第九話 個室で二人きり
やや薄暗く感じる照明の中でまー君とわかなは向かい合っていた。同い年だと言われても肉体年齢が十六歳なだけで実年齢はいったいいくつになるのだろうとまー君は自問自答していたのだが、何となくわかなも自分と同じように人生を何度もやり直しているのではないかと感じていた。どことなく感じている気品とこのような場所で二人きりになっているのに慌てることもなく落ち着いているのはとても十六歳の少女とは思えなかった。
「このお店って一見さんは入れないと思うんですけどぉ、お兄さんは誰の紹介でここに来たんですかぁ?」
「紹介というか、零楼館乳首郎にここに行くようにって言われたから来たってだけなんだよね。この店がどんなところか知らずに来たんだけど、店の中に入って色々と思うところはあったんだ。でも、そこで感じていたのはこの部屋に入って確信に変わったね。零楼館乳首郎の嫌がらせかと思ったけど、君は零楼館乳首郎から何か言われてるの?」
「何も言われてないですよぉ。私って零楼館乳首郎の事が嫌いなんですよねぇ。あのおじいさんっていつも偉そうなことを言ってるのにぃ、肝心な時にはしっぽ巻いて逃げて隠れちゃってるんですぅ。そんな人に仕えてる愛華ちゃんってかわいそうだなって思うんですけどぉ、こればっかりは私がとやかく言うことじゃないですからねぇ」
十六歳の少女から見れば零楼館乳首郎はおじいさんかもしれないけれど、ここまではっきりと拒絶するなんていったい何をやらかしたのだろうか?
それをこの少女に聞くことで答えは知ることが出来るだろうが、そんな事を聞いてしまうと自分も嫌われるようなきっかけが生まれてしまうのではないかとまー君は考えてしまった。
嫌われたところでこの少女ともう一度会うとも思えないので問題ないと言えば問題はないのだが、こうして知り合ったのだから悪い印象は持たれたくない。出来ることなら、出会った女性全員に好意を持ってもらいたいと考えている。とても傲慢なまー君であった。
「それとぉ、君じゃなくてわかなって呼んでくれていいですよぉ。お兄さんのことはなんて呼べばいいですかぁ?」
「わかなさん、頑張って呼ぶよ。俺のことはまー君って呼んでくれたらいいかな。みんなそう呼んでるし」
「頑張らないで普通に読んでくださいねぇ。まー君って、どっかで聞いたことがあるような気がするなぁ。零楼館乳首郎の近くにそんな名前の人いませんでしたっけ?」
「零楼館乳首郎のそばにいるまー君が俺だよ。他にもいるかもしれないけど、わかなさんが聞いたことあるって思うんだったら俺で間違いないんじゃないかな」
「さん付けはいらないですよぉ。同い年なんだからもっと気楽にいきましょ。緊張なんてしなくても大丈夫ですからねぇ。私はまー君に変な事とかしたりしないですからぁ、まー君も私に変なことしちゃダメですからねぇ」
ダメと言われるとしたくなるのが人間という生き物だと思うのだが、根がまじめなまー君は言われたのならやらない方が良いんだろうと勝手に納得していた。
だが、自分からは変なことをしないと決めてはいたものの、わかなからされる分には問題ないだろうと考えていた。きっと口ではあんなことを言っていたとしても、実際には口に出来ないようなあんなことやこんなことをされるのだろうとまー君は思っていた。
何度目かの再挑戦でこのようなお店に遊びに来たことはあったのでいろいろと想像はつくのだが、未成年者が相手になったことはなかったので少しだけ不安な気持ちもあったりする。
未成年同士の場合は何か罰則があるのだろうか?
もしも、未成年同士で致した場合には何も罰則がないのであれば、まー君はいろいろと試すことが出来るかもしれないと脳内で妄想を繰り広げていた。
「お腹空いていたら出前を取ることも出来るんだけどぉ、まー君はお腹空いてたりしない?」
「ペコペコって感じじゃないけど、食べようと思えば食べることが出来るくらいには好いてるかな。わかなはお腹空いている?」
「私も少しだけお腹空いてるかもぉ。まー君が何か食べるって言うんだったら、私も一緒に食べようかなとは思うよぉ」
「それだったら何か食べようか。何が良いのかな?」
「じゃあ、せっかくだからここの名物でいいんじゃないかなぁ。まー君も同じのでいいかなぁ?」
「名物って、何?」
「ジャンボパフェだよぉ。作るのにちょっと時間がかかっちゃうみたいだけど、甘さ控えめで最後まで美味しく食べることが出来るんだぁ。まー君は甘いもの苦手だったりするのかなぁ?」
甘いものを進んで食べることはないが、特別嫌いでもないし食べることは出来ると思う。ただ、ジャンボパフェというくらいだから物凄い量のパフェがやってくるのかと思うと少しだけ躊躇してしまった。
出来ればデザートではなく普通の食事が良いなと思って出前一覧を見てみたのだが、乗っている物はケーキやクレープをはじめとする洋菓子や団子や羊羹などの和菓子が中心であった。どれもこだわりが強そうで美味しそうに見えるけれど、食べたいのはそう言うのじゃないとまー君は思っていた。
「はーい、ジャンボパフェ二つお願いしますぅ。はい、一つじゃなくて二つで大丈夫ですよぉ。代金は零楼館乳首郎につけといてくれたら大丈夫だってまー君が言ってました」
そんなこと言ったかなと思ったまー君だが、パフェが一つではなく二つで大丈夫かと聞き返されていることは聞かなかったことにしたのだった。




