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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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幸運の日


「ズビズビッ」

 

 川に落とされてからシオウは軽い風邪を引いた。

 できるだけ服を乾かし、日の光で暖かくなっている石で暖をとっていたが、それでも日頃から栄養の足りていない子供にとって冷たい川の水は、風邪を引くほどであった。


「・・・ごはん」


 本来暖かくして寝ているべきだが、何か食べなければいつまでたっても治らない。

 それを知っているシオウは、何か食べる物を得るために朝早くからゴミ捨て場へと向かった。


「むちゃむちゃむちゃ」


 昨日イヤなことがあった不幸の反動か、今日は運よくゴミ捨て場で大量の腐りかけの食料を見つけることができた。

 他にも古くなって汚れただけの破れていない水袋も手に入れた。

 更に幸運が続き、見つけた食料を住み家に持ち帰る間も、水を汲んでいる間も怖い大人達に会うことは無く、住み家へと戻ってくることができた。


 なので今は狭い住み家に隠れながら腐りかけの食料を思う存分食べている。


「ごっくん・・・お腹いっぱい」


 腐りかけのご飯はお世辞にも美味しいとは言えない。

 それでもお腹がいっぱいになるほどの食料が得られたのは今までで初めての事であった。

 こんな幸福な日があっていいのかと思うほどに、シオウは満足げな笑みを浮かべる。


「・・ふえ・・ふぇ・・ふぇっくしゅん!・・ずずっ」


 とはいっても、食料を求めて動き回っていたせいか、少しだけ風邪がひどくなった気がする。

 それを知ってか、シオウはボロボロの布に身を包み丸くなる。


 動かなければ体力は消耗されず、丸くなれば己の体温で身体を温めることができる。

 風邪を引いたときはとにかく食べて、とにかくお水を飲んで、安静にして、気合で病魔をぶん殴れば風邪など治るモノだと、いつもの変な声が言っていたのでこれで大丈夫なはずだ。


 ブラック企業の末端で生き抜いていた経験のある俺の根性舐めんな! とか、納期が遅れて上からねちねち言われても辞めない私等の根性舐めんな! とか、意味のわからないことを言っていたが、ブラックとか納期とかよくわからない言葉は気にすることなく、ただ根性があればなんとかなるという言葉だけを信じた。


「・・・・・・」


 なので、シオウはジッとして病魔を根性で追い払っているのだが、幼い子供が何もせずに、ただジッとしていられる訳もなく、すぐにソワソワと落ち着きなく動き出した。


「つまんない・・・・・・・・あっ、くりっか~」


 そしていい暇つぶしを思い出したシオウは、親に甘えるように己のスキルを呼び出す。

 プカプカと浮かぶフルフルと震える二匹のスライム。

 初めの頃は、スライムは一匹だけだったが、レベルアップ? ステージクリア? という声と同時に二匹に増えた。


「えへへ、かわいい」


 可愛く揺れるのが倍増されことにシオウはご満悦である。

 そんなスライム達を、シオウはえいっ! えいっ! と何度もつついて驚かせる。

 時にリズムを変えて、時に二匹同時にびっくりさせられないかとタイミングを合わせてつつき、疲れ果てて眠るまで何度もスライム達と遊び続けた。


 病気の時は心細くなるもの。

 シオウにとっておしゃべりも出来ず、温もりも感じないただの可笑しな絵であったが、触れれば反応を返し、何より傍にいてくれることで安らぎを貰えていた。


『ステージクリア! ステージ3に上がります! くわえて貴方の全てが上昇します!』


 そして疲れ果て眠ってしまう直前にそんな声が聞こえてきたが、シオウはその声に気付かず深い眠りにつくのだった。




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