第11話 アド
さぁ! 今日は畑仕事だ!
ここ十数日畑を耕しまくっている。ゴコウさんの畑だけでなく、この村の畑という畑を拡張しまくっていた。畑仕事の依頼がない時には牛舎で働いたりもしている。
ゴコウさんの手伝いだけでは暇を持て余しすぎてしまうために、作業を請求したのだ。
村のために働けということなのか他の人の農作業などの仕事を任されたのだ。
いや、もしかしてレッドアイを作るためにトマト畑を広げる計画が出たとかそういうのじゃないよな? 最近ゴコウさんはウェイトレスさんとレッドアイを作ってるんだよな。よりうまいレシピを探っているみたいなのだ。
俺としては畑仕事で体を鍛えたほうが金儲けにもなって一石二鳥なのだから別にいいのだが。
今日は村の反対側のでかい建物の裏手を耕せばいいらしい。場所は地図で教えてもらっている。言葉はニュアンスでしかわからないが、ゴコウさんと俺は阿吽の呼吸で通じている。ツーカーの仲となっていた。
「あのー。すみません」
倉庫の鍬を担ぎ、さて出発というところで金の髪を短く整えた小柄な女性、まだ幼さが残る少女がおずおずと話しかけてきた。さっきゴコウさんの店に来ていた冒険者のお客さんだ。
「何か用ですか?ゴコウさんなら中にいますよ?」
俺が農具を取りに店を出たときにすれ違った客だった。金属の胸当てに剣を腰に下げている。ゴコウさんの店にはよく冒険者風の客がよく来るのでその一人かと思っていたのだが、俺に用があるようだ。
「いえ、あの……、あなたがシロキさんですよね?」
問いかけられようやく気づく。
「ああ、日本語が通じるのか」
素で日本語で話していたのに気づくのにずいぶん時間がかかったものだ。
「あ、はい。依頼されてきました。私はアドといいます」
「どうも城樹です。それにしてもクウネさんの話だと数日ほどでつくと聞いたんですが。けっこうたってますよね?」
時間におおらかな俺でもさすがに二週間以上経っているとさすがに理由が気になる。
「ううう。すみません。大体私のせいです」
聞いたところによると、この依頼は条件が厳しかったらしい。
まず日本語に通じていること。これがあまりいないらしい。そもそもこの村に喋れる人がいないくらいだから当然か。
さらに拘束される時間が長く、町を離れる必要がある点が不人気だったらしい。多くの冒険者は町から町へ旅をする者より町に拠点を構える者のほうが多いのだそうだ。
町から町へ移る冒険者も当然いる。そんな冒険者もたいていは行先を決めており、行き先が重なる護衛任務を受けるのが普通である。この村はそういったルートから大きく離れるため受け手がいなかったのだとか。
「なので、なかなか依頼を受ける人がいなかったみたいです。危険な仕事でもないので、依頼料を無駄に高くするわけにもいかなかったらしいですよ。無駄に高くなると逆に胡散臭い依頼になりかねないですから。まあ、それでも相場より高めでしたけど」
「なるほど。高くすりゃあいいわけじゃないわけだ」
「で、条件にあったのが私だったわけなんですが……。実は」
「実は?」
アドは目をそらしながら、小さくつぶやいた。
「……道に迷いました」
「チェンジで!」
ダメだ! この子きっとダメな子だ!
