第70話 ナゴヤを作った理由2
俺の心の叫びを聴いたアドは満足そうにしている。
「いい反応をしますね」
「まあ、納得できたよ。異世界都市なんて呼ばれる理由はよくわかった。もともとこっちの住民から見ても異世界だろうし、あっちの世界から来た俺たちから見ても、もはや見知らぬ世界だな」
妖怪なんて向こうの世界でとうに消え去っている。というか完全にフィクションの存在でしかない。
しかし、妖怪が存在するとは予想もしていなかった。
「お客さんみたいにいい反応してくれることが私たちの生きがいなんですよ」
そう言う店員の顔には先ほどの無表情と違って大きな口が笑みを浮かべていた。
口だけの不気味な笑みに思わず息をのむ。
「はは、お客さん。そんなんじゃ町に行ったら心臓が止まっちまうよ」
俺の様子を見て店員はケタケタと笑う。
「蚤の心臓しか持ってないからな。正直偽物だと分かってる物にすらビビるからな」
もともとホラー映画は見ないし、お化け屋敷には近づきたくない人間だからな。夜中にのっぺらぼうを見るだけで町から逃げ出すことになりそうだ。
「俺ほどビビるのはほとんどいないだろうけど、同じような異世界人も多いだろうな。」
いくら元の世界の環境に近くても、お化け屋敷のようなこの町が合わない現代人は多いだろう。
「しかし、この団子うまいな。醤油も団子もしっかりできてる。あっちの世界の物と比べても遜色がない」
「そりゃあ、こっちに来る人に知識を分けてもらったり、味を見てもらったりしてますからねえ。お客さんも何か助言があれば教えてもらえると助かります」
「そうだな。たぶんもう誰かが言っていそうだけど、思いつくのは醤油だれに砂糖やみりんを加えるとかか、くらいかな」
「そうですねえ。そういった話は聞いたことがありますね。ただ材料が手に入らないんで、難しいんですよ」
「だろうなぁ。砂糖とかなかなか手に入らないよな」
「いえ、砂糖は手に入りますよ」
「ん? じゃあ、みりん?」
製法が伝わっていないとかそういった理由なのだろうか?
「昔は作られてたんですけどね。こっちでは手に入る米も少なくて貴重だから、年々作られなくなって、今じゃ作る奴は一人もいなくなっちまった。今でも米は不足してるからこれからもスメントでは作られないでしょうねぇ」
店員は感慨深い面持ちで溜息をつく。
料理人としてはおいしいものを作りたいのだろう。
そんな店員にアドは疑問を口にする。
「その割にはお米をお団子にはしているんですね」
「そりゃあ、米粉は余るからな。団子にもなるさ」
「? どういうことです?」
何でそんな状況になるのかアドは分からないようだ。
ただ、俺には米が足りずに米粉が余るという状況に思い当たるものがあった。
「まさか、全部酒にしてるのか?」
「おお、お兄さん。あたりだよ。この町だと米は全部酒になるのさ」
「全部かよ。どんだけ酒好きだよ」
「ちょ、一人で納得してないでどういうことか説明してくださいよ」
「日本酒っていうのは、米からできるのは知ってるよな」
「一応。シロキさんが言っていたような覚えがあります」
「で、その米はまるっと材料になるわけじゃない。俺がこの間米をゴリゴリと削っていたのは覚えてるだろ?」
「夜中にやっていたのですね? 迷惑でしたよあれ」
「ああやって精米するとおいしい白米が炊けるんだよ」
じっとりとした視線が向けられるが、受け流して話を続ける。
「日本酒の場合、さらに米を削って雑味を取り除いて作るんだ。その過程で削られた粉が、団子になってるんだろう」
「へぇ。そうなんですか」
「お客さん詳しいねぇ。その通りだよ」
団子屋の店員が知っているかどうかは分からないが、一つ聞いてみたいことがあった。
「なぁ。その酒の精米歩合は、いや、米をどれくらい削ってるんだ?」
「あー、どうだったかな? 確か半分は削ってるとか聞いたな」
半分は、か。
それはつまり精米歩合50%以下、大吟醸と呼ばれる贅沢品であることを示していた。




