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祈りを繋ぐもの  作者: 和穂ゆう
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息抜き回)天津星史記1~オロチの始まり~

第一章:【慈愛帝イサナギの崩御と新たな動乱の序章】


――後世の歴史家は、この事件を「オロチ叛乱」と呼ぶ。

天津星団連合の安寧を支えてきた慈愛帝イサナギが崩御したことが、

千年続いた秩序を根底から揺るがす引き金となったからである。


桜散りし帝の最期


首都惑星イサワ、天儀宮。

銀河の春を告げる蒼白の恒星光が赤い大気フィルターを通し、

最後の光を老帝の寝台に投げかけていた。


「……星々は……まだ安らげるだろうか……」

かすかな声を残し、慈愛帝イサナギはその瞳を閉じた。

透明アルミニウムの天井から見える花びらのような宇宙塵が、

まるで桜散るがごとく宇宙空間に漂っていた。

不思議なことに、その表情には安らかな微笑みが浮かんでいた。


帝の霊魂の帰還


イサナギ帝の崩御から数日後、

辺境惑星ワカヤマの国懸神殿で奇妙な現象が報告され始めた。


「イサナギ陛下の霊体をホログラム探知機が感知いたしました」


神殿の司祭が報告すると、

星間通信網を通じて希望のメッセージが各植民星に広がった。

亡き帝が死してもなお民を見守っているのだと信じることで、

喪失の悲しみが少しずつ癒されていった。


新体制の始動


惑星ビワコの軌道ステーション。

朝の人工太陽が湖のような居住区ドームを照らす頃、

第八代皇帝アマテルの姉ヒルコヒメ(後のシタテルヒメ総督)は、

夫で参謀総長オモイカネと共に新たな統治領域を見渡していた。


「この星域でネ・サホコ両星系を統治することになりますね」

「父上の霊を、この地の守護AIとして祀りましょう」


こうして多賀大型コンピュータにイサナギの人格データが

「タガのシステム」として保存され、

ヒルコヒメは「シタテルヒメ総督」という尊称で呼ばれるようになった。

彼女は皇太子オシホミミの軍事教育を託され、

オモイカネとの間にタチカラヲという後継者をもうけていた。


暗雲立ち込める報告


平和に見えた新体制に暗い影が差し始めた。

惑星シマ、イサワ宮殿に、一隻の高速偵察艇が緊急着陸した。

「サホコ星系のツワモノヌシ提督からの緊急通信であります!」


通信士官は震え声で報告を始めた。

ネ星系の准星系司令官クラキネが一般市民のサシミメを妻とし、

その縁でサシミメの兄コクミを重用したが、やがて汚職が発覚した。

クラキネの死後、その息子シラヒトがサシミメとその娘クラコヒメを

サホコ星系に追放し、コクミが妹サシミメとその娘を妻として囲うという、

軍規を逸脱した不正が明るみに出たのである。


正義の鉄槌


アマテル帝は断固とした決断を下した。


「直ちに査察艦隊を派遣せよ。関係者全員を首都へ召還する」


査察が行われた謁見の間で、法務長官カナサキがコクミを厳しく追及した。


「軍人として恥ずべき行為を犯しながら、何も感じないのか!」

コクミには軍法会議で三百七十単位(銀河刑法における極刑相当)、

シラヒトには四百十単位の重罪が宣告された。

しかし、アマテル帝の慈悲により特赦が下され、

彼らは辺境惑星イズモへの左遷処分となった。


若き皇子の旅立ち


物語の最後に、まだ青年期の皇子ソサノヲが登場する。

聖域惑星クマノで祖母イサナミの記念館を守っていた彼に、

重要な任務が与えられた。


「ソサノヲよ、イズモ星系に赴け」


ソサノヲは深く頭を下げ、抑えきれない想いを込めて答えた。

「兄上、私は必ずや立派な統治者となってご覧に入れます!」


しかし、アマテル帝は弟の心に巣食う焦燥と自責の念を心配していた。

