第32話 危機管理と危険察知
チンピラたちのことを疑っていても何も進展しないし、まだ見ぬ敵を警戒しすぎても意味がない。いい加減割り切って準備を万全にすることに集中しよう。
ゴコウさんの店から持って来たポーションをアドに分けていく。
「結構な量だけど大丈夫か?」
強化薬やゴコウさんの作ったポーションのように俺の判断で持ってくることを決めたものもあるが、俺の持って来たものの大半は俺やアドの作ったポーションだ。そのすべてをアドは俺に持ってくるように言っていた。
運ぶだけならば問題ないが戦闘のさなかにこれだけのものをもっているのは不可能に近い。
「シロキさんに言ってませんでしたね」
そういうとおもむろに右腕を横に伸ばした。
「おお。なんだそりゃ」
手首から先が虚空に消えていた。
「空間収納です。親にはこれだけは便利だからと徹底して仕込まれました。私の唯一の自慢できる魔法です」
「唯一の自慢と言いつつ、自慢してこなかったな」
「そりゃあ、冒険者としてはわざわざ自慢する者でもないですからね。商人やポーターならものすごい重宝されますが……」
なりたいのはそのどちらでもなく冒険者、か。
そういえばアドの魔力はその他魔力がかなり多かった覚えがある。空間収納を鍛えた結果そうなったのだろう。
「このくらいのポーションなら余裕で入ります」
「手荷物がなくなるというのは便利だな。俺にも教えて欲しいもんだ」
「あー、でもそんなにいいものでもないんですよ。たいてい空間収納の魔法には欠点がありますから」
次々とポーションを入れていく。
「欠点?」
「ええ、たいてい中身が劣化します。劣化具合は人によりけりですけどね。だからたいていの冒険者は空間収納に予備の武器防具を入れていますね」
「アドの場合どれくらい劣化するんだ?」
「空間収納のランクで言うとSからEまでのランクでDですね」
思ったよりも低い。ポーションを入れていて大丈夫だろうか。
「大丈夫ですよ。私の場合は条件付きでランクが下がっていますから」
「条件付き?」
「ええ、人によりけりと言いましたが、本当に劣化の仕方が人によって全然違うんですよ。入れていると金属が錆びていたり、ガラスが砕ていたりする人がいるんですけど、魔物の素材を入れていてもほとんど劣化していないなんてことがあるんです」
「そりゃあ、単純な評価はできないわけだ」
「私の場合は、入れていると水分が抜けていきます。密閉したビンの中に入れておけば大丈夫なんですけど、魔物の素材を入れておくと干からびてしまいます」
「魔物の干物ができるわけだ」
「一回出すのを忘れていてひどい目にあいました。手の中でボロボロ崩れるんですよ。最初何かと思いましたよ」
「いやいや、そんな話は聞きたくないから。で、とにかく今入れたポーションは大丈夫なんだな?」
「はい、入れたのは私の作った粗悪品ですし」
「ああ、全部入れなかったのはそういった理由か。あ、俺の作ったポーションも入れてくれ」
俺は空間収納を使えないので入れてもらう。そもそもアドはそのつもりだったのか俺の作ったポーションをどんどん入れていく。
「この場合どれくらい劣化するんだ?」
「私のだと一週間持ちませんね。シロキさんので一週間程度といったところです」
「できるだけ早く出したほうがいいな」
「ええ。帰ったらすぐに出しますよ」
「んじゃ、次に行くか」
ほぼ準備を終えることができた。
ギルドを出て武器屋に向かう。
武器を扱う練習用として買っていた安物の剣だったのだが、昨夜はプチコボルトに奪われてしまった。武器を奪われたら戦闘力は大きく低下する。そういったことがないようにもう少しいい武器を選ぶ必要がある。
以前と違い武器決めはあっさりと決まった。
解体用ナイフと同等以上の切れ味がほしいとアドに言うと「ならノブラ工房の剣がいいですね」と勧めてくれたのだ。さらに、そのノブラ工房の剣は数本しかなく選ぶ必要もなかった。
前の剣よりも長い剣。レベルが上がったおかげか、片手で振るのに問題ない。
そして俺だけではなく、アドにも剣を買って押し付ける。
俺の所持金はほぼゼロになったが、アドがやられたらそれだけで戦力が半減する。やはり、ケチれないところだ。
「さあ。行きましょう。ゴブリン退治。私たちの初仕事です」
意気揚々と魔物退治に出発する。
ゴブリンのいるという地域に行くため、街道を歩いていく。
橋があるところまで到達する。以前、馬車が止まっていた場所だ。
あそこの茂みに一升瓶を隠していたなと思うが、今は周囲への警戒が第一だ。
「ここからけもの道を歩いていくことになります」
アドを戦闘にけもの道を歩いていく。
「視界が悪いが、ゴブリンの奇襲とかは大丈夫か?」
茂みの影で息をひそめて待ち伏せ、奇襲をされたらひとたまりもない。
「あー、大丈夫だと思います。私が小人族とのハーフっていうのは言いましたよね」
「そういってたな」
「小人族は普通の人より非力でか弱いです。ですがそのせいなのか危険察知能力はかなり高いとされています。昨夜のプチコボルトの件は私の本能が何かいるっていうことに気づいたからです」
「だったら最初からギルドに知らせればよかったのに」
「私はハーフなので精度は落ちますし、ギルドのランクも低いのでまともに相手にされない可能性もありましたから。で、話を戻すと、その本能が今のところ大丈夫だといっています」
「なるほど、昨夜みたいに村の北側までの距離を察知できたことを考えると結構広いとみていいのか」
「普通に動いたりしていると危険察知の範囲は狭くなるんですけどね。まず奇襲を受ける前に魔物がいることには気づけます」
なるほど、そういった危険察知能力があるからこそ、俺よりも安心していられるわけか。
いや、それだけじゃないな。そもそもポーターとして活動していたはずだから俺よりも慣れていて当たり前か。
先ほどまでよりずいぶん気が楽になった。
見えない敵におびえるのはこれくらいにしておこう。もちろん、周囲への警戒を怠らないが。
読了時間が170分。約三時間分でほとんど話が進んでいないという事実。
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