第16話 方針
コンビを組むと決まり、いつまでも落ち込んではいられない。
一人ではなく二人で行動することを考えると、無計画に即行動というわけにはいかない。
「とりあえず、俺とアドとが組むうえでこれからの方針を決めときたいな」
「方針ですか?」
「俺は俺のやりたいことをやってこうと思ってるけどお前だってやりたいことがあるだろうし、いやなこともあるだろ? 例えばお前のいた街に戻るとか」
「それはいやです」
「だろ? 一応ナゴヤに行くっていう目的はなくなったけど、俺はいつまでもいようとも思ってない」
せっかく異世界に来たのだ。狭い世界に閉じこもる気はない。
それに食生活を豊かにしたい。高価な塩を金にものを言わせて大量に塩を買うことができても物流の問題で村に迷惑をかけてしまう。それなら自分が海の近くにでも行けばいい。
あと、ある程度日本語が通じる場所に行きたい。
「アドは何かのがあるか?」
「強くなりたいです」
アドには何か強さにこだわりがあるのだろうか?
まあ、深くは聞くまい。
「ま、強くなりたいのは俺も同じ。あわよくばもてたい」
「ぷ、なんですか。それ? もてたいんですか?」
「おう、悪いか? 男の行動原理はたいていそれだぞ」
さらに行き着く先は性欲だけど、そこまでは言わない。
あとはやっぱり強さにはあこがれる。男にとってそれは重要だ。
「さて、じゃあ第一目標は強くなるということで」
「そうですね。ここの周りの魔物は低レベルでも刈ることができるものがいるようですし、ちょうどいいですね」
「弱い魔物がいないところもあるのか?」
「大きな町の周りだとほとんど刈りつくしていたりします。商人の行き来を楽にするために弱い魔物もほとんどいません」
「なるほど」
アドの低レベルの理由の一つが分かった気がした。ナゴヤ育ち、都会育ちというならレベルが全く上がっていない理由もわかる。
俺の推測が正しいのであればそれはかなりありがたい。
「それならここで地力を上げて、ほかの町へ行くってことでいいか。さっきも言ったけど俺はこの村にずっといる気はない。日本語が通じるところで、できれば北へ行きたいな」
「北ですか? なんで異世界人の人はみんな北へ行きたがるんですか?」
「あ、やっぱり北にいく異世界人は多いのか」
「たいていはコメが食いたいって。出ていきます」
「日本人は米がないと始まらないからな。じゃあ、ここで冒険者として実力をつけたら北に行こう」
おおざっぱだけれどようやく俺としても方針を決めることができた。言葉が通じない以上、ゴコウさんを信頼するしかなく、お世話になるしかなったが、これで自分の意思でゴコウさんにお世話になることになる。まあ、レッドアイのこともあるし泊めてくれるだろう。
ダメ押しに日本酒を出せば、むしろ出ていくのを止められるかもしれない。
と、そうだ。アドには俺の能力をきちんと説明しておくべきだな。
「これから一緒に行動するから俺の能力について話しておこうと思う」
「さっきのあれですか? シロキさんの魔法ですよね」
「ああ、さっき出したのはケーキだな」
「ケーキですか?」
「ああ、甘い食べ物だ」
「そんなものを人に投げないでくださいよ。あと食べ物を粗末にしないでください」
うん、正論だな。俺としても食べ物を粗末にするのは好きではない。ただ、無限に出せてしまう以上、どうにも扱いが軽くなる。
「あとは酒も出せる。というかケーキと酒しか出せない」
「……微妙ですね」
「いろいろな食料を出せる能力だったらかなり便利なんだが、この二種類しか出せないってのがネックだ。まあ、そんなわけで、俺の魔法に過剰な期待をされても困るとだけ言っておきたい」
「まあ、それだけでもないよりいいですよ。というか売ったらお金になるんじゃないですか? ぜひ売るべきです。お金は大事ですよ」
おいこら、俺ごと売りつけるような勢いで言うんじゃない。
「金に困ったらな」
下手に売るとトラブルにしかならないのが見えている。だからこそゴコウさんにも飲ませていないのだから。
とりあえず、俺たちの方針をゴコウさんに伝えてもらう。
すると、すんなりとOKが出る。
その目はどこか息子や孫を見ているようだ。
そしてその手に持つ木刀はなんですか? え? また特訓?
勘弁してください。
まあ、いやだと口では言いつつもやるけどな。
木刀と盾を持ってゴコウさんと相対する。今回は隣にアドがいる。
うん、仲間がいるというのは心強いもんだ。たとえ勝てそうにない相手だとしてもだ。
それで勝てるとは限らないけどな。
というか、勝てるわけないんだけどな!