この若き皇子を待ち受けているのは、平穏な統治ではなかった。

イズモ星系から始まる、ソサノヲの波乱に満ちた物語の序章が、

今まさに幕を開けようとしていた。



第二章:承【禁断の恋と堕落への道】


権威への焦燥


スイドウ川の流れる平野が見渡せる軌道エレベーターの窓から、

ソサノヲはイズモ星の地表を眺めていた。

彼の瞳には皇族としての威厳が宿っていたが、

同時に青年特有の焦燥感も隠しきれずにいた。


まだ軍歴の浅い身でありながら権威を示すため、

彼は祖父トヨケの陵墓惑星アメノマナヰへの巡礼を決意する。

キョウタンゴ星系への長いワープ航行の間、

艦橋に響くのは推進エンジンの低い唸りだけだった。


運命の邂逅


アメノマナヰ記念館で巡礼を終えたソサノヲが振り返ったその時、

人工照明に照らされた若い女性の姿が目に飛び込んできた。

反重力システムで優雅に舞い踊るような立ち姿に、

ソサノヲの心は瞬時に激しく打たれた。


「あのお方は?」


「ツクシ星系のアカツチ総督のお嬢様、ハヤスフヒメ様でございます」


九州星団への使節を立てたソサノヲだったが、

アカツチからの返事には条件が付いていた。


「結婚には相応の居住施設が整っていなくては承諾できません」


階級的にはまだ少佐に過ぎないソサノヲ。

自分の艦隊司令部を持てない身分への焦燥感が、胸の奥で渦巻いた。


危険な慰め


そんなソサノヲの苦悩を慰めてくれたのが、

アマテル帝の皇后モチコとハヤコの姉妹だった。

政務に忙殺される夫への寂しさを抱えていた二人は、

義弟にあたるソサノヲに親近感を抱いていた。


特に年若いハヤコの心境は複雑だった。

「ソサノヲ様は、アマテル陛下によく似ていらっしゃる...」


ハヤコの胸の奥で、禁じられた想いが芽生えていた。

秋の長夜、北宮殿にソサノヲが宿泊する姿を警備システムが記録し、

その情報は宮廷に広がっていく。


破綻の兆し


「これは看過できない事態です」


皇室管理局の厳しい裁定により、モチコとハヤコの宮仕えは停止となった。

ソサノヲも自分の軽率な行動が義姉たちの立場を悪化させたことに激しく動揺する。


「私が中央政府に行って事実を説明しよう」

勇気を振り絞るソサノヲを、ハヤコが必死に押し止めた。

「今の状況で正直に話しても、お互いの立場が悪くなるだけです。

ソサノヲ様の地位が向上すれば、

いずれはアマテル陛下に対抗できる実力を持てるかもしれません。

今は時を待ちましょう」


発覚と裁き


正皇后セオリツヒメ(ホノコ)の妹ハナコが事態を察知し、

密かに調査を進めていた。

やがて全てが明るみに出ると、正皇后の前にモチコとハヤコが召し出された。


「ハヤコ様、あなたはアマテル陛下の皇后でありながら

弟のソサノヲ様と密会を重ねていますね」

ホログラム越しに聞こえる声は冷ややかだったが、どこか慈悲の響きもあった。


「九州星団での謹慎を命じます。

しかし、深い反省と真摯な態度を維持できれば、やがて復権の機会は訪れます」


九州での新天地と裏切り


九州星団のアカツチは素早く行動し、

ウサ惑星に新たな居住施設を築いてモチコとハヤコを迎え入れた。

当初は穏やかに植民者たちの相談事に応じていた二人だったが、

やがて絶望的な知らせが届く。


「北宮殿に別の方が着任されました」


約束を破られたと感じたモチコとハヤコの怒りは激しく燃え上がり、

二人は居住区のバリアを封鎖し、誰の面会も拒絶するようになった。


オロチの誕生


イズモ星系で、元皇后モチコとハヤコは、

ソサノヲの監視から逃れたシラヒトとコクミを配下として

反乱組織「オロチ」を結成する。

彼らは宇宙海賊行為を働いて生活するようになったが、

相手がアマテル帝の元皇后だったため、

