終章 この世界の最後に
終章 この世界の最後に
黒い球体に座っている人。その球は、可能性が生まれる度、無限に広がっていく。
球体の外には何もない。黒でもない、白でもない、透明でもない。球体の外には何もない。そこにその人は座っている。
身をかがめ、黒い球体の中を覗くと、全てが同時に見える。過去も未来も、全ての場所が、全て同時に見えてくる。全ての世界の全ての時間と可能性が万華鏡のように見える。
彼はいつまでも、その球の上に一人だった。
遠くから汽笛の音がして、無の空間に光が揺らめき始めた。青い彗星が引いたレールの後を追って、列車が走ってきた。そして、その人の前で止まった。
扉が開き、その人は少し戸惑いながら、足を踏み出した。
車室に入ると、懐かしい男の笑い声が響いている。その男の席を通りすぎる時、坊主頭の男は手を上げて「よぉ」と言った。「もうすぐ出発だぞ」
木村の隣には、少女が座っていた。その子はチラリとこちらを見上げると、少し微笑んだ。そして、その正面に座っている長い髪の女性は不思議そうにこちらを見上げた。
暖かいその横を通り過ぎた。
彼等の斜め後ろの席でもう一組の家族が座っていた。
若い青年のような男性と、美しい顔をした二人の女性。こちらの家族は外の星を眺めながら、静かに談笑している。
そして杉浦はこちらに気付くと、小さく頷いた。
暖かいその横を通り過ぎた。
懐かしい面々が、それぞれの人々と座り、それぞれの過ごし方で列車に座っている。幾多の記憶の中で見た数多の人々が、窓の外の星のように、この中に幻想となって表れていた。
「座りなよ」と向こうから声がした。
木村の隣にいた白い少女が、少し成長した姿になって、そこに座っている。
周りにいた人々は消え、彼女とその人だけが列車の中に残った。
その人は、白い女性の前に腰かけた。白い女性は窓の外を眺めながら、「外の世界はどんなだろう」と呟いた。
輝く星の流れの向こうで大きな石炭袋が宙に大きな穴を空けている。
彼女の目が少し寂しそうに輝いた。「こうして見ていると、少し怖くなってきた」
その手が少し震えている。通り過ぎる、白い肌に新しい世界へといざなっていく星の光が過ぎる。
キゴウは手を伸ばした。
ソラは少し驚いた顔を浮かべ、少し気恥ずかしそうに微笑んだ。そして彼女はゆっくりと、その手をとった。
キゴウは手を包み、小さく微笑んだ。
「大丈夫だよ」
終わり




