第62話 消火
今回、異世界言語は『』で表示してみました。
言葉が通じないっていう設定はいらないような気がしますが、このまま推し進めます。
森の中から大柄な人影が歩いて出てきた。
素っ裸で。
炎で燃えたのだろうからしょうがないが、少しは隠してほしい。
アドは完全に視線をそらしている。
俺はというと視線を上げ不要なものを見ないようにする。顔を確認するとギルドで見かけた冒険者の一人だ。ルワーカという冒険者だろう。
あれだけの炎をものともせず、平然としている。レベルが高いからか、それともほかに秘密があるのか。
口からは煙草の煙を吐くように口から煙を吐き出しているが、その煙は真っ黒だった。普通の人が吸い込んだらせき込むだけでは済まない濃さの煙だが、ルワーカはせき込む様子もなく平然としている。
『お疲れ様ですマスター! 服をどうぞ!』
待機していたクラン員が声をかけ、服を渡す。
良かった。素っ裸のままではいないようだ。裸のままでいられるとアドが喋れない。
服を着終わるとこちらに気づいたようだ。
『ん? なんだ? 見かけない冒険者がいるな。森に何か用だったか? もう燃えちまったがな』
『森の火を消しに来たそうです!』
うむ、何を言っているかほとんどわからん。森とか火とかの単語を拾うのが現状では精一杯だ。
『あー、俺は燃やすだけしか出来ねえし、うちの奴らも消せねえからな。自然に消えるのを待つしかなかったからありがてえ。頼むわ』
『任せてください! 』
ルワーカの二人はあっさりとその場を立ち去った。
「何て言ってた?」
「自分たちは消せないから、私たちに任せるそうです」
「じゃあ任されるとしますか」
アドと森の前までくる。間近で見ると炎の迫力に気圧される。
「今のところこっちに風が吹いていないから煙に巻かれる心配がないが、さっさと消そう」
「いつもなら俺の酒はこんなことに使わない。なんて言いそうなのに、シロキさんにしては珍しく乗り気ですね」
「火事は怖いからな。早く消すに越したことはない。今でこそ魔法で酒を山ほど出せるから消せれるだけで、元の世界じゃあ、こんなに燃えてたら消すのにどれだけ苦労することやら、と」
酒の魔法をゴブリンたちを溺れさせた規模で展開する。視界を酒が埋め尽くし一瞬で火を消し去る。
しかし。
「焼け石に水だな」
森の規模を考えると消した範囲はごくごく狭い。
「しょうがない。これは煙に巻かれないようにして中まで入らないとならないな」
酒の形をドーム型に変え、煙が入ってこない様に密閉する。酸素が足りなくなることがないように中の空間は広めにしてある。
「じゃあ、アドとミントに残党がいないか確認してもらいながら消してくか」
「はい!」
おそらく残党はいないだろうが、炎は広範囲に広がっている。今もなお広がり続けていることを考えると消火が完了するまでどれだけかかるか、分からない。
なかなか大変な作業になりそうだった。
☆
「お疲れさまでしたー」
深夜遅くに消火が終わり、俺たちは宿に戻って来た。
疲労を重ねた俺には返事をする気力もない。
「さすがのシロキさんもぐったりですね。いくらでもお酒を出せるとはいえ、それを操作するのは神経を使うみたいですね」
いくら単純な形を維持しているだけならば消耗は少ないとは言え、長時間それを維持し続けるとなると話は別になる。しかも火事の真っただ中で魔法を維持し続けるというプレッシャーも、疲労の原因となった。
「ああ、それでも何とか消火し終えることができてよかった」
火種が残った状況で帰ってきて再び燃え始めたら、せっかくの苦労が水の泡になりかねなかったので消し切ることができて本当によかった。
「今日はさすがにシロキさんベットを使っていいですよ」
「すまん」
さすがにこの疲労は今日のうちに取っておきたい。ふらふらとした足取りで部屋に戻ろうとしたとき、宿屋の娘に呼び止められる。
一刻も早く寝たかったが、その手には見覚えのある鍋があった。
今朝米を炊いていた鍋だった。
ふたを開いて中を確認する。
中途半端に火を通され、そのまま放置された米がシャビシャビにふやけており、どう見てもおいしく食べることはできそうになかった。
俺の精神が追い打ちのダメージを受けて限界を超えた。ぷつんと意識が途切れ、ゾンビが燃え崩れたときのように地面に突っ伏したのだった。
あけましておめでとうございます。
もうすぐこの作品も一周年。それまでに二升が終われるように頑張っていきます。
今後ともよろしくお願いします。




