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音楽記号:人間を木で叩くように  作者: 1文字以上(十左近ジュウ)
6/6

06 追補 残響


 私は楽団を退団し、ユリウスが後任となった。


 彼なら適任だろう。しかしあれほど世話になったのに、私はろくな引き継ぎもせず、すべての仕事を手放して急に退職したから、彼にはきっとひどく無理をさせてしまった。


 私は影の言いつけ通りすぐに旧都を離れ、音楽の仕事を求めて首都へ移った。


 引っ越した先の狭いアパートで、転居の後片付けをしながら、アナスタシアに電話をかける。首都楽団への就職の口ききをお願いしようと思ったが、電話口に出なかったので、伝言を残す。

 しばらくすると、アナスタシアから折り返しの連絡があって、ずいぶんと興奮した声で、ユリウスがあの旧都楽団の第一奏者に就任したと聞かされた。



 ユリウスは、その道を選んだんだ。背筋がぞわぞわする。


 彼には才能がある。異形の手を借りなくても頂点に立てたようにも思うし、彼に才能があるからこそ、神の音楽に強く惹かれたのかもしれない。


 そう逡巡していると、アパートの呼び鈴が鳴った。


 この住所はアナスタシアにもまだ知らせていない。楽団も引越し先は知らないはずだ。事務員に聞かれたけれど、出鱈目な住所と連絡先を書いておいた。


 首都で楽器を弾いて良い物件はそれほど無いから、すぐに調べがついたのかもしれない。影との取引を知っているから口封じに来たのだろうか。それともあの地下に、まだ引き取ってない、忘れ物があったのだろうか。


 私はドアを開けるかどうか考えながら、あの日、劇場の地下で採譜した旋律を、無意識に口ずさんでいた。



(完)

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