被害を受けた商船団は訴えることもできず、ただ泣き寝入りするしかなかった。


イズモ星系の小惑星帯に暗雲が立ち込める中、

首都でもソサノヲが騒動を起こし始める。

銀河はいよいよ暗雲に満ちてきた。



第三章:転【弟の罪と兄の苦悩】


嵐の前兆


夏季が終わりを告げる頃、首都惑星イサワの空は重い雲状星雲に覆われていた。

モチコとハヤコが九州星団へ謹慎を命じられた同じ時期、

ソサノヲにも首都での謹慎が下されていた。


アマテル帝の皇后との不倫が星間ニュースで広まると、

ハヤスフヒメとの婚約は無情にも破棄され、

イズモでの権威は音を立てて崩れ落ちた。


「もう、どうなってもいい」


ソサノヲの怒りは農業コロニーの住民たちに向けられた。

丹精込めて培養された作物培地を踏み荒らし、

灌漑システムのパイプを破壊して大切な水を宇宙空間に放出してしまう。

当然のように、あちこちから立入禁止を言い渡された。


次に狙いをつけたのは、新嘗祭の儀礼服を製造する工場だった。

神聖な収穫祭のための美しい衣装が自動織機で作られているその場所に、

ソサノヲは農業廃棄物を撒き散らした。ここでも立入禁止となった。


破滅への道


立入禁止処分への怒りは、もはや理性の域を超えていた。

「俺を馬鹿にするな!」

工場を破壊するため、ソサノヲは興奮状態にある軍用ロボット馬を放った。

制御を失ったロボット馬は工場の自動ドアを蹴破り、製造フロアで暴れ回った。


その混乱の最中、運命の瞬間が訪れた。

織物工場にいたハナコヒメ(セオリツヒメの妹)は、

暴走するロボット馬から身を守ろうとして転倒し、

自動織機の鋭利な部品が胸に深々と刺さった。

彼女の白い作業服が、瞬く間に赤く染まっていく。


「あ...」

ハナコヒメの唇から小さな息が漏れ、そして静寂が訪れた。

気配りの上手なハナコヒメは人々から深く愛されており、

彼女の死を知った人々の嘆きは、星系全体を悲しみで包み込んだ。


兄の怒りと教え


アマテル帝がその報告を受けたのは、夕暮れ時のことだった。


「ソサノヲよ」

アマテル帝の声は、普段の穏やかさとは程遠い厳しさを帯びていた。


「あなたは癇癪を起こして周りに当たり散らすような方法で、

自分の思い通りにしようとしていました。それは統治者として間違った方法です」


人工の風が吹き抜け、植物園の葉がざわめく中、

アマテル帝は『ミチ為すウタ』を詠んだ。


「『銀河系 和やして巡る 星々こそ 晴れて明るき 民の足らなり』


この詩は教えています。銀河が和やかに巡り、星々が明るく照らすからこそ、

人々は豊かに暮らせるのだと。あなたが我がままに振る舞えば、

この和を壊し、結局は自分の豊かさすら失うのです」


魂の叫び


ソサノヲは叫んだ。

「自分が悪いことは分かっているんだよ!

でも、どうしたらいいか分からないんだ!!」


怒りの中で、ソサノヲは幼い頃の記憶を思い出していた。

母親を巻き込んで亡くしてしまった宇宙船の爆発事故の光景。


「昔から俺は、自分を抑えきれず、衝動的に何かをしては誰かを巻き込んで、

そして大切な誰かを殺してしまっている...俺は...俺は!自分自身が許せない!!」


自分への怒りに身を任せ、ソサノヲは装甲壁に頭突きを繰り返した。

血まみれになった手が金属を叩く音だけが、夜の静寂に響いていた。

アマテル帝は、弟の長年抱えていた"心の病"による苦しみに初めて気づいた。

しかし、取り返しのつかないことを起こしてしまった弟に、

どのような言葉をかければよいのか分からず、ただ押し黙るしかなかった。


光を失った首都


ソサノヲはその後、自傷行為を防ぐため拘禁施設に収容された。

一方、アマテル帝は自分を深く責めていた。


「もっと早くにソサノヲの話を聞いていれば...ホノコの妹のハナコも...

