れてくれる大きな窓がある客室。目の前に受け入れたくない現実があると人はどうしても逃げ出したくなってしまうものだがあいにくその足さえも震えてしまって使い物にならなそうだ。
なんで、なんでイケメン金髪碧眼の王子が金髪碧眼の美少女になってしまっているんだーーー!
仕方がないからその王子、名をレイク・ハルツ殿下だったものに話しかけることにした。
「で、殿下・・・?」
何とか喉から声を出す。
「えーと、な、何...かな?」
殿下が困ったような顔にこれまたひねり出すような声で返事してくれた。
良かった、どうやら殿下だったようだ。
いや、一切良くはないのだが!
ここで一つ試してみたいことができた。
ただ、それを試すのには半ば忘れかけていたそこで意識を飛ばしそうになっている物体の手伝いが必要なので話しかける。
「メイ!出番よ!」
そう、私の侍女であるメイだ。
「はいぃ!なんでしょう!」
いきなり自分に話を振られて驚きで元気に返事を返してくれた。
「あなた、魔力鑑定を使えるわよね?」
「な、なるほど、試してみる価値はありそうですね...」
すこし震えながら魔力鑑定を開始してくれた
この世界には魔力があり魔法を使用することができる。
そして、その魔力というのはひとりひとり性質や流れが違う。
この魔力鑑定ではその人の魔力の性質や流れを鑑定することで身分を証明したりすることができる魔法なのだ。
魔力鑑定は一般的には貴族の付き人や魔法に関する機関に所属している人などが取得している魔法だ。
ついでにこの魔法は相手の協力を得ることで発動できるので誰かの情報を勝手に得たりすることはできない。
まぁ、端的に言えばマイナンバーみたいなものだ(適当)。
鑑定を終えたメイが落ち着きを取り戻した様子で話し出した。
「お嬢様、結果としてはレイク様の魔力と一致していました。やはり、この美少j、こほんこの方とレイク様は同一人物で間違いありません。」
なるほど。それは心強い。
「メイ、馬車の用意をしてもらえるかしら。」
「....どうするおつもりで?」
メイが少しいぶかし気に聞いてきたので
「殿下の義父様と義母様に会いに行くわよ!」
「うわーーーーー!あんまりだー!処刑される―!」
メイがだだをこね始めた。
やめて!?そんなことにはならないようにするから!!
「そんなこと言ったってこれが一番手っ取り早し、正体を隠蔽したりするにはこうするしかないじゃない!二人とも優しいから大丈夫だって!」
すると殿下が
「僕もそれでいかせてもらってもいいかな?両親に失踪してしまったなんて伝わったらこれ以上迷惑をかけてしまいそうだしさ。」
メイがぐずるのを無理やり説得し、いまから私は義父様と義母様もとい両陛下に会いに向かっている。
まぁ、でも国王と言っても温厚な人だし私に対しても少し甘いところがあるのでこのことを言ってみても大丈夫だと思うという甘い考えでとりあえず城に向かっていた。
この間にいったん落ち着いて現在の状況を整理することにする。
まず、この世界はおそらく私が生前にやっていた乙女ゲームの世界だ。
先ほど前世の記憶を思い出しているときに女神がゲームの世界に送ってあげるみたいなことを言っていたので改めて考えてみると共通点がたくさんあったのだ。
まず殿下の名前。彼の名前はゲームの中での攻略対象と同じ名前なのだ。
ほかにも、私の実の兄である優しく黒髪イケメンのアルト・フォート。彼も攻略対象の一人だ。
そして殿下の婚約者であり悪役令嬢、黒髪の根暗でいつも本を読んでいるような一見何も害がなさそうな少女がリリス・フォート。
私なんだよなぁ。
このゲームは15歳になると学園に入学させられ、そこで生活や恋愛をしたり戦闘をしたりとRPG色もある乙女ゲームで、様々な攻略対象と過ごしていく中でヒロインと結ばれるものが出てくる。
だが、そんな中で優秀なヒロインに嫌がらせをし始めてしまうものもいた。
私なんだよなぁ。
なんでそんな私が殿下と婚約関係になったのかというと、親が隣国の貴族と仲が良いので隣国について話をするために城へ行った際に殿下と会い、ずっと本を読んでいたから王子が気を使ってかまってくれたのだ。
まぁ、問題はそこからだった。
大きな図書館へ案内してくれるということで連れて行ってもらったのだが、私が王族にしか立ち入りを許されない禁書エリアに興味を示したらそこへ入れてくれたのだ。
禁書エリアは禁断の魔法や最悪呪いにかかってしまう可能性があるから禁止されているのだが、昔の私はそこにある本を開いてしまった。
本を開いた瞬間、部屋中に黒い煙が立ち込める。
息苦しくなっていく感覚と、光を失っていく視界。
動機が激しくなっていって何も感じなくなって意識をなくした。
その後は無事だった殿下が人を呼んできてくれて何とか助かったのだが、もうあんな思いはしたくないと感じたことだけは覚えている。
まぁ、国としてはそんなことが起きたなど周りに説明できるはずがなく私が殿下の婚約者になって責任をとるという形になった。
両陛下が私に甘いのもそのことによる罪悪感などがあったのだろう。
そして、物語でヒロインに嫌がらせをしてしまうのにもこの呪いが絡んでいる。
この呪いのせいで私の中の憎悪や嫉妬が大きく膨らんでしまい、殿下の時には憎悪で自我を忘れ呪いを暴走させてヒロインを殺しにかかり、兄の時には嫉妬でこれまた呪いを暴走させてヒロインを殺しにかかってしまうのだ。
ほかのルートでもヒロインに対する素直な嫉妬が呪いのせいで、殺しにかかるまではいかないが小さな嫌がらせをしてしまうくらいのものに膨らんでしまっていた。
まぁ、そんなこんなでリリスが暴走したら国としてはごまかしがきかなくなるので戦闘に入り協力してリリスを倒して、小さな嫌がらせは最終的にルートに入る攻略対象にばれて学園を追い出され、物語はハッピーエンドだ。
いや、かわいそうだが!?
とまぁそんな感じでどうやら私はゲームの世界に転生させる予定だったからそんな余裕のない学園入学の一年前に転生させられてしまったらしい。
なので。
私はこの呪いをあと一年で克服してうまく使いこなせるようになればなぁと考えていたりするわけだが、それを始めるのはいったん帰ってから。
まずは両陛下とうまくお話しすることを頑張ろうと、城門を前に意気込んだ。
いざ、ゆかん!
今回もアドバイスなど優しく教えていただくとありがたいです!