第29話 対プチコボルト戦
状況を打破するための選択肢は少ない。先手を取られないよう、プチコボルトが動き出す前にこちらが動く。
畝に沿って同じ列にいるプチコボルトに突撃をかける。
狙われたプチコボルトは一瞬の戸惑いを見せたが、隣の畝に逃げ込んだ。
他のコボルトたちは、俺を囲っている優位を失うまいと追ってくる。
包囲網を抜けたかったが、このまま走り抜けるわけにもいかない。そちらに行ったとしても先は村の外側。
あるのは村を囲う柵だけでプチコボルトの攻撃を遮るものは何もない。
ならば畑のほうが地の利がある。
足を止め、追ってきていたプチコボルトたちに向きなおる。
プチコボルトたちの敵意をむき出しにした視線を受ける。ここで一斉に体当たりが来たらと思うと背筋が凍る。
だが、敵の視線を集めているのは好都合。
恐怖に負けずに目をつぶる。
意識するのは頭頂部。
発動するのは光の魔法。
最大出力でぶっ放した。
月明りとは比較にならない光がプチコボルトたちの目を焼き、プチコボルトたちの悲鳴が上がる。
稼げるのは数秒だが、それで十分。
畝を越え剣を振るう。
最初の一匹と違い、殺し切ることにこだわらず、数を削っていく。
「ちっ!」
魔力がなくなり、肉体強化が切れた。その上プチコボルトたちの視力が回復してきていた。
強化切れの太刀筋ではプチコボルトの体を切ることができず、途中で刃が止まる。そしてその刀身はプチコボルトに抱え込まれてしまった。
怪我をしているはずのプチコボルトにしがみつかれ剣を振るえなくなる。いや、それどころかこのまま剣を持っていたら動けない。
周りには視力が回復してきたプチコボルトたち。
剣をあきらめ、その場を離れる。失った武器の代わりに畝に突き刺さっている支柱を引っこ抜いて行く。
プチコボルトたちの視力が回復しきったときには五匹のプチコボルトを切りつけ、包囲網を抜けることができていた。
畝を挟みプチコボルトたちと対峙する。
手にした支柱は太く丈夫だが、プチコボルトを相手にするには頼りない。
先端に魔法で火をつける。
支柱を振り回し牽制するが、火をつけた瞬間以外、プチコボルトたちは火を恐れた様子はない。
むしろ俺自身が明かりに照らされプチコボルトから丸見えだった。
こちらからもプチコボルトが見えているで牽制しやすくなったのが救いだった。
プチコボルトの体当たりの軌道を絞らせないよう軸をずらしていく。
やばいな。
じりじりとプチコボルト立ちとの距離が縮まっていく。
プチコボルトたちは賢い。賢いがゆえに自分たちに被害が出ないよう奇襲をするし、警戒をする。
だが、すでに群れに大きな被害が出た以上、被害を出さずに倒せない相手とみなされた。
そうなった以上、ただの獣のように犠牲を覚悟で一斉に襲い掛かられるのも時間の問題。
ということで
「逃げるが勝ちだ!」
村に向かって全力で逃走に入る。
畝に沿って、一気に畑を走り抜ける。
単純な短距離走なら、足の短いプチコボルトより俺に軍配が上がる。
トマトの蔓の間を抜けきったところで背後を振り返る。
プチコボルトたちは武器をなくし逃げ出した俺には何もできないだろうと無警戒にも畑から飛び出してきた。
それは間違っていない。俺にはもう盾しか残っておらず耐えるだけしかできない。
とびかかってきたプチコボルトを盾で受け止める。二体三体と飛び掛かられ、受け止めきれずに後ろに倒れる。
プチコボルトたちにのしかかられ絶体絶命のピンチ。
俺は十分に奮戦した。そして時間を稼いだ。
「だからもう任せてもいいよな」
俺の上にいるプチコボルトたちが吹き飛んだ。
倒れたまま視線を傾けるとアドが集めてきてくれた援軍がいた。
主に農具を持った村人たちで見覚えのある顔だ。騒ぎを聞きつけてきてくれたようだ。その先頭にいたのが牛串屋の厳ついおっさんなのが意外だ。その両手には武骨な棍棒が握られていた。どうやらそれでプチコボルトを吹っ飛ばしてくれたようだ。
そのあとはプチコボルトの駆除が始まった。
農民とはいえ、魔物のなわばりの近くに住む者たちだ。俺やアドのようなレベル1はおらず、逃げるプチコボルトたちの数を簡単に減らしていった。
「シロキさん! 生きてますか!」
プチコボルトのほとんどを制圧し終えた後、アドが駆け寄ってきた。
「死んでるように見えるか?」
「いえ、でもよかったです。プチコボルトは基本草食ですから殺されてはいないと思ってましたけど。……髪の毛もムシャられていないようですね」
「え? 何! ムシャる?」
「プチコボルトは敵とみなした人を殺さないまでも、髪の毛を食べるんですよ。それはもうムシャムシャと」
……シャンディー以外にも俺の髪の毛を狙うやつがいるとは。いやシャンディーは遊んでいるだけだろうが。
「シロキさんの林も無事でよかったですね」
なかなか比喩がうまいなアド。だが、林じゃなくて森じゃないかな。
そんなに薄いわけじゃないよな。……ないよな?
「それにしてもプチコボルトを一掃できましたね。シロキさんも経験値がウハウハなんじゃないですか?」
「そうだ……な」
あれ? 俺って一匹だけしか倒してないんじゃ……。
「いやー。私は五匹も倒せたんですよ。怪我して動けないのが畑の中にいたんでとどめを刺したんですよ。私の剣じゃなかなか切れなくて、シロキさんから預かっていた解体用ナイフを使ったらさっくりと切れましてそれはもう楽に倒せました」
動けなくしたのは俺だし、解体用のナイフも俺のものだ。ただし経験値はアドの物か。
怒りだとか、妬みが一瞬出るが、嬉しそうにアドが笑っているのを見て、まあいいかとあきらめる。妬んだところで経験値は戻ってこないし、そもそも最初に気づいたのはアドなのだからその程度の褒美はあっていいだろう。
ただ、
「シロキさんは何体倒せました?」
その質問はやめて欲しかったな。
一匹だけしか倒してないとは言いにくいんだよ。言うけどさ。
戦闘シーン完。
主人公にとって都合のいいように話を進めすぎたような気がしますね。




