↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~  作者: 鯨七号
第三升 異世界都市スメント
81/93

第79話 好きな果物を漬け込む

 宿の厨房を借りて用意した道具を机の上に並べる。

「さて、アド。果実酒を漬け込むうえで大事なことは何かわかるか?」

「いきなりそんな問題を出されても……。果物をお酒に漬けるだけなんですよね? 愛情とかですか?」

「あながち間違ってないかもな」

「ええぇ。愛情でおいしくなるんですか」

「いやいや、ただ気持ちを込めてなんていうだけで料理がおいしくなるなんて俺も思ってないぞ」

「じゃあ、どういうことですか?」

「料理っていうのは本格的にやろうと思うと結構大変だからな。煮物作るにしても肉や野菜を切ってぶち込むだけなら楽でいいけど、肉の筋切りやら面取りやらにこだわったら相当面倒な作業になる。それでお金を稼ぐ料理人としては当たり前のことかもしれないけど、主婦でそれをやり続けるのは愛がなくちゃやってられない」

「シロキさんがやってるところ見たことないですけどね。私に対する愛はないんですね」

「アドは教えたらやってくれるか?」

「いえ。面倒くさそうなのでやらないと思います」

「だよな。でも面倒でも具材を一口大に切るし、火を通す。最低ラインかもしれないけどこれもまた愛情なわけだ」

「それは本当に最低ラインでしょう。塊のままだったら口に入らないし、火を通さなかったらお腹を壊しますよ」

「その通り。で、今回の果実酒での最低限の愛情というのは徹底した衛生管理だな」

「手洗いですね」

「それに加えて、容器を全部煮沸消毒をする」

「お湯で容器を煮るんですよね。そういえばゴコウさんが薬を入れる容器にやってましたね」

 ゴコウさんに調剤の指導を受けていた時の記憶が残っていたようだ。

「だからお湯を沸かしていたんですね。なんでまたこんなことをしてるのかと思いましたよ」

 準備がスムーズにいくように事前に竈で大量の水を火にかけていた。量が量だけに沸騰どころか温まり始めたばかりだ。耐熱ガラスというわけではないので割れない様に沸騰する前に入れなくてはならない。

「では、消毒する容器をお湯に沈めようか」

「そういえば私がやるんでしたね」

「まあ、本当に今回はほとんど手を加える必要がないから、下準備からやってもらわないと愛着なんてわかないだろうからな」

 アドがガラスの容器をひとつづつ沈めていく。

「あれ? 容器って二つも必要なんですか?」

「念のために用意したけど必要ないか」

「また無駄遣いをしてますね。とりあえず入れておきますか」

「まあ、酒に関すること以外は節制してるつもりだから許してくれ」

 しばらく待つとお湯が沸騰し始めた。ぐつぐつと茹る鍋を前にしてアドは首をかしげる。

「これどうやって取り出すんですか?」

 お湯に手を突っ込むわけにはいかないが、道具で持ち上げるには難しいと思ったのだろう。

「煮沸消毒した菜箸なんかを口に突っ込んで持ち上げれば大丈夫ということで菜箸、あと包丁とまな板もな」

 しっかりと容器を煮込んだ後、菜箸を取出しガラスの容器をお湯から引き上げるだけだ。

「容器の中に残ったお湯に気を付けて引き上げるようにな」

 助言に従い、アドはゆっくりと容器を取り出し、しばし、冷めるのを待つ。

「結構準備には手がかかりますね」

「準備だけなんだけどな」

 冷めた道具を用いてようやく調理を開始する。

「まずはリンゴを切ります。細かく切る必要はなくざっくりと切ってくれ」

「はい」

「あとはリンゴと砂糖を交互に容器に入れて、最後にお酒を注げば終わりです」

「…………簡単というか本当にそれだけなんですね」

「で、これが最後の仕上げのお酒なんだけど」

「けど?」

「蒸留してかなり度数が強くなっているからこのまま入れるのは、ちょいと濃いから薄める必要があるな。ちょうど煮沸消毒した容器もあるし、この中で薄めてもらうか」

 煮沸消毒をしたときに使ったお湯を冷まして混ぜ、それをリンゴと砂糖の中に投入。

「これで完成ですね」

「ああ。そうだな。しかし酒も砂糖もずいぶん余ったな。どうするかな」

 酒は薄めれば飲めるが、砂糖は料理に使うにしてはかなり面倒な量だった。

「ああ、ならちょうどいいですね」

「ちょうどいい?」

「もう一つ漬け込めばいいんですよ」

「また市場に買い物に行くのか?」

「いえいえ、そんなことをする必要はないです。シロキさんがいれば大丈夫です」

「…………俺を漬け込もうっていうのか」

 ホルマリン漬けにされる姿を想像してしまう。そんな俺にアドは冷めきった視線を向けていた。

「バカですか。シロキさんのケーキに乗っているイチゴですよ。出せますよね?」

「ああ、あれの事か」

 手元にあったまな板の上にぽろぽろとイチゴを出す。

「ふっふっふ、これをお酒に漬け込みます。お金もかからない名案でしょう」

「確かにな」

「きっとおいしいものができますよ。楽しみです」

 そういってイチゴを漬け込むアドの表情は確かにリンゴを漬け込む時より楽しそうに見えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。