いや、イサナミ母上すらも助けられたのでは...」


深い自省に陥ったアマテル帝は、執務室の入口を封鎖してしまった。


「アマテル陛下が、お籠りになられた!」


ハナコヒメの事故死とアマテル帝の籠もりの知らせが銀河ニュースで広まると、

全星域の人々の気持ちは真っ暗に落ち込んだ。


希望の光


この緊急事態を知った参謀総長オモイカネは、

高速艇で夜を徹して首都に向かった。すぐさま閣僚を招集して緊急会議を開催する。


「マサカキ級戦艦の通信アンテナを立て、

上部には朱塗りの信号発信器を設置しましょう。

中間部にはシンケイツ級の反射鏡を配置し、

下部は通信用のビーコンを設置してお祈りをしましょう」


若い女性職員たちにはヒカゲ蔓をモチーフにしたユニフォームを着せ、

空調には薬草エキスを混合したミストを流し、

周囲には良い香りを放つササユリの人工花を配置した。

オモイカネが作成した祈りの詞と古来の舞踊に合わせて、

賑やかで調子の良い歌が響いた。


『カクノ木 枯れても匂う 萎れてもよや あが君あわ』

「枯れても萎れても、命はまだ生きている。

悲しみや絶望の中でも、命や光は絶やさず、再び銀河を照らしてほしい」


光の復活


執務室の中で、アマテル帝は外の賑やかな様子を聞いていた。

思わず感動の涙が頬を伝う。


「こんな自分でも、皆は求めてくれている...」


そっと入口のハッチを細く開けてみると、

待っていたタチカラヲが背中を押すようにハッチを開け放った。

明るい廊下の照明に眩しさを感じたアマテル帝は、

甥に手を引かれて籠もりの執務室から出てきた。


慈悲の裁き


多くの閣僚・星系司令官が集まり、ソサノヲの処罰について軍法会議が開かれた。

「ソサノヲ様の罪の重さは、千単位と量刑いたします」


まず階級章剥奪の刑が執行され、次に名誉勲章の取り上げが行われた。

しかし、ハナコヒメの姉であるセオリツヒメから特赦の勅令がもたらされた。


「ハナコを死なせた罪の四百単位は執行猶予としてください。

ソサノヲ様の問題行動は、生まれて間もない頃から生じていた

心の病によるものです。

血族からの特赦の申し出を考慮し、軍籍剥奪の上での流刑処分とします」


ソサノヲは流刑処分の身となってからは、

スサノヲとも呼ばれるようになった。


和の心の復活


アマテル帝の心には、深い安堵と感謝が溢れていた。

そして同時に、長年心の病に耐え続けてきた弟への思いも込み上げてきた。

弟への励ましの気持ちを込めて、アマテル帝はミチスケのウタを作った。


『あはれ あなおもしろ あなたのし あなさやけ おけ さやけおけ』

「ああ、なんと感動的で喜ばしいことよ。

あなたの心は清らかになれる。これからも清く、明るくあれ」


この歌には、罪を犯した弟であっても、

その心は必ず清らかになれるという信念が込められていた。


人々は口々に語り合った。


「アマテル陛下の慈悲深いご様子は、

アマテラス大帝(銀河から慈悲の光で照らす偉大なる皇帝)

