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魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~  作者: 鯨七号
第三升 異世界都市スメント
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第83話 鍛冶場

 気絶から目を覚ますと知らない天井がそこにあった。

 いつの間にか普段の服装に戻っており、畳の上の布団で寝ていた。誰が着替えさせてくれたのかわからないが、アドでないことを祈る。三十過ぎたおっさんとはいえ、羞恥心はあるのだ。

 ここに誰かいれば尋ねることができていろいろと楽だが、残念なことに周囲には誰もいない。

 とりあえず下手に動くのことも寝たふりをするのもやめておこう。動き回られて困る場所であるなら長いこと放置されずに、すぐに誰か来るだろう。

 動かずにここがどこか、判断する材料がないかと周囲を見渡すが、布団のほかにちゃぶ台が置かれている他は箪笥のような収納用の家具が置かれているだけだ。中を覗くわけにも行かないのでなんのヒントにもならなかった。

 どこからか聞こえる金属音と鼻を刺すようなすすけた匂いが独特の雰囲気を醸し出していた。おそらく何かの作業所の仮眠室かなにかだろう。

「おう! 兄ちゃん目を覚ましたか」

 俺の相撲の相手だった男とアドが部屋に入って来た。

「シロキさん。生きてますか?」

「とりあえず、無事だな。頭と首が痛いけどな」

「そうだろうと思って薬作ってきましたよ」

 そういうアドの手にすり鉢があった。

「ゴコウさんに薬の作り方を教わっていてよかったですよ。店で買うよりもかなり安上りにすみました。ちょっと寝てくださいね」

 アドがおでこに薬を塗ってくれるとひんやりとした感触と共に痛みが引いて行く。

「すまんなぁ。つい力が入っちまって吹っ飛ばしちまった」

「それはまぁただの俺の実力不足です」

 そう、本当に実力不足が招いた結果だとしか言いようがない。武器も魔法もなく、体一つで戦いに挑んだら俺はその程度というわけだ。

「それでここは……」

「おう、俺んちだ。目ぇさましそうになかったから連れてきた。ちょうど近くに病院もあるかんよ。あそこに裸で置いておくよりいいと思ってな」

「そうですか、すみません迷惑をかけました」

「なぁに。いいってことよ。おっと名乗ってもなかったな。俺はリンガンっていうただの刀鍛冶だ」

「シロキです。ただの冒険者です」

「リンガンさんがシロキさんを着替えさせてくれてくれたんですよ」

「ありがとうございます」

「なあに。俺は運んだだけだ。礼を言うなら嬢ちゃんにも言ってやりな。着替えは俺だが、運ぶのも薬も嬢ちゃんが引き受けたんだ」

「そうか。アドありがとうな」

「いえいえ。シロキさんが倒れるのはいつものことですし」

「……俺ってそんなに倒れている?」

「ゴブリンの時はげろまみれで、トレントの後始末の後の宿屋でも倒れてましたね。後ゴコウさんとの訓練でもよく倒れてましたよね」

 全部事実なので言い訳もできない。

「はい。これで良しっと。それじゃあ、長居してもお邪魔でしょうし帰りましょう」

「ええと、何かお礼を……。」

「そんなもんはいらねえよ。手加減を間違った俺も悪かったしな」

 それになと。リンガンさんは付け加える。

「儀式を軽んじ、自然への信教のねえ奴らと相撲を取るよりもよっぽどいい試合だったさ。あいつら酒目当てに形だけの相撲取ってるだけだからな。ま。俺も酒が飲みたくて参加してるようなもんだから人のことはいえねえけどな」

「そういう人は多いんですか?」

「多いも何も、たいていの妖怪はそういうやつらさ。俺たちは信教される側だってな」

 確かに日本でも神様だけでなく妖怪も恐れ敬われてきた。だからその言い分もわからなくはないのだが、どんな行いでもいいというわけではない。相応の立ち振る舞いがあってこそ敬意が払われる。

「中でも鬼はだめだ。信教の欠片もねえ」

「長介さんの酒蔵の腐造の件も鬼だって話だったなぁ」

「さっき、参道の中央を歩いていた妖怪も鬼でしょうか? 確か角も生えていたような」

「妖怪でわざわざ参道の中央を通る奴はそいつしかいねえから、間違いねえな」

 桃太郎などでも物語に描かれている傍若無人な鬼とイメージは近い。

「そんなんでもここの領主だ。頼りにもされてる。信教がないってのも、よく言えば神頼みせずにしっかりとやってるともいえるしな」

「なるほど」

「っと話がそれたな。そういうわけで礼はいいさ。ああ、なんなら、うちの店を見てってくれや。いいのがあれば買ってくれりゃあいい。鍛冶屋にとってそれ以上の誉れはないさ」

「シロキさん。ここ高いですよ。そんなお金ないですよね。どうしましょう」

 アドがこっそりと俺に耳打ちする。下手なお礼をするより金がかかりそうだと戦慄する。

「はっは。無理に買う必要ねえさ。なんなら目に付いた作品を指さすだけでいいさ」

 そういうリンガンさんに案内され、店に移動すると無数の刀が並んでいた。

「うひぁ」

 壁に飾られている刀の値段を見て、思わず変な声が出た。幸いなことに店番と思われる少女がカウンターに座っているだけで客は一人もいなかった。

 手も足も出ない金額だった。買えと言われていなくて心底よかったと安堵する。

「さ、この壁に飾ってあるのから選んでくれや」

「まーた親父が阿呆なことをしてやがる」

 カウンターにいる娘があきれた様子だ。

「いいじゃねえか。もしかしたらお前の一振りが選ばれるかも知れねえじゃねえか」

「有象無象に選ばれたところで何の意味もねえよ。大体、一流の作品が並んでる中から三流の作品を選ぶなんて、見る目がないにもほどがある。親父がいるなら私は裏に行くよ」

 そう言い残して、彼女は店の奥に消えていった。

「娘さんですか?」

「ああ。娘のリンダだ。俺に似たのか刀ばっかり打って、ろくに客を見やしねえ。ま、あいつのことは放っておいて商品を見てくれ」

 言われるままに、刀を見て回る。

 以前他の武器屋でも、剣を見て回ったが、一本一本の迫力が違う。

 空に浮かぶ星の中でどれが一番か聞かれているかのような気分になる。

「私はこれですね」

 そんな俺に対してアドは一振りの刀を選ぶ。黒塗りの小太刀。値段はついていなかった。

「物の良し悪しは分からないですけど、これくらいの物じゃないと私は扱えないんですよね」

「確かに嬢ちゃんに扱えるのはその小太刀だけだ。扱えない刀にゃあ、価値はないってのは確かに道理だな」

 どうやらアドは納得のいく刀を選べたようだ。

「みれば見るほどどれがいいのやら……っと。これは……」

 部屋の隅にある一振りの刀が目に留まる。

「兄ちゃんも決まったかい?」

「ええ。これです」

 何の飾り気もない。シンプルな刀身。

「こいつを選ぶとは兄ちゃん。見る目ないな」


「こいつが娘の作品だ。選んだ理由を聞かせてもらおうか」

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