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プロローグ編第一章 「君命がもたらした芸術の秋」

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 気候は夏の暑さとも冬の寒さとも無縁な穏やかさを保ち、何をやるにも快適で好都合。

 そんな秋という季節は、様々な趣味や娯楽や文化を嗜むのに絶好の時期として昔から親しまれて来ているよね。

 例えば読書の秋に行楽の秋、それにスポーツの秋でしょ。

 それから「天高く馬肥える秋」という諺が指し示すように、食欲の秋だって。

 まあ今の私としては、その中でも芸術の秋を特に推したいかな。

 何しろ我が堺県堺市が誇る堺トリコンフィネ交響楽団の生演奏をオータムクラシックコンサートという形で満喫するという、最高にラグジュアリーでインテリジェンスな一時を過ごせるのだから。

 と言っても私こと吹田千里がこうして身を置いているのはフェニーチェ堺でもなければSAYAKAホールでもなく、そもそも少佐階級の特命遊撃士として配属されている人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第二支局の管轄地域である堺県堺市ですらないんだけど。

 何しろ私が今いる大ホールは、日本と君主制三国同盟を締結している中華王朝の王都である北京市に位置する順天府音楽庁なのだからね。

 そしてこうして私が堺県堺市という管轄地域はおろか日本までをも飛び出しているのは海外公演にまで遠征する地元の交響楽団への推し活って私的な動機ではなくって、公安職としての職務の一環に他ならないの。

 平易な言い回しならば海外出張で、より厳格に改まった言い回しをするなら「集団安全保障に基づく平和維持活動を目的とした海外派兵」になるだろうね。

 とはいえ「海外派兵」って四字熟語に関しては、少しばかり疑問符がついちゃうんだよなぁ。

 それにはちょっとした込み入った事情があるんだよね。

挿絵(By みてみん)

「御久しゅう御座います、巴図魯(バトゥル)殿!自分は中華王朝禁衛軍所属の馬佳夕月(マギャ・シーユエ)であります。」

 そんな私の前に現れたのは、折り目正しい紺色の軍服に身を包んだ禁衛軍の少女士官だった。

 清朝皇族の流れを汲む愛新覚羅氏の王室を擁する中華王朝において王室直属の治安維持組織である禁衛軍は、紫禁城を始めとする宮中の警護は勿論だけど王族の方々の護衛を司る親衛隊の役割も果たしているエリート部隊なの。

 そんな禁衛軍の方々がコンサートホールである順天府音楽庁へお越しという事は、それには相応の事情があるって一目瞭然だよね。

「我が中華王朝王室及び禁衛軍の支援要請に御快諾下さり、巴図魯殿には心より感謝致します!先日の長崎での日中友好式典で凶賊共を一蹴された巴図魯殿の巧みな鉄扇術は圧巻の一言で御座います。そんな巴図魯殿が永祥和碩親王殿下の来賓席の御側で常に目を光らせていらっしゃるならば、我々としても実に心強い限りで御座います。」

「御久し振りで御座います、馬佳夕月女史。御健勝の御様子で何よりで御座います。この吹田千里、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者を完遂して巴図魯の爵位を賜りし日以来、中華王朝を第二の祖国として仰いで御座います。此度のコンサートを来賓席で台覧される和碩親王殿下の護衛役に私めを御指名頂けた事、誠に光栄で御座います。聞けば此度の辞令は愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の御推挙との由、我が君直々の君命ならば喜んで馳せ参じる所存にて御座います。」

 軍用ブーツの踵を鳴らしながら馬佳女史が示した凛々しい挙手注目敬礼に拱手礼で応じながら、私は第二の故郷と主君への敬愛の念を新たにしたの。

 人類防衛機構に所属する少佐階級の特命遊撃士にして、堺県立御子柴高校二年生。

 そんな至って平凡な肩書しか持たない一介の日本人少女に過ぎなかった私が、こうして「巴図魯」という清朝以来の武官の名誉称号で呼ばれて中華王朝禁衛軍の皆様方に懇意にして頂いているのには、ちょっと込み入った事情があるんだよ。

 そもそもの始まりは、今年の春頃だったの。

 この時期には李氏朝鮮と並ぶ日本の心強い友好国である中華王朝の愛新覚羅麗蘭第一王女殿下が公務で近畿地方を訪問される事になっていたんだけど、危険なマルクス主義者である紅露共栄軍が畏れ多くも麗蘭王女殿下の御命を狙っていたんだ。

 これを阻止すべく立案されたのが愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の暗殺阻止と紅露共栄軍の殲滅を二本柱とする「EMプロジェクト」で、その要である愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者を務めたのが他ならぬ私なんだ。

 赤い瞳をカラーコンタクトで誤魔化せば麗蘭第一王女殿下と完全に瓜二つになれる私を敵に故意に拉致させ、義歯に仕込んだGPSで敵拠点を突き止め友軍を招き入れて総攻撃で殲滅する。

 そんな捨て石覚悟の極めて危険な作戦を成功に導いて生還し次期天子であらせられる愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の御命をお救い申し上げた功績が評価され、私は畏れ多くも中華王朝の王室より巴図魯の爵位を賜ったんだ。

 こうして日本人でありながら中華王朝の準貴族という名誉ある身分に昇格した私は、日本と中華王朝という二つの祖国の友好と繁栄の為に巴図魯として公務に励んでいるって訳。

 平時においては各地の中華街で開催されるイベントや式典への出席とか人類防衛機構や自治体の開催する講演会やシンポジウムへの登壇などをこなしている私だけど、巴図魯としての公務には有事を視野に入れた安全保障や治安維持への取り組みも当然ながら含まれているよ。

 中華王朝でも有力な若手王族の愛新覚羅永祥和碩親王殿下と初めて謁見させて頂いたのも、そんな公務の一環だったんだ。

 古くからの国際都市である長崎で開催される日中友好式典に来賓として参列される和碩親王殿下を護衛すべく、準貴族である巴図魯として同じく参列した私は来賓の皆様方に威圧感を与えぬように個人兵装のレーザーライフルを鉄扇に持ち替え、そこで和碩親王殿下の御命を狙う暗殺集団と対峙しこれを一人残らず打ち破ったの。

 EMプロジェクトの成功からさほど間を置かずに立てた新たな武勲は中華王朝の王室からも高く評価して頂けて、私は主君である愛新覚羅麗蘭第一王女殿下より玉佩と併せて直々にお誉めの御言葉を賜ったんだ。

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― 新着の感想 ―
これからはもっと海外派遣が増えるのかな(;゜Д゜) それはそうと、音楽を聴いている時に敵が現れ……ないよなぁ(;゜Д゜)
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