この兎人族を出したかったのですよ
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「カタカタカタカタ」
「サヨコさんしつこい。いい加減にしないと怒るぞ」
「それはこっちのセリフです。いつまでも我儘をこねていないでこちらの言う事に従いなさい」
「イヤだ!」
バチバチと火花が散らせるシオウとサヨコ。
その間にいる兎人族の子供は物凄く居心地悪そうに、そして二人の殺気立つ雰囲気に当てられてか身体を震わせていた。
いつもの如く人族であり、聖教国人のような治療法をヒノエに施したシオウが気にいらないサヨコが突っ掛かった・・・・・と言う訳ではない。
「イヤだではありません。ヒノエ様達は今身分の高い方々にお会いに向かわれているのです。ですからこういった正装は必要なのだと言っているでしょ。なくて困るのは貴方なのだから黙って私の忠告に従いなさい。着付けならばヒノエ様の従者の誰かに頼めばいいだけなのですから」
その件は、というか声をかけるとサヨコは丁寧にお辞儀をしたのちに、家へと招かれ、そのまま無礼を掻いたことへの謝罪をされたのだ。
なぜいきなり謝罪してきたのかわからないが、シオウを見つめるその視線には、憎悪や嫌悪感といった感情はなかったので、一応はその謝罪を受け入れた。
なんだろうね。お前なんて嫌いだもんね! と思うようにしようとしたら、いきなり謝られて、仲良くしようねと言われても困る感じだ。
もうちょっとタイミングを考えて仲良くしようねと言われたかったよ・・・。
「イヤだったらイヤだ! 何でそんなカッコよくないの着なくちゃいけないんだ! 動きにくそうだし、帽子がとんがってるし、木の、木の板? 何かも持たなきゃいけないんでしょ? そんなのヤダよ! なんかカッコ悪いし!」
「これはサイジョウ家に伝わる由緒正しき男児の格好だと言っているでしょ。それと正装とは動きにくいモノなのです。諦めなさい」
「や~だ~! こんなのいらないたらいらな~い!」
まぁそんな感じで仲良し! と言う程ではないが、普通にサヨコさんと話せるくらいにはなった。
なったのだが、ヘンテコな服を渡そうとしてくるからちょっと喧嘩になりつつある。
だって、この服変なんだもん。
変に尖っている真っ黒な帽子(烏帽子)に、無駄に何枚も何枚も同じような服を着なくちゃいけない。
寒くも無いのにそんなに大量の服を着こむなんて意味がわからないよ。
「イヤだったらイヤだってば! なぁ! お前からもなんとか言ってやってよ! こんなカッコ悪いのなんて嫌だって! もっと動きやすくてカッコイイのがいいって!」
「カタカタカタカタフルフルフルフル」
カタカタと震えながら小刻みに首を横に振る兎人族の子供。
兎人族の子供の隣には、この子供専用の綺麗な着物が置かれていた。
とても可愛らしい兎人族の子にとっても似合いそうな着物である。
流石サヨコ。
センスが良い。
「震えてないでなんか言ってってば! じゃないとその兎耳ひっぱっちゃうぞ!」
「いくら貴方が助け出したと言っても無下に扱うことは許しませんよ。それと兎人族の耳は愛する者にしか触ってはいけないと言う理由があるのです。ですから無暗に触れてはいけませんよ」
「おぉ!? まじか!? 了解だよ。ならお髭引っ張っちゃうぞ! それが嫌ならなんか言ってやってよ!」
「お髭も触ってはいけませんよ。獣人にとってお髭は視力を奪われた際に、物との距離を測るためにも使われるのですから」
「おぉ!? まじか!? 獣人すんげぇ~。なら尻尾を引っ張る!・・・・はダメだよなぁ」
「カタカタカタカタブンブンブンブンッ!」
お尻に手を回し、尻尾を守る動作をする兎人族の子供。
耳やお髭を引っ張ると言った時よりも拒否反応が強いので、尻尾は一番触れられたくない部位なのだろう。
「獣人にとって尻尾は親愛、友愛、敬愛、家族愛など、各獣人にとって意味合いがありますので、本人の承諾なしに触れることはこの共和国では重罪となります。ですので子供だからと言って安易に触れることは許されませんよ」
「うぃ~。それは言われなくてもなんとなく理解しているからやらないよ。言ってみただけだよ・・・けど他に何を引っ張れば、う~ん・・・・あっ! ならちんちん引っ張るぞ! それが嫌ならこのヘンテコな服がイヤだって言ってやれ!」
グッパ、グッパと手を握りながら脅すシオウ。
そんなシオウの言葉にサヨコは頭を痛そうに手を添えながらかぶりを振る。
「女の子にそう言う事は言ってはいけませんし、女の子にはそう言うのはついていません」
「う?・・・・・・・・・・・・・・・う?」
呆れた声で注意されるがシオウは意味がわからず首を傾げる。
だってコイツは、この兎人族の子供は
「お前男だよね?」
「う、うん・・・僕・・・男・・です」
「え?」
男の子なのだから。
この兎人族の子供はとても可愛らしく、そこらにいる女の子よりも容姿の整った男の子・・・いや男の娘である。
声変わりもしていないのでとても柔らかく女の子のように思えるだろうが、性別は男なのである。
「だからちんちん引っ張るは間違ってないよな?」
「・・間違ってないけど・・・痛いから・・・やめて」
「ならお前も言ってやるんだ! ほら! 言ってやって! 言ってやって!」
当初の目的である、このヘンテコな服にモノ申せと言わんばかりに、グイグイと背中を押すシオウ。
そして背中を押された兎人族の男の子はあうあうと身体を震わせながらも、サヨコに視線を向け。
「じょ、女性用着物は着たくない・・・です」
「あ・・はい」
己のために用意された着物であるが、流石に容姿以外は男である兎人族の子供は、女性の恰好を拒否するのだった。
「そうだそうだ! もっとカッコ良くて動きやすいのにしてよね! それといい加減シェミちゃん達がどこに行ったのか教えてよ! このお土産上げるんだから!」
「僕生贄じゃなくて・・お見上げになったの?」
「生贄でもある! ノアちゃんが来たら君を生贄に僕は逃げるんだからな! だからちゃんと生贄の盾のお土産として頑張ってノアちゃんを引き付けるんだぞ! その為に聖教国からわざわざ運んで来たんだから!」
「わかった。恩は返す・・・よ」
「う! そのいきだ!」
「・・・そう言う風に人から誤解を受ける物言いをしないようにしてください。盾だの生贄などと良くない言葉を吐けば、人族を良く思っていない人達から変に勘違いされかねませんよ」
「う?・・・・・うぃ!」
「・・・・もう遅いような」
「う? なんか言った?」
「・・・なんでもない」
先日殺された同族を思い返しながらも、兎人族の男の子は特にそのことを報告することはなかった。
多分報告したら報告したで色々こじれそうだったし、何より殺したのはシオウではなく帝国の女騎士なのだから。
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