第34話 ゴブリン戦(前編)
書けた分だけ投下するスタイル。
悪い癖です。
ダンジョンに意図せず突入してしまったが、現状を把握しないわけにはいかない。
初見殺し系のダンジョンであったのであれば、その瞬間に対応できなければ死ぬだけだ。
幸いなことに、入った場所にはしっかりとした大地があり、いきなり何かが飛んでくるわけでもなかった。空を見上げれば、はるか高くに虹色の境界が見えた。
精霊郷の結界と似たようなもののようだ。
とにかく不意打ちはなく、一瞬で終わるということはなかった。
不幸中の幸いだと言いたいところだが、そうもいかない。
罠はなく、奇襲もなかった。
だが、それだけだった。
視線の先には大小、色とりどりのゴブリンが俺たちを中心に囲い込んでいた。
数えるのもバカらしいほどの数。
幸いなのは距離が開いていることくらいか。
だが、どう考えても覆せない差があった。
プチコボルトの時も数の差があったが、それとは比較にならない数だった。
明らかに百や二百を軽く超える大量のゴブリンたちが俺たちを囲っているのだ。
ゴコウさんに剣を教えてもらた。
魔法を使るようになった。
肉体強化で瞬間的に限界を超えることができるようになった。
それらをもってしてもこの数を覆すことができるとは思えなかった。それはアドも同じだったのだろう。
「シロキさん」
足が震え、声に生気が失われている。
「完全に私のミスでした。私がきちんとシロキさんの言うことを聞いていれば、ゴコウさんが戻るのを待っていればどうにかなったのに……」
言葉に後悔が滲んでいた。
ゴブリンたちが咆哮する。腹の底まで響くような合唱に思わず体がすくむ。
もはや数秒後にはゴブリンの突撃が始まるだろう。
そんな状況で、
「あああああああああああああああああああああっ!」
ゴブリンどもに負けじとアドが咆えていた。
息を吐きつくし、アドは俺に向き直る。
その瞳には決意を宿していた。
「私が間違った判断をしなければ、それに付き合わせなければこんなことにはならなかったはずです。ですので逃げてください。命を賭しても道を作ります」
それがミスをした自分の責務だというかのように。
本当にこの小さな相棒は俺の何倍も勇敢だ。
長いため息をつく。
「アド。一人で抱え込むな。言っただろ。何かあったら俺も全力でどうにかしてやるって」
「でもどうやって……。シロキさん来ます!」
ゴブリンたちが武器を俺たちに向け走り出してきた。
対して俺はアドの前に一歩出る。
一人で逃げろというなら、共に戦おう。
アドが命を賭けるというのなら、矜持を捨てよう。
全力で能力を開放する。
「酒におぼれていろ! ゴブリンども!」
俺の意思をそのままに一瞬で酒が視界を埋め尽くしていた。
「すごい……」
その酒はバームクーヘンやシフォンケーキのようにひろがり、俺たちを中心にゴブリンのほとんどを飲み込んでいた。
まるで水族館の水槽なのだが、浮かんでいるのは息を止めることが間に合わずにおぼれるゴブリンだけだ。優雅には程遠い。
数十匹を越えるゴブリンを倒せたことを示すかのように、体が軽くなっていき、酒の魔法の維持が楽になっていく。レベルが相当に上がってきているのだろう。
「アド。内側から解除していくから生きている奴にとどめを頼む」
楽になってきているとは言っても、規模がデカい。そこまで長く続けられるものではない。
それにアドにもレベルを上げておかなくてはならない。外にはまだ大量のゴブリンがいるのだから。
溺れて消耗したゴブリンたちをアドが殲滅していく。カラフルな個体や体格のいいゴブリンも問題なく倒していた。何しろほとんど動けず、武器もおぼれた際に取り落としているのだから。
酒に浮かぶゴブリンたちが完全に動かなくなる。
いまだに数の差は歴然とあるが、俺のレベルは遥かに上がり、アドのレベルも充分に上がった。これで一方的に蹂躙されることはなくなったはずだ。
酒に囲まれた空間の中から、”敵”を探し出す。
そいつはすぐに見つかった。
巨人のようなゴブリンが俺をにらみつけていた。他のゴブリンたちよりもひと際でかく、明らかに別格の個体だった。
俺自身酒の魔法に関して決めていたことがある。
酒の魔法は”楽しい”ことにしか使わないと。
酒は飲みすぎれば体を壊す。飲むことで判断を誤り事故を起こす。
そんなことは長い歴史の中でいくらでもあったことだ。
だが、酒とは本来楽しく飲み、時にはつらいことを吐き出すためのものだ。
だから『酒の魔法は戦闘には使わない』。
俺の矜持であり、それを捨てさせた敵を許す気はない。
「憂さ晴らしをさせてもらうぞ!」
いつも本作を読んでいただきありがとうございます。
以下裏話 (そのうち消す可能性があります)
現在タイトルが、魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~ となっていますがもともとは別のタイトル、作風でした。
原案では酒の弾丸を飛ばし武器とするもので、タイトルもシルバーバレットならぬアルコールバレット、略して”アルバレット”というものでした。
ですが、お酒をそのまま武器に使うというアイディアは、あまりにも食べ物を粗末にしている感があって方針転換をした次第です。
その割には結局粗末にしているので世話ないのですが。




