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5-5.箱の外

5.箱の外

「先生は?」

「人間の専門医は遠く住んでいたのでVR空間でカウンセリングをしていました」

「あれはバーチャルだったのか」

「そうです」

「まったく気づかなかった」

「VRは5覚全てを現実と遜色なく再現できますので気づくのは難しいでしょう。

 復帰のためにはまず、長期間フリーズされていたあなたの肉体を回復する必要があったのです。ただ、肉体の損傷状態を認識すると精神衛生上よくなかったので、あなたに伏せてVR上で意識は過ごしてもらいました。今は筋繊維も平常時まで戻っているので、VRの時と違和感なく動けるはずです。立ち上がれますか」

「あぁ。うん。問題ない。だけど、なんだかよく分からなくなるな。一体何を信じれば。俺は今本当に目覚めているのか」

「えぇ。しかし、あなたにはこのVR技術というものを受け入れるのに恐怖があります。現代人は当たり前のようにシステムとVRを使いますので、実体生活が生活時間の大半を占めていたあなたとは大きな価値観の溝があります。問題がありそうでしたので最初にVR世界で生活してもらうことによってその順応訓練も兼ねていました。ただ、無理に使わなくても大丈夫です。VRを拒絶する人もいます」

「VRと現実は見分けがつくのかな」起き上がり少し歩きながら聞いた。

「頭の中で聞いてみてください。声に出さなくても結構です」

 目をつむる。

 頭の中に声が響く。瞼の裏に、文字とグラフがが浮かぶ。

〝ここは実体世界です。平常です” 

「ケガをしている部分、ウイルスがある箇所など自己診断もされます。損傷個所は回復しておりますので現在は全て正常です。再生前に腫瘍があったようですが除去しました」

「腫瘍」

「VRにログイン中は、先頭にVRとつきます。睡眠中であればSLと」

「睡眠中でも」

「えぇ、信号を捕らえればいつでも表示できます」

「俺はサイボーグにでもなったのかな」

「何、便利な器官を持っただけですよ」

「そうか」体を伸ばす。「早く慣れないとな」

「こちらに」

 その人に促されて付いていく。

 球体の扉が開く。

「待ち望んでいた外ですよ」

「いざとなると、恐ろしいような気もするな」

「大丈夫。すぐ慣れます」

「VRと現実の区別。AIと人の区別。あなたは人だよね」

 白衣の男は笑う。「私はAIですよ」

「どうやら俺には難しそうだ」

「何、AIはAIかと聞かれたか場合嘘はつきません。ご安心ください」

「ほら、迎えが来ました」

「誰だ?」

「あなたの世話役のAIです」

 その世話役と言う若い男の風貌をしたAIは、正面に立つと手を差し出してきた。

「初めまして。相川と申します」

「杉浦圭司と申します。お世話になります」

「墓場まで面倒みますよ」

「へ?」

「こういうジョークがお好きだとインプットされています」と相川は脳を指さす。

「俺が?」

「えぇ」

「嘘だよ」

「そうでもないみたいですよ」

「どうだかなぁ。まぁいいか。ともかく、これから宜しく頼みます」と圭司が一礼する。

「こちらこそ」

「で、あなた、本当は人間でしょう?」

「いえ、AIです」

「嘘つけ」

「まぁ、どう思われようと構わないですけど」と相川は笑った。


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