第十四話 もう一人の優秀な男
日本魔法協会と大日本魔法連合会の二つの組織がこの国には存在していた。
どちらも人間が中心となって運営していたのだが、その目的は異なっていた。
日本魔法協会は魔法の研究や発展が主な目的であり、大日本魔法連合会は魔法を中心として人類救済を目指していた。
新しい魔法の開発や今まで使用してきた魔法の効率的な使用方法を発見している日本魔法協会。全く新しい魔法を開発することはそれほど多くなかったのだが、既存の魔法を低燃費かつ高火力で運用することが出来るようになったことで多くの人がその恩恵を受けることとなった。
もちろん、大日本魔法連合会もその恩恵を受けることとなった。
その二つの組織を中心としつつ、他の様々な団体を吸収して誕生したのが日本魔法連合協会なのである。
こことは違う別の世界線でまー君も所属していたことはあるのだが、魔法使いにとって何とも居心地の良いありがたい組織であったと記憶している。
その組織のトップである代表理事を務めるのが 零楼館乳首郎なのだが、彼は魔法だけではなく科学や芸術分野においても才能に恵まれている真の天才と呼んでも全く見劣りしない人物なのだ。でも、普通の人には理解出来ない強いクセを持った人物でもあるのだ。その点がサキュバスであるうまなちゃんとイザーちゃんが苦手とする理由でもあるのだ。
零楼館乳首郎は 再挑戦者を除いた人類の中で最強の魔法使いと言っても過言ではない。そのうえ、先を読んで行動する頭脳と通常の人間よりも優れた感性による芸術性があり見る者を魅了する戦闘スタイル。五周目くらいの 再挑戦者では対策を立てずに戦った場合、負けてしまう可能性の方が高いくらいの強者なのだ。
通常の人間では考えられない程の戦闘力を持っているがゆえに 零楼館乳首郎は 再挑戦者なのではないかと勘違いされがちなのだが、彼は一度も強くてニューゲームを選んだことはない。例え選択肢にあったとしても、彼の性格上それを選ぶことはないのだ。
好奇心旺盛な 零楼館乳首郎はその才能を生かして芸術分野でも高い評価を得ているし、指導者としても数多くの一流魔法使いを育て上げた実績もある。実業家としても多くの企業を運営し、この国の発展にも大きく貢献してきた。非の打ちどこなんて一つしかないような男なのだ。
「そんなに凄い人で人格者なのになんでうまなちゃんとイザーちゃんはそんなに会うのを嫌がってるの?」
「それはまー君があいつと会えばわかると思うよ。多分、まー君相手なら他の人にはしないような強いアピールをしてくるんじゃないかな」
「私たちが同席したら歯止めが効かなくなってまー君もうんざりしちゃうと思う。でも、それを考えても 零楼館乳首郎の功績には傷がつかないんだよね。私たちにはそれが不思議でならないんだよ」
「それで、いったい何が理由なの?」
三人の前にあるモニターには 零楼館乳首郎の今まで行ってきた偉業が延々と紹介されているのだが、何分経ってもループしている形跡はない。常に新しい偉業が更新され続けているようだ。
まー君はそんな偉人と呼んでもいいような人をどうしてサキュバスであるうまなちゃんとイザーちゃんは嫌がっているのか理由を知りたかった。今すぐにでもその理由を知りたかった。
「悪い人ではないってのはみんな知ってるし、サキュバス娼館も出禁にはなってないんだよね」
「出来んではないけど、一回当たりの利用時間の制限は付けさせてもらってるけどね」
「利用時間の制限とかあるの?」
「普通の人はないかな。だって、制限する前に魔力が底をつきてお支払することが出来なくなっちゃうからね」
「まー君みたいに無限に近い魔力があればサブスク契約も出来るんだけど、普通の人はサブスク契約をするだけの最低限の魔力も持ってないんだよ」
「でも、 零楼館乳首郎はまー君と同じような契約をすることが出来るほどの魔力を持ってるし、回復力だけだったらまー君よりも優れているかもしれないんだ。だから、 零楼館乳首郎もサブスク契約をすることは可能なんだけど、サキュバス娼館としてはお断りさせてもらってるんだよ」
「サブスク契約だけじゃなく、一日に二時間までの利用制限もかけさせてもらってるんだよね。制限をかけなかったら何時間でも同じ子を指名出来るくらいの力もあるんだけど、そんな事をしちゃったらサキュバス娼館は破綻しちゃうかもしれないんだって」
「いったいどうしてそんなことになるんだ?」
まー君は何一つ理解出来ないでいた。
サキュバス側としては大量の魔力を手に入れることが出来る相手を大切にするものだと思っていた。自分がそうされているように、高い魔力を持っていればサブスク契約だって出来るのだと考えていたが、それを拒否してまで契約を結びたくないような理由とは何なのだろう?
それに、 零楼館乳首郎という名前が本名なのかどうかも気になっていた。
「まー君はそんな事を思わないと信じてるんで言っちゃうけど、 零楼館乳首郎ってちょっと性癖が特殊なんだ。私は新人だから噂でしか聞いたことがないんだけど、イザーちゃんなら実際に体験してるんじゃないかな?」
「うん、二度ほど相手をしたことがあるよ。そのおかげで私は史上最高ランクのサキュバスって呼ばれるようになったんだけど、あの経験はもういいかなって思ってるよ」
さっきまでは無邪気に指で遊んでいたイザーちゃんも今は遠くを見つめて物思いにふけっている。
そんな様子のイザーちゃんをせかすことが出来ないまー君とうまなちゃんは黙って待っていた。
イザーちゃんが自分からその内容を話す時まで、二人は黙って待っていたのである。




