第91話
鬼が大量の焼酎を飲み干し酔いつぶれたのは日が傾くほどの時間になってからだった。
「ずいぶんかかったが、まあ、何とかなったな」
「凄い飲んでましたよね。最後には一気に川の水を飲み干すかのような勢いでしたもんね」
さすが部屋を埋め尽くすほどの酒を一瞬で飲み干すのは圧巻だった。昔話の三枚のお札に出てきた、川を飲み干す山姥を連想した。
「それにしてもお酒を出せることをわざわざ言うなんて、シロキさんにしては珍しい事ですよね?」
「ああ、まあ下手したら酒を出すだけの道具扱いをされかねなかったからな」
「いや、この町が一番怪しいんじゃないですか。この鬼が一番目の色変えていましたよ」
確かに呑気にいびきをかいて眠る鬼が一番の危険人物ではあった。だが、そうはならないだろうとも思っていた。
「うまい酒を飲み続けたい。というだけなら俺を無理に閉じ込める必要はないだろう。俺が杜氏で酒を造れるというのならなおのこと閉じ込めておかずに作らせるはずだ」
おそらくあの鬼は俺の酒だってすぐに飽きる。ならば俺を軟禁して酒を出させ続けるよりも酒を造らせることを選ぶだろう。
「そうだとすると、シロキさん最悪の場合ここでお酒を造るつもりだったんですか?」
「そうなったらそうなった時だったな」
もともと俺は戦闘系スキルを持っているわけではない。本来は冒険者には向いていないんだ。
ならば酒を造る施設を作れるだけの技術や知識のあるこの地に腰を落ち着けるのはありだった。
そして幸いなことに、アドの保護者ともいえるフウマさんが現れた。最悪俺がどうなったとしてもアドは無事だ。
「ま、それが最悪というわけでもないしな。こっちの世界に来なきゃ相変わらず酒を造っていただろうし、むしろ俺の人生が元の軌道に戻るだけとも言える。さてと、いつまでもこんなところにいてもしょうがないし、さっさと帰るか」
転がる酒樽を空間収納に回収して、部屋を出る。
さっさとリンガンさんたちに無事を知らせようか。
「お前ら! 無事だったか!」
「おおぉ。リンガンさん近い近い」
ギルドの一階部分に戻るとそこに待機していたリンガンさんが詰め寄ってきた。
「見ての通り無事ですよ」
「お前らちっとも戻ってこないから心配したんだぞ。あのバカ鬼が暴れる気配がしたら飛び込もうかっていう話になったんだが、全くそんな気配がなくて何時飛び込むべきかわからなくなってな」
「心配かけたようですけど鬼は酔いつぶしたので問題ないです」
そう告げたとたん、周囲がざわめく。
「あいつを酔いつぶしただと?」
「嘘だろ? 酒蔵を三つ潰しても酔いつぶれなかったのに?」
「でも、あの酒に狂った鬼がおとなしくなるなんて酒を飲んでいたとしか……」
ざわめきの中一人が近づいて来る。
「はいはい。お前ら。気になるのは分かるが、あんまりじろじろ見るもんじゃねえぞ」
「さっきの河童の人」
リンガンさんのところに迎えに来た河童だ。同じ河童だよな?
「おう。河童の河太郎が俺の名だ。俺がここの副ギルド長な。迷惑かけてすまなかった。そのうえで悪いが上で何があったか奥で教えてもらえるか?」
断りたいところだが、河太郎さんからしてみらたらあの鬼を黙らせる方法があるなら知りたいところだろう。それが実現可能かどうかは別としてもだ。
奥の部屋に移る。ちなみにアドも一緒だ。
「面倒掛けて済まねえなぁ。こっちの都合で振り回して」
するといきなり頭を下げられた。河童の皿はそんな風になっていたのかとまじまじと見ることになった。
「あの鬼はちょくちょく、酒が切れて機嫌が悪くなってな。俺らも困ってたんだよ。昔は酒蔵も協力してくれて酔いつぶしていたんだが、迷惑かけた事があったせいでどこも協力してくれなくなったんだよ。その上酒屋で一人で買い占めるわ。その上不味いと文句を言うわで他の酒飲みからも不評だったんだ」
リンガンさんが酒樽の返却をする前に樽をどんどん買っていたのは買い占め対策だったのかもしれない。樽を返さずに転がしていたの単純に面倒だったからだろうけれども。
「それにしても何でそんな人が上に立ってるんですか?」
「いや、酒が絡まないと本当に優秀なんだよ。ああ見えて戦闘だけじゃなくて書類仕事もできるんだから、人は見た目によらねえもんだ。だからあいつが上に立つのは誰も異論はないだよ。ってことで、あいつの酒癖の悪さをどうにか出来ねえかといつも頭を悩ませていたわけだ。そんな時にめったに酔いつぶれないあいつを潰したお前さんに話を聞いたら解決への糸口が見つからねえかと思って声を掛けさせてもらった」
「なるほど。とはいえ、俺がやったことはたらふく酒を飲ませただけですけどね」
「ああ。そうか。期待はそんなにしてなかったが、やっぱりそんだけだよな。はぁ。あいつのわがままにこれからも付き合わされるのか……」
疲れ切った様子の不快ため息だった。
「まあ、荒れている理由は分からないわけじゃあないんで、解決策がないわけじゃあないですが」
「本当か?!」
希望を見つけたせいか河童の表情が一気に晴れる。
「ダメでもともとというつもりで良いなら」
「ああ。もう長年の悩みだから今さらダメでもしょうがない。何かいい案でもあるのか?」
ならば。
「お祭りでもやってみますか?」
今後シロキがなろう系主人公っぽくなるかもしれません。




