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魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~  作者: 鯨七号
第三升 異世界都市スメント
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第68話 異世界の馬車窓から

 馬車に揺られながら、スメントへの移動中。俺は変なポーズをとっていた。

 左手は手の平を手前に、右手は手の平を奥に向け、それぞれの親指と人差し指の間の付け根を合わせていた。

 まるでダンスの振り付けの一部のようなポーズだ。

 そこから付け根をゆっくりと離していく。

 長方形の窓ができ、そこから向こう側を覗く。今度はカメラマンが被写体に向けるポーズになる。

「……またダメか」

「そりゃあ、簡単に出来たら私の立つ瀬がないですよ」

 何をしているかといえば、空間収納の魔法の練習だ。

 無計画に米麹を作り、荷物を増やすという失態を挽回するためだ。米麹を抱えたまま戦うわけにはいかないので習得しろとアドからのお達しだ。

 で、そのアドが教えた空間収納の習得方法が先ほどのポーズと動きに合わせて魔力を流すということだった。

「こんな動きで本当にできるのか?」

「一応、今のが私が成功した動きですけど他のポーズもありますよ。試してみます?」

「おう、頼む」

 アドに言われるがままにいろいろ試す。両手を合わせた状態から両手指を曲げたり、親指と人差し指で輪を作ったりする。

 そのポーズ全てに共通しているのは、閉じられた状態から窓を作るということだ。この窓が空間収納の入り口になるそうだ。

 一通り試してみて一番楽だった両手を合わせた状態から両手を突き出して、いびつな四角を作るポーズを選ぶことにする。

「ああ、あと掛け声なんかがあると成功しやすいそうですよ。開け―ゴマとか」

「なんでそんな呪文がこっちに浸透してるんだか」

 アリババの物語はこっちの世界にもあるんだろうか? とりあえず試してみるか。

「開け―ゴマ! っておお? なんだこりゃ」

 先ほどまでと違い窓を通した向こう側が見えない。見えるのは陽炎を何重にも重ねたようなゆがみだ。

「ちょっ、もう習得できたんですか!? ……できてますね。私の一年はいったい何だったんでしょう」

 すごく落ち込んでいるな。それにしてもこの空間いびつだ。

「……これ物を入れて大丈夫なのか? ものを入れたら曲がりそうだぞ」

「大丈夫です。曲がりはしませんよ。取り出せなくなりますけどね」

「そりゃあ、大丈夫じゃないだろ」

「一応対処法はあるので、大丈夫です。とりあえずそこまでできたなら、ひとまず休憩ですね」

「コツをつかんだこのタイミングで、休憩を挟んでいいのか?」

「むしろしっかり休憩してリラックスしないといけないそうです。そうですね。続きは今日泊まる村に着いてからにしましょうか」

 なら、素直に休むか。

 力を抜いて遠くを眺める。魔物が出なければのどかなものだ。

「そういえば、これから行くスメントってのはどんなところなんだ?」

 ソーシャさんは魚がおいしいだとか、変わった闘技場があるといっていたが、具体的なことを言っていなかった。

「ついてからのお楽しみにしようと思っていたんですけど、そうですね。もうすぐ村に着きますし話しておきましょう」

 何から話したものかと、少し悩んだ後話し出す。

「スメントはとても小さな国家です。もともとは海沿いにあった小さな村でしかなかったものが発展して町となり、領土を確立して国となった経緯を持っています。だから、町と国がどちらも同じスメントとなっています。それは領土内にいくつか村ができた後も変わらなかったようです」

 ややっこしいが、日本でも群と市が同じということがある。別に珍しいことではないか。

 話を聞いていてすこし気になることがある。

「マルケアの時と違って妙に詳しくないか?」

「そりゃあ、ナゴヤ以上に特徴的な町ですから。本当はシロキさんが寝ている間にスメントの町のど真ん中に連れて行ったら面白い反応するだろうなと思ったくらいです」

「そんなにか」

「領土内の村に立ち寄るので、それは叶わないですけどね」

 しばらくすると馬車の御者が俺たちに声をかけた。

「どうやら村が見えたようです。存分に驚いてください」

 馬車前方に視線を向ける。小高い丘の上からその村はよく見えた。

 アドはさぞ満足していることだろう。なにしろ俺は目を見開き、ポカンと口を開けて固まっているんだから。

「あれが異世界都市スメント……の村です」

 異世界都市とはよく言ったものだ。確かにと納得すると同時に違和感を拭いされない。

 眼前にある村は一文字で表すならば『和』。

 俺にとってなじみのある、元の世界の古い町並みがそこにあった。

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