と呼ばれるのに相応しい」


こうして、暗闇に覆われていた首都に再び光が戻り、

人々の心にも和やかさが蘇った。



第四章:結【誓いと真実、そして新たな出発】


別れの願い


秋の季節風が首都を吹き抜ける頃、

ソサノヲ改めサスラヲは重い足取りで宮殿の階段を下りていた。

かつて響いていた副官たちの足音は今はなく、

ただエアダクトの音だけが彼の耳に届く。


父君イサナギの遺勅を思い出し、彼の心はわずかな希望の光を見出した。

しかし、その前にどうしても果たしたい願いがあった。


「兄上」


アマテル帝の前に跪いたソサノヲの声は、

かつての傲慢さを失い、か細く震えていた。


「その前にひと目、最愛の姉上シタテルヒメ総督にお会いしてから、

流浪を始めさせていただきたく存じます」


アマテル帝の表情は厳しかったが、やがて静かに頷いた。


ビワコ星への航路


ビワコ星南東軌道ステーションへ向かう航行中、

宇宙港の民間人たちが彼の姿を見ると、顔を青ざめさせて急ぎ足で立ち去っていく。


ハナコヒメを事故死させ、アマテル帝を執務室に籠らせた男

―――その悪名は既に全銀河に知れ渡っていた。


姉の覚悟


シタテルヒメ総督は司令部の窓から遠くに見える弟の宇宙艇を眺めていた。

彼女の胸中には、幼い頃の記憶が去来する。


「オモイカネ様」彼女は夫に向き直った。

「アマテル陛下からの親書では最後の挨拶と書かれておりますが...」


「しかし、あの方の本心は違うのでしょうな」

シタテルヒメ総督の目に、悲しみと決意が混じり合った光が宿る。


「かつてクマノにいた頃のように、力ずくで駄々をこね、

私に甘えて頼ろうとしているのでしょう。

今回の出来事で学んだはずの心の病と向き合うことも忘れて...」


弟の甘えを断ち切るためにも、今宵は姉ではなく、

一人の軍人として彼を迎えなければならない。


武装の姉


翌朝、霜が降りた中庭に、見慣れぬ軍装の姿があった。

髪を男性のように結い上げ、腰には光線銃とプラズマソードを装備し、

右手には小型ビーム兵器、左手には制式軍刀を持つその姿は、

かつての優美なシタテルヒメ総督の面影を微塵も残していない。


対峙


ソサノヲは目を疑った。記憶の中の優しい姉の姿は、どこにも見当たらない。


「ここに来た本当の目的は何でしょう」

シタテルヒメ総督の声が朝の静寂を切り裂いた。


「昔のように駄々をこねて私に甘えようなどとは思っていませんでしょうね?