「そんなこといわないでくださいぃ! 私この仕事ダメだと宿にも泊まれないんです! 昨日の晩御飯も食べてないんですよぉ!」
不憫な子だ。だが、からかうと面白そうだ。
「知ったことか! 俺は仕事に行くぞ! ほらゴコウさんが出てきたぞ。早くいけって」
「いいえ! 行かなくていいって言ってますよ! ほら! 手招きしてます!」
「ちっ!」
「舌打ちした! 今舌打ちしましたよこの人!」
とりあえず、俺は家の中に入る。勝手知ったる人の家。俺は茶を用意する。
「んじゃあ、改めて城樹です。依頼主の大本になるのか」
「シロキさん。本当にキャンセルですか……」
大本といったことで本当にキャンセルできる立場だと思ったのだろう。アドはがっくりと落ち込む。
「いや、ぜひお願いしたい」
「さっきの流れでどうしてそうなるんですか!」
「断ってほしかったのか?」
「そうじゃないですけど!」
先ほどの流れは久々に喋れてテンション上がったのが原因だ。言葉が通じないのは結構なストレスになっていたようだ。それが一気に爆発してしまったのだろう。
「まあ、そもそも日本語が喋れるってだけで俺としてはいいし、それに」
「それに?」
「クウネさんがどういった風に依頼したのかすら知らない。通信の魔法で簡単に会話しただけでクウネさんに任せちゃったから依頼の詳細を知らないんだよ」
というかこちらの世界のことを知らな過ぎて、何をクウネさんに頼むべきかわからなかったのだから丸投げする以外に、どうしようもなかったといえる。
「そうだったんですか。依頼のほうは、まずこの村にシロキさんを迎えに来ること、そして通訳と護衛をしながらナゴヤの町に連れていくことだそうです」
「名古屋⁈」
驚く俺にアドは首を横に振る。
「異世界にもナゴヤの町があるそうですね。というかこちらのナゴヤ自体、異世界人が作った町でそちらの名前をもじったらしいです」
「なんだ。同じ名前の違う町か」
「ええ。なぜその名前をもじったのかまではわかりません。ただその町の出身者が作ったからとか言われてましたね」
「なるほど、でナゴヤの町に連れていくという意味は?」
「ナゴヤの町はその成り立ちから日本語を話せる人ばかりなんです。そういう私もナゴヤの町出身ですよ」
「だから流暢な日本語をしゃべれるのか。この依頼の内容は分かったけど、報酬のほうはどうなってるんだ? 安いっていう話だけど移動なんかも含めるとけっこう大変な仕事だろ?」
「報酬は前金として大銀貨三枚、必要経費として大銀貨五枚をすでにもらってます。あとここで復路としての金額が護衛の仕事も含めて金貨三枚です」
「うん、価値が分からん」
「えっと確か、銅貨一枚がそちらの百円。銀貨が千円。大銀貨が一万円。金貨が十万円だそうです。ちなみに宿屋は普通のところで銀貨五枚いらないくらいです。あ、こちらの単位は銅貨一枚で一フェン。金貨だと一千フェンになりますね。」
あくまでも大体ですけどね。とアドは付け加える。
「あっちの単位を知ってるのか?」
「ナゴヤ出身者なら大体知ってますね。異世界人と関わることが多いですし、そもそもこういった仕事を受けること前提でそういった知識を教えているみたいですから」
「んじゃあ、ゴコウさんにあのリリエの葉っぱはいくらくらいになるのか聞いてみてもらっていいか?」
「リリエの葉ですね。聞いてみます」
うむ、それにしてもアドは結構いい買い物だったかもしれない。買い物とは失礼か。
話していて楽だし、異世界のことを知っているナゴヤ出身というのも大きい。って
「!!!!」
いきなり大きな声でアドが叫んだ。
「ちょ! ちょ! ちょ! シロキさん! どういうことですか⁈ リリエの葉がなんで金貨八枚になるんですか⁈ 詐欺ですか⁈」
詐欺じゃない。というかそんなにしたのか。ポケットにいまだ入っているリリエの葉を取り出す。
「三枚で八金貨。大体八十万か。ずいぶん価値のあるもんだ」
「三枚⁈ 一枚で金貨八枚ですよ! 金貨二十四枚⁈ 一枚くださいシロキさん!」
「いや、アドには使い道ないだろ」
思わず呼び捨てになる。
「え? シロキさん、ゴコウさんが金貨二十四枚で譲ってほしいって言ってます。仲介料として私に一枚くらいくれてもいいですよ?」
「お前にゃやらねえよ」
どんどんアドの扱いが軽くなるが仕方ないだろ。
リリエの葉は持っていてもしょうがないしゴコウさんに渡せばいいだろう。
「ううぅ。シロキさんのけちんぼ」
「いや、初めて会った相手にいきなり金貨一枚払うほうがおかしいだろ」
「じゃあ、リリエの葉とってきます。どこのリリエの葉がその値段ですか?」
流石にどこにでもあるリリエの葉ではないと分かっているのだろう。聞いてくるが。
「わからんな。正直もう一度行くのは無理」
絶対に無理かといえばそうでもない気はするが内緒にしておく。
パナシェたちがいれば入れる可能性は残っていると思う。
「そんなぁ」
がっくりと肩を落として落ち込んでしまう。
「そんなに落ち込むな。これで大本の雇い主が小金持ちになったんだ。働き次第で賃金が上がるかもしれないぞ」
「シロキさま。どうぞなんでもお申し付けください!」
「変わり身早いね君」
「食べていくためにはプライドなんてどうでもいいんですよどうでも! 最近悟りました!」
やっぱり早まったかもしれない。お金にがめつい。
「とりあえず。ゴコウさんとしばらく話を詰めてくれるか? クウネさんに依頼を出してもらったり、その他の経費が掛かってるはずだからそこらへんを出してもらってくれ」
俺は立ち上がる。
「え? シロキさんはどちらへ?」
「畑仕事だ。一度引き受けたからには行かねば」
俺はゴコウさんとアドをおいて畑に行くのだった。
ヒロイン登場! そしていきなり放置!




