第二十二話 繰り返しの行動
最初のうちはまー君がかいりに吹っ飛ばされるたびに大歓声が上がっていたのだけれど、何度も何度も吹っ飛ばされ続けているのを見ているうちに少しずつ小さな歓声になっていき悲鳴のように聞こえる叫び声も聞こえ始めていた。
それでも、まー君はかいりに向かって行くことをやめたりはしなかった。
「もう諦めた方が良いんじゃないか」
「反撃する手立ても無いんじゃ、いくらまー君でも勝てっこないよ」
「でも、かいりちゃんもつらそうに見えるよ」
そんな声がそこら中から聞こえてきたころ、まー君は急に立ち止まって様子をうかがうかのようにジッとかいりのことを見ていた。獲物を目の前にした肉食獣のようにその瞬間を待っているかのような姿勢を見せているのだが、良さそうなタイミングになってもとびかかったりはしなかった。
「あんたは凄いよ。これだけ何度も確かめてるのに、俺にはさっぱりわからないな。魔法なのか技術なのか全然わからないけど、それだけあんたの力は偉大だってことになるな」
手足を上げることがやっとなくらい体力が残っていないかいりはまー君に話しかけられたところで答えることなんて出来なかった。そもそも答えられるようなものでもないので何も話すつもりはない。
「でも、一つだけ気付いたことがあるんだ。これはとても重要なことだから言わせてもらうんだけど、あんたの攻撃は確かに凄いけど、凄いだけで怖さは全く感じられない。何度向かって行っても平気だったし、攻撃を受けてもヤバいと思ったことは一度もなかった。だから、今のあんたの力じゃ俺に勝つことは不可能だと思う。それはあんたもわかってるよな?」
普通の人であればあれだけの勢いで結界に叩きつけられれば起き上がることなんて出来ないだろう。結界に叩きつけられる前に失神している可能性だって十分に考えられるのだ。
だが、まー君は頑丈だからなのか何度叩きつけられても何事もなかったかのように同じことを繰り返している。かいりの体力が続く限り反撃をしようと思ってはいるものの、一方的に攻撃をしているかいりの方が精神的にも肉体的にもダメージが蓄積しているような感じがしていた。
お互いに意地と意地をぶつけあってこのステージに立っているのだが、見ているだけの人にはかいりが圧倒的におしているという印象しかもっていないことだろう。一般人だけではなく戦闘のプロであったとしても誰がどう見てもかいりが攻めているという事実だけしか感じ取れないのだ。
しかし、実際には何度吹っ飛ばされても全くダメージを受けていないまー君と、一方的に攻めてるとはいえ数えきれないくらい攻撃をしているかいりでは精神的に受ける疲労は大きな差があるだろう。
「どうする、まだ続けるなら俺はまたあんたの近くまで寄っていくけど、まだやるかい?」
その問いにもかいりは答えなかった。
ただ、答える代わりに右手をまっすぐまー君に向けて伸ばしていた。
それを見たまー君はやや呆れたという感じの表情のまま、先ほどまでと同じようにふっとばされていった。
「これ以上続けても意味がないように思うんですが、零楼館乳首郎さんとしては止めたいという気持ちの方が強いんでしょうか?」
「そうですね。まー君が攻めることが出来れば話は変わってくると思うんですが、これだけ同じことを同じ人に繰り返しているというのはいかがなものか」
「さっきまー君とかいりちゃんが何か話をしていたように見えたんですが、アレっていったい何を話してたんでしょうね?」
試合をさっさと終わらせたい零楼館乳首郎と何が起こっているのかちゃんと確認した天空の民。二人の考えには大きな隔たりがあるのだけれど、お互いに相手の言い分もわかってしまうので強く否定することが出来ない。
まー君とかいりの会話がどんなものだったのか映像を確認してみたものの、まー君の小さな声を拾えるマイクはなく、観客が一斉に飛ばしているブーイングの音しか聞こえてこなかった。
「あんたが負けを認めたところで今の状況じゃ誰も納得しないだろう。今の今まで俺は反撃を何もせずにただ立ち向かっていって吹っ飛ばされているだけだもんな。観客たちからしたら、俺の方が優勢だって誰も信じないだろうな。さすがに解説の三人はそれをわかっててくれるとは思うんだけど、天空の民とか言う得体のしれない奴が混ざってるのはちょっと心配要素でもあるな」
「天空の民がどれくらいの強さなのか知らないけど、私が負けを認めるわけなんて無いでしょ。今だって私の方が有利なんだからね。なんでそんな私が負けを認めないといけないのよ」
多少ではあったがかいりの体力は回復しつつあった。
こうして向かい合っている時でもかいりはなるべく動かないように指定体力を温存している。黙っていても疲れることはあるし、まー君のように何度も同じことを繰り返しても疲れることもなく攻め続ける。それが出来るのはこの世界に何人いるのだろうか?
かいりの攻撃の秘密同様、誰もその答えを知らぬまま試合は新たな展開を見せようとしていた。
「一つだけ言わせてもらう。俺は女子供と老人には手を上げないようにしている。あえてもう一度言わせてもらう。このまま負けを認めてくれはしないか?」
「そんなの認めるわけないでしょ。私が勝たないとこの世界が危ないことになっちゃうって噂だしね」
「そんな噂があるなんて知らないけど、俺が手を上げないからって安心しない方が良いんじゃないかな」
「そういう話を聞いてるだけだし、具体的なことは何も知らない。手を上げないってことは……もう諦めたの?」




