第35話 ゴブリン戦(後編)
前に出る。
のんびりしている暇はない。後ろにはアドがおり、長引けばろくな結果にならない。
手には新調した武器と木製ながらミントの選んだ盾がある。
予定外にレベルの高い相手だがどうにかなるだろう。
酒の魔法を大量に使って気疲れはしているものの、全快に近い。
酒の魔法を使わされてイラついていなければコンディションは最高だろう。
「まずは自分を鑑定っと」
彼我の力量の差がどれくらいなのか位は調べておく必要はある。
ぶちのめしてやりたい気持ちはあるが、この場を切り抜けるために矜持を曲げたというのに、どうあがいても勝てない相手に突っかかっていってもしょうがない。
「俺のレベルは19か。思ったよりも上がってないな」
倒した数が三桁に達していたとはいえ、相手は所詮ゴブリンということらしい。
そして、相対するゴブリンの親玉のレベルはというと。
「ダンジョンゴブリンレベル24かよ」
予想より高い。
細かなステータスは放っておく、どうせ俺より強いのだし、俺自身肉体強化で底上げするのだから、あまりあてにならない。
「逃げるってのは……、あんまりよくないか」
逃げるが勝ちということわざもあるが、今回は無理そうだ。どちらにしろこの包囲網を抜けるには戦闘を避けられない。その場合一番強いやつに背後を取られる可能性があるのがまずい。
「ならやっぱり頭をたたくか」
敵の頭をたたくというのが一番だろう。無理ならもう一度酒の魔法を使って逃走に入ろう。
肉体強化の魔法を自身に掛け、ダンジョンゴブリンに一気に近づく。
狙うのはむき出しの足。
何しろ三メートルを超える相手だ。頭を狙っても届かない。いや、レベルが上がり、肉体強化をしているので届くが、どう考えても隙だらけになる。
近づく俺に対してダンジョンゴブリンは巨大な棍棒を構え、タイミングを計って棍棒を振り下ろす。
当たれば痛いでは済まない一撃だが、大振りゆえに楽によけられる。
隙だらけのダンジョンゴブリンの足元に近づきそのまま左足首を薙ぐ。俺の胴体よりも太い足首は予想より硬く、ダメージはほとんどない。
「グゲゲ!」
こちらの攻撃が軽いことを喜ぶようにダンジョンゴブリンが鳴く。
余裕を見せてくれるならありがたい。そのまま背後に回り肉体強化の倍率を一気に引き上げ、再度剣を振るう。狙うのはアキレス腱。
「グギャァァァ!!」
強化倍率を上げたことによりさっくりと刃が通り、ダンジョンゴブリンはたまらず、膝をつき手で傷を押さえる。
俺の目の前に橈骨動脈が来たので次いでとばかりに切り付ける。足首とは比較にならないほど血が噴き出す。
ダンジョンゴブリンは叫び声をあげ、両手を振り回す。
血しぶきが俺の視界をふさぎ、闇雲に振るわれた腕に突き飛ばされる。
盾でのガードが間に合ったが全身が痛い。しかも盾が砕けていた。
「シロキさん! 大丈夫ですか!」
「問題ない!」
ダメージはあるが生きているし、体も動く。
対して相手は相当の出血があるうえ、片膝をついたまま歩くこともできない状態だ。何とかこちらに向き直っているがほとんど動けないだろう。
一対一ならば時間を稼げば出血の分有利になるのだが、
「ゲギャー!」
ダンジョンゴブリンが叫び、周りのゴブリンたちが動き出す。
俺の酒の壁を警戒していて、むやみに近づこうとはしていなったが、頭の命令によりゴブリンたちが動き出す。
時間がない。一気に決める必要がある。
数発の火球を生み出しダンジョンゴブリンの顔面に放つ。
「ガガフッ!!」
レベルが上がり、威力が上がっているはずなのだが、レベルが劣る俺の魔法では顔に魔法をあててもダメージはない。だが、顔に放った以外にもう一発別の場所に魔法を打ち込んでいた。そっちはというと。
「ガァッフ、フォウ……」
あきらかにダメージがあった。
狙ったのは股間。雄であるならば我慢などできるはずがない。場所。
両手で股間を押さえ、崩れ落ちるダンジョンゴブリンの隙だらけの首を刈る。骨にあたりはじかれるが、頸動脈を切り裂くことに成功する。
血の海に倒れるダンジョンゴブリンに周りのゴブリンたちの動きが止まる。
さらに、
「結界が消えたか」
周りの景色が変わり、開けた草原に出る。
それはダンジョンゴブリンの敗北を示していた。
「ゲギャゲギャ!」
「ゲギャ!」
周りのゴブリンは叫び、そして、
「逃げたか」
残ったゴブリンたちは逃走を選んでくれた。
しばらく警戒をしていたが、戻ってくる様子はなく、俺とアドだけが残されていた。
「まさか本当に何とかなるとは、思ってませんでした」
「死にかけだけどな。ほんとにあいつらが逃げてくれて助かった」
「いやいや、何とかなるんじゃないですか? ダンジョンゴブリンも倒したんですし、さらにレベルが上がったはずですし」
「いや、もう腕も動かん」
「え?」
「立ってるのもキツイ」
「ええ?」
地面にへたり込む。
足を見ると筋肉がプルプル震えているし、腕は上がらない。
肉体強化のしすぎだった。
しかもその反動は筋肉だけではなく、内臓にもダメージが来ていた。気を抜いた瞬間一気に来た。
「おえええぇぇ」
「ちょ! シロキさん! 大丈夫、じゃないですね! ほんと死なないですよね!?」
戦闘中にこうなってたら死んでた。
ゴブリンたちが戻ってきたら死ねる。
酒出す元気もねえ。




