第67話 次の町へ
武器の整備のあと、麹の世話をしつつ一日が過ぎた。今のところ麹は順調に育ってくれている。
俺たちは報酬をもらうため、ギルドの忙しい時間からずらして顔を出す。するとソーシャさんが出迎えてくれた。
「よく来たニャ。報酬のほうはきちんと出せることにニャったニャ」
「そりゃあよかった」
俺とアドはそれぞれ半分ずつ報酬を受け取る。
「それで今日は依頼を受けていくのかニャ?」
「いや、俺たちはもうこの町を出て行こうと思ってるんだ」
「ニャ? ニャんでニャ?」
「もともとそんなに長居する予定ではなかったからな」
昨日話し合った結果、俺たちは次の町へ移動することに決めていた。俺自身この町は嫌いではないが、逆に言えばここにこだわる理由もない。そしてアドはナゴヤの町から離れたいという思いがある。
今回長居した理由は毒騒動をアドが放っては置けなかっただけであり、それが終息した今この町に残る理由はない。
「腕のいい冒険者を確保出来たと思っていたのに残念ニャ。それで次はどこに行くつもりニャ?」
「スメントに行こうと思っています」
「スメントかぁ。いいニャァ。海が近くてお魚がおいしい街ニャ」
ソーシャさんはネコ科の獣人なだけあって魚が好きなんだろうか?
「海が近いだけあって塩も豊富らしいから料理もうまいらしいな」
アドから事前に海の街とは聞いている。
「それに日本語が通じる人も多いニャ。ああ、あと変わった闘技場もあるニャ」
「変わった闘技場?」
「行ってみればわかるニャ。教えたら面白くないニャ」
「まあ行ってみてからのお楽しみとしとくか。ああ、あとこれを渡しに来たんだった」
用意しておいたビンを取り出す。
「意図してなかったとはいえ、お墓を荒らすことになったからな。お供え物としてお酒を用意してきた」
アドに聞いたところ、こっちの世界では墓参りの作法は様々でそれぞれ好きなようにお参りをするという。お供え物の文化もあるそうだ。
「本来なら俺たちが直接出向くべきなんだろうが、聞いた様子だとあまり歓迎されないようだからな。ギルド経由でお供えして欲しい」
墓が掘り返されたのは魔物の仕業だと分かっていてもやるせないだろう。
「お供えのあとは、管理者たちで飲んでもらってくれ」
「そこまでする必要はニャいニャ。魔物が出れば荒らされるのはよくあることニャ。気にしてたらきりニャいニャ」
「戦闘中に墓を足蹴にしたのはさすがに気になっててな。どっちかっていうと俺の気持ちの問題だから供えるだけ供えてくれ」
「分かったニャ。と言いたいところだけどタタでというわけにはいかないニャあ」
「ならもう一本。こいつを依頼料代わりにギルドに納めるってのはどうだ?」
「毎度ニャ」
さてと、これでこのギルドでやるべきことは終わった。
「お世話になりました。機会があればまたよろしくお願いしますね。ソーシャさん」
「またゴコウさんに会いに来るときにはここを通ると思うからその時は顔を出すと思う」
「その時はまた事件解決をお願いするニャ」
「それは御免だな」
手を振り、ギルドを出る。
「次の町にはどんなことが待っているんでしょうね。闘技場も楽しみです」
アドは楽しげに笑う。
「なんにしても、麹がもうすぐできるから町に着いたら塩と豆を買って味噌づくりだな」
「……シロキさんは冒険者より商人とか料理人とか向いてるんじゃないですか? お酒とか味噌とか売れば一財産築けますよ?」
「たぶんそっちのほうが向いてるだろうな。ただ、しばらくは冒険者だな」
酒も味噌もこっちの世界では希少だ。下手に売り始めるといろいろしがらみが出来そうで怖い。
それに売るほどの味噌を作るとなると相当な設備が必要になってくるので、腰を落ち着けるのにちょうどいい町を見つけてからの話だ。
「そうですか! じゃあこれからもよろしくお願いしますね! シロキさん!」
「おう。よろしくなアド」
何の迷いもなく俺に信頼を寄せてくれるアドに対して俺はわずかにいいよどむ。
町で味噌を作っているだけでは元の世界に帰る方法を見つけることはできない。
この世界に少しずつなじんできてはいるものの、元の世界に未練があった。
俺がいなくなって寂しがるのは家族と数少ない友人。あとは職場のおばちゃんたちくらいか。
何も言わず失踪したことで心配をかけていることだろう。
だから帰る手段を探さずにはいられない。帰らずにはいられないだろう。
その時が背中を任せることのできる相棒と別れることになるという事実から俺は目をそらしつつ、次の町を目指すのだった。
ようやく第二升が終了といったところです。
一周年に合わせて二升を終えるという目標は失敗しました。
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