第十七話 一発
音は空気を振動させて伝わるという事が実感できるほどのブーイングで迎えられたまー君は何事もなかったかのように会場の中央まで移動し、まるで声援にこたえているかのように観客たちに向かって手を振り続けていた。
当然、そのようなことをされた観客は煽られていると感じてより大きなブーイングを飛ばしているのだが、まー君はそんな事を一切気にせずに微笑みを浮かべて手を振り続けていた。
「いつも以上のブーイングに迎えられての登場となりましたまー君ですが、いつもとは違って観客たちに大げさに手を振っていますね」
「これは完全に煽ってるとしか思えないですね。私が観客だったらイラっとしちゃうかもしれないですよ」
「その点は天空の民である私も同意見ですね。絶対負けないという自信があるからあんな行動をとれるんですかね?」
「いや、単純に性格が悪いんじゃないですかね。自分が見れないからって理由で誰にも公開しないってのは性格が悪い証拠だと思いますし」
「それは私も思います。天空世界でもその話題で持ちきりですからね」
イヤホンをしていても隣にいる人の声が聞こえにくいので三人とも大きな声になっているが怒っているわけではない。そうしなければマイクに自分の声が入らないのではないかと思ってしまっているだけなのだが、この映像を見ている人には三人もまー君に向けて怒りの感情をぶつけていると思われていた。
公平な立場で解説するべきだと本来なら思われても仕方ないのだが、全生命体がまー君に向けて負の感情を向けている今であればそれも良しと受け止められているのだ。
「さあ、いよいよ本日最後の挑戦者が登場です。それまでにこのブーイングが収まってくれればいいのですが」
愛華がそう叫んでいるかのように話している最中に事件は起こった。
ブーイングがあまりにも大きかったせいなのか、ミサイルが会場のど真ん中に向かって飛んできていたことに誰も気が付かなかった。
どんなに凄い魔法を使っても壊れない結界が張られているはずの舞台なのだが、なぜかミサイルが飛んできた瞬間だけその結界が剝がされていたのだ。もちろん、誰もそんな事をしていないし、する意味もないのだ。
ミサイルは狙いすましたかのように舞台の中央にいるまー君に直撃した後に爆発四散し、衝撃波と熱風が舞台全体を飲み込んでいた。
なぜか、ミサイルが爆発した瞬間に結界が再び張られて衝撃波と熱風は観客のもとへは届かなかったが、目の前で突然起こった光景に誰もが言葉を失っていた。
実況解説の三人も言葉を失って瞬きすら忘れて見入っていたのだが、結界の中は巻き上げられた粉塵によって何も見えない状態になっていた。
この程度のことでまー君が死ぬとは到底思えないのだが、万が一死んでいたとしたらどうなるのだろうと誰もが思っていた。
幸か不幸か、今起きた事態をかいりは知ることもなく、一人ゆっくりと舞台へ向かって歩みを進めていたのだ。
「あの、ミサイルが飛んできたのって、乳首郎の仕業?」
「そんなわけないでしょ。俺だって驚いてるくらいだし。そもそも、あんなふうに一瞬で結界のオンオフなんて出来ないだろ」
「それって、まー君の自作自演だったりします?」
「さすがにそんな事は無いでしょ」
「いくらまー君でもそんなことしないと思いますよ」
愛華も零楼館乳首郎も天空の民も当然そんな事をするわけはないと思っているのだが、心のどこかでまー君ならみんなを静かにさせるためにやっちゃうんじゃいないかと思ってはいた。その思いが通じてしまったのか、三人は顔を見合わせて乾いた笑いが出ていた。
かいりが舞台裏に到着し、今から会場入りするという段階になってもまだまー君の安否は確認が取れていない。ミサイルが直撃したのだから粉々になって死んでいるだろうという風に普通は考えてしまうだろうが、魔王ですら簡単に倒せるような男がたかがミサイル一発で死ぬとは思えない。
でも、未だに巻き上げられている砂埃が落ち着いてくれるまでは確認することも出来ないのだ。
舞台裏に立っているかいりがチラッと舞台を覗いた時、結界の頂点に小さな穴が開いて舞い上がっていた砂埃が全て天空へと向かって飛んでいった。
舞台の中央には両手で頭を押さえているまー君が立っていた。
「あ、やっぱり生きていますね。あの程度じゃ死なないんですか(なんで生きてるんだろう?)」
「普通の人にはミサイルを超える衝撃を与えられないだろうし、どうやっても勝てないって証明になっちゃうんじゃない?(誰が撃ったか知らないけど、やるならちゃんと殺せよ)」
「いや、さすがに天空の民でもあの衝撃と高エネルギーを生身で出せるとは思えないんですけど(人間の限界を超えたとかレベルじゃないぞ)」
実況解説の三人はドン引きしていたのだが、三人と同じようにミサイルの直撃でも頭を押さえる程度で済むのかと引いていた。
そこへ、何も知らないかいりが自身の登場曲に乗って花道へと進んでいった。
「おっと、まー君にドン引きしている場合ではないです。いよいよ本日最後の挑戦者であるかいりさんが登場です。明るい曲に合わせて楽しそうに歩いていますね」
「先ほどまでの空気が一変しましたね。彼女にはすべてを変える可愛らしさがあるようですよ」
「うん、人間の子供にしては強そうだな。もしかしたら、今まで戦ってきた中で一番いい戦いをするかもしれないぞ」
「それはどうしてでしょうか?」
「まー君が苦手とする小さい女の子だからな」




