第14話 アドステータス
ギルドを出てゴコウさんの家に戻る道、アドは落ち込んでいる様子だった。
「なあ、あいつらなんで笑ってたんだ」
「……私のせいです」
あまり言いたくないのかゆっくりと続ける。
「私の冒険者ランクはE++なんです」
「E++?」
何も知らない俺からしてみれば+が二つ余分についている分いいように思えるんだが?
「プラスがつくのはそのランクで貢献をし続ければいいだけです。ですが、普通ならプラスが着く前にランクが上がるんです」
「つまり、ランクが上がらないような仕事ばかりやっているチキンな冒険者とみられたわけか」
「っ!」
あ、しまった。相当気にしてるな。ギルドでは表情に出さないようにしていたようだな。相当に苦い表情をしている。
「まあ、そんなに気にするな。俺だったこの年で冒険者になったんだ。笑えるだろ?」
「……それが二回目に笑われたところです。私もシロキさんも適性がないので冒険者はやめたほうがいいって」
「なるほど」
「……今考えれば、別に冒険者ギルドじゃなくてもよかったはずです。ゴコウさんの伝手を使えば、薬剤師ギルドで身分証明書は作れたでしょう。そちらにすればシロキさんが笑われることもなかったはずです。ゴコウさんは腕が良いようですし、弟子として登録すればむしろ箔が付いたかもしれないです」
ああ、アドは俺が笑われる場所に連れて行ってしまったことに対しても負い目を感じているのか。
「あっちの世界の男は冒険者だとか勇者だとかにあこがれるもんだ。今行かなかったとしてもいつか冒険者ギルドには行っていたから気にするなよ。そんときゃもっとひどかったはずだ」
実力もないのにプライドばかり高くても意味がないからな。それに今回は鑑定の魔法の収穫があったから、むしろ満足している。
「それより帰ろう。うまいものを食わせてやる」
酒魔法とケーキ魔法を解禁してやろう。
言葉は通じたし、ゴコウさんもアドも信頼できそうだ。さてどんな反応をするやら楽しみだ。
庭に戻るとゴコウさんが俺とアドに木刀を渡してきた。
「模擬戦をしてみろ、これから一緒にナゴヤに行くならお互いの実力を知っておいたほうがいいって」
俺が構える前にアドはやる気なのかすでに剣を構えている。
俺のほうも盾を左手に木刀を右手にかまえる。卑怯ということなかれ、実戦形式ならちゃんと防具も装備する必要がある。
正直盾なしでたたかったら勝てる気がしない。
「ということは俺とアド、今は敵同士ということでいいのか」
切り結ぶ前に確認する。
「はい。今からシロキさんと私は敵同士です」
なら、容赦なく鑑定させてもらうとしよう。
アド
HP:60
物攻:50
物防:40
火魔力:20
水魔力:20
氷魔力:0
土魔力:20
草魔力:10
風魔力:10
雷魔力:0
光魔力:20
闇魔力:10
その他:500
魔防:40
速さ:100
運:50
ざっくりと見させてもらった。速さ特化型か。力では俺のほうが勝っているが速いということはそれだけで脅威だ。
属性魔法がそこまで高くないので気にせず戦える。
一番気になるのはその他か。俺の倍以上という驚異的な数字だ。
「……ステータスを見ました?」
「ああ、やっぱり見たらばれるのか?」
「ええ。普段は見ないようにしてくださいね。敵対行動とみなされますよ。すでに敵対してる相手なら大丈夫でしょうけど」
見た俺に対して、アドは俺のステータスを見ていない。すでにギルドで確認しているというだけでなく、やはり失礼にあたる行為だからだろう。
しかし、アドはこの、その他にあたる魔力をどう思っているんだろうか? ギルドではないものとして扱っているから高いことにも気づいてなかったりするんだろうか。
「行きます!」
木刀を持ったアドが俺に迫る。右手に持つ木刀を正面から振り下ろす。対して俺は盾で受ける。大きな盾でないため視界をふさぐことがない上、予想より軽く取り回しやすい。良い買い物をした。流石ミント印。
アドは速度を生かすため足を止めずに動く。アウトボクサーのように俺の右側へ移動。その間も流れるような連撃を繰り出してくる。そのすべてを体ごと回して、アドを追いかけ盾で受ける。まだ余裕で対応できる。つまり、
「やさしいな! アド!」
まだ本気ではない。速さ100という全力を出していない。
その証拠に徐々にスピードを上げていく。盾だけでは対応するのが難しくなり木刀でもガードを固めることになった。
しばらく攻撃を受けているとアドの表情が悔しそうに歪む。
最高速度に達してしまったのだろう。だが、それでも俺を攻略できなかった。
だからこそ焦っている。
「あ……」
体重の乗った攻撃を盾でそらした。アドの姿勢が大きく崩れる。持ち直す前に俺の木刀が首筋に当てられた。
悔しさに表情が歪んでいる。
本来アドは俺よりも強いだろう。
勝てたのは盾を装備している分だけ俺に余裕があったというだけだ。
一息つきたいところだが、
「……ゴコウさん超やる気だな」
木刀を振ってヒュンヒュン鳴らしてるよ。いつもそんなことしないってのに。
アドに勝って調子に乗った俺に対して鼻っ柱をたたきつぶす気だ。
いや、調子乗ってないんでやめてくれませんかね。
結論から言おう。ボコボコにされた。
ゴコウさんのランクがいくつか知らないが、見事に俺の鼻をへし折ってくれたわ。物理的にどこも折れてないのはゴコウさんの手加減のおかげか。
大地に倒れ、自分の無力感を味わう。
「ああ、強くなりたいな……」
「私も強くなりたいです……」
虚空につぶやいたはずの言葉に答えが返ってきた。
いつの間にか隣に浮かない顔のアドが立っていた。
何かだべりに来たのかと思ったのだが、のそのそと俺の隣に体育座りで腰を下ろし、顔を伏せてしまう。
「シロキさん……」
しばしの間をおいて、こちらを見ることなく俺の名前を呼んだ。
「お引き受けした依頼を辞退したいと思います」




