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魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~  作者: 鯨七号
第三升 異世界都市スメント
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第84話 鍛冶場2

「納得のいく説明をしてもらいたいもんだ」

 リンガンさんの声には明らかに怒気が含まれていた。

 未熟者に劣ると言われれば誰だってプライドが傷つく。

 生半可な言葉では納得できないだろう。

 とはいえ、明確に言葉にするのは難しい。あってないような理由だ。

「なんというか惹かれるんですよ。物の良し悪しとは全く別のところに魅力を感じているんでしょうね」

「ずいぶんとあいまいだな」

「そりゃあ、俺には武器を見る目があるわけじゃないですから。ただ……」

「ただ?」

「言葉にできないだけで、ちゃんと選んでます。見る目がないと言われてもこれを選んだことに後悔はないです」

「なるほど。ついてきな」

 案内されたのは、薄暗い倉庫だった。

 数多くの刀が乱雑に置かれている。

「ここには全く売り物にならないものから一流品まで置いてある。自由に選んでみな」

 俺は埃臭い倉庫のなか、刀を見て回る。アドとリンガンさんは話しながらついて来る。

「店よりもたくさんありますね。でもなんでここに置いてあるんですか? 一流品なら店に置いておけばいいんじゃないですか?」

「なぜかまったく売れなかったもんを置いてある。いつまでも店に出しておけねえからな。ただ、久々に見つめなおすと何がダメだったのかわかるのさ。だから取ってある」

「なるほど」

「店に並んでいたものより特色が強いものがならんでるから、選び手の意図も見えてくるってわけだ」

 そんな話を尻目に、俺は三本ほど気になる刀を選び終えていた。

 鞘から出さずに選べるあたり、見て分かるものを基準にして選んではいない。

 だけど明確にこれだという物を選んでいる。

「ほーう。なるほどこうして並べるとよくわかる。ちなみにこの中でどれが一番だ?」

「これですかね。一つだけ選べと言うならこれを選びますね」

 刀身だけのむき出しの刀だった。

「そうか、その刀か」

 感慨深そうにリンがんさんは目を伏せる。

「そいつは置いておくとして他の二振りから説明するか。こっちは俺が最初に打った刀だ。未熟もいいところの一振りだ。今でも見るたびにたたき割りたくなる」

「シロキさん。またすごいのを選びましたね」

「いやぁ。それほどでも」

「ほめてないですよ」

「だがな。こいつを初めて打った時のことは今でも覚えている。鉄を打つ音も熱もすべてが楽しかったなぁ」

 当時を思い返しているのか、リンガンさんは楽しそうに話す。

「次のこいつはお前さんが選んだ中で一番いい刀だ」

「シロキさんようやくいいものを選べたんですね」

「あー。選んだ中でそれが一番微妙だったんだがなぁ」

「こいつも俺が打った刀でな。俺の爺さんが死んだときの作品だ。泣くように鉄をたたいて、激情に身を任せて作った作品だ」

 技術こそあれ、駄作だよ。とリンガンさんは言う。

「そして最後。お前さんが選んだのはその爺さんの最後の作品だ。病に伏せていつ死んでもおかしくないのに鍛冶場に立ってそれを完成させたんだ。鬼気迫る表情で誰一人止めることができなかった」

「死ぬまで刀鍛冶だったんですね」

「ああそうだ。爺さんの最期の言葉は『刀を打たない刀鍛冶がどこにいる。俺は病人じゃない。刀鍛冶だ』ってな」

「凄いものですね。刀一本に物語があるものなんですね」

「いや。そういうものもあるってだけだ。普通はそんな刀めったにねえよ。あるとしても後数本だ」

「ということはシロキさんは物語のある刀を選んでいる?」

「いや。だったらこっちの刀も選んでるだろうな。こいつはどうだ?」

 そういって引っ張りだしてきた刀を俺に見せる。

「これは選ばないですね。俺が選んだ基準からは程遠い感じがします」

 それは俺の琴線に全く触れることのない刀だった。

「こいつは爺さんが死んだときに親父が作った刀だ。物語のあるなしだけで言うならこいつも一緒に選ばれなきゃおかしいわけだが、お前さんには見向きもされないわけだ」

 なぜ? という疑問に対してリンガンさんは答える。

「こいつを打った親父は俺とは逆に腑抜けていた。気持ちは全くこめられず無心。ただただ技術のみを注ぎ込まれた刀だ。

 つまり、お前さんは技術を見ているわけじゃなく、こめられた思いを見ているんだろうな」

「ちょっといいですか。そのお父さんの件はともかく、職人さんはいつだって最高の物を作ろうとしてるわけじゃないんですか?」

 アドの疑問はもっともだ。

「そりゃあ、いつだって最高の作品を目指すさ。だがな。そう簡単に気持ちなんてもんを込められるもんじゃない。そうだな。お前ら冒険者だろ? そうすると初心者のころ必死にゴブリンとか狩ってきたわけだ」

「そうですね」

「でだ、そのうち別の魔物を倒してどんどん強くなるわけだ。そうして強くなった時に初心者の頃の熱意をゴブリン相手にぶつけられるか?」

「それは……」

「容易く倒せるようになって結果は出せるだろうな。だが、そのころの熱意はそこにはないだろうさ」

「なるほど。よくわかりました」

 リンガンさんのたとえにアドは納得する。

「何にしても兄ちゃんの見る目は独特だ。早死にしたくなければ気をつけな」

 リンガンさんの言葉は暗に冒険者は向いていないと言っていた。

 技術を伴わない刀を選んだように、いつか結果の伴わない行動を選んでしまう。その結果どうなるか……。

「肝に銘じておきます」

 俺にはそう答えるのが精一杯だった。

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