そもそも父上のイサナギ陛下からの遺勅のことは放ったらかして

―――今更、どんな理由で私の許に訪れたのですか!」


「姉上、誤解です!」ソサノヲの声は必死だった。

「遠い首都から来る航路で、人々が皆私を恐れ忌避しています。

私は、ただ一目、ヒルコ姉様にお会いしたかっただけなのです」


心の病


シタテルヒメ総督の表情は変わらない。

「アマテル陛下とのやり取りや経緯は、夫のオモイカネからも聞いております」


人工の風が湖面を渡り、二人の間を吹き抜けていく。

「あなたの心の病―力づくで自分を押し通そうとする悪癖は、

母上を亡くして私が面倒を見るようになった頃からありましたね」


ソサノヲは言葉を失った。姉の指摘は、まさに核心を突いていた。

「今回の出来事は、あなたも自分の心について見直すきっかけになったということですか?」


「...はい...」


「その言葉を、今後の行動で証明できますか?」


誓いの言葉


ソサノヲは深く息を吸った。

「かつて聞いた話があります。

兄上がマナヰ記念館にて祖父トヨケ様の追悼式に参列された後、

心の調和を整えて罪を清められました。

その後、モチコ様からお生まれになったのがタナキネ―ホヒ皇子でした」


シタテルヒメ総督は静かに聞いていた。


「その後、シラヒト・コクミの事件が発覚した際、

三つの剣が折れるという悪夢をご覧になりました。

ハヤコ様は三つ子の皇女をお産みになりましたが、

厄除けのために『タ』を名前に付けて、タケコ・タキコ・タナコ皇女とされました」


宇宙空間の静寂が降りた。

星々が鏡のように輝く中で、ソサノヲは最も重要な言葉を紡いだ。

「私は、このまま父上の遺勅の通り、ネ星系に向かいます。

そこで自分と共に心の病に向かい合ってくれる女性を探し出し、

その女性と共に成長し、子供を授かります」


シタテルヒメ総督の握る光線銃の手に、わずかな変化が生じた。

「男の子が生まれれば、身の潔白の証明となるでしょう。

しかし、その子供が女の子であれば、心の病を治しきれず、穢れがあるということ」


ソサノヲは姉の目をまっすぐに見つめた。

「これを、今度の自分の行動に対する宣言と誓いといたします」


微笑みの中の別れ


しばらくの沈黙の後、シタテルヒメ総督の表情に変化が現れた。

固く結ばれていた唇が、ゆっくりと微笑みの形を作る。

彼女は武装を解き、軍刀を鞘に収めた。


「分かりました」

彼女の声は、再び姉としての温かさを取り戻していた。


「あなたの今後に星々の加護あらんことを」

ソサノヲは深く一礼した。その姿は、もはや我がままな皇子ではなく、

自らの道を歩む決意を固めた一人の男だった。


心の病の根源


流刑の身となったソサノヲ。その過ちの根本には、

「他人を思い遣る気持ち」の欠落があった。

しかし、その心の病が生じたには、深い原因があった。


第七代皇帝イサナギ・イサナミが銀河の再統一事業に追われ、

ソサノヲが生まれた時にはイサナミ皇后が宇宙船事故で倒れてしまい、

充分に面倒を見ることができなかった。

二人はその事を深く悔い、後世に良からぬ事が起きないよう願いを込めて

『ノコシフミ(遺言データ)』を記録していた。


父母の遺言


『ノコシフミ』の記録には、こう記されていた:


「銀河帝国の運営の危機に立って、私たちは多忙な年月を過ごして参りました。

その結果、心が疲れて蝕まれておりました。

そんな時に授かった子がソサノヲでした。

心のどこかが乱れていても、それには幼い頃に原因があります。

目には見えにくい病が生じたのです。

男の子は、父の心を得て、大宇宙を抱くような大きな心を持ちなさい。

女の子は、母の心を得て、銀河を常に思うようにしなさい。

結婚の時は、仲人を得て二人の心を繋げてから式を挙げなさい。


お嫁さんは、生理周期の三日後に心も清々しく、

朝の恒星光を拝み受けて良き子を生んでください。


気持ちが疲れていたような時に懐妊した子は、

必ず何か問題があってもおかしくないものです。

最悪のものは流産です。それは避けたいものです。悲しいものですから。


この事をしっかりとわきまえて、

私たちのように悲しい思いをしないようにしてください」



エピローグ〜新たなる希望〜


ビワコ星の湖面に夕日が沈む頃、

シタテルヒメ総督は司令部の展望デッキに立っていた。

遠く消えていったソサノヲの宇宙艇を思い浮かべながら、

彼女は父母の深い愛と知恵に思いを馳せた。


「父上、母上。

生前、あなた様達がおっしゃっていた言葉の意味が、ようやく理解できました...」


イズモ星系へ向かうソサノヲの前途は険しいだろう。

しかし今度こそ、彼は真の成長を遂げるかもしれない。

心の病と向き合い、他者を思いやる心を育て、愛する人と共に歩んでいくことで。

宇宙の彼方から吹いてくる恒星風が頬を撫でていく。

その風は、新しい希望を運んでくるようだった。


――こうして、後に「オロチ叛乱」と呼ばれる事件の序章は幕を閉じた。

しかし、イズモ星系に向かったソサノヲを待ち受けているのは、

さらなる試練であった。


元皇后モチコとハヤコが率いる反乱組織「オロチ」との対決、

そして彼自身の心の病との最終的な戦いが、今まさに始まろうとしていた。


叙事詩は、まだ始まったばかりである。

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