第八話 後継者不足
サキュバス娼館と男色家たちの会談はあっという間に終わり、零楼館乳首郎に詰め寄っていた男色家たちは零楼館乳首郎が男色家たちのために用意した個室へと入っていった。
個室ではあるけれど、どの部屋も一人で寝るには大きめのベッドが用意されているのであるが、それに関しては特に深い意味はない。何かを意図したものではないという事だけは伝えておく。
笑いつかれた零楼館乳首郎とサキュバス娼館支配人代理のわかなは一息つくと、用意されていた紅茶をカップに注いでリラックスした空間で話を再開することにした。
「この紅茶は零楼館乳首郎ちゃんが育ててる茶葉を使っているのかなぁ?」
「まだ試作段階ではあるけれど、いろいろと試行錯誤しながら作ってる茶葉だよ。摘み取った後の過程を今まで通りの製法で行うか、魔法を使って完全に自動化するかで意見が対立しているんだよね。魔法で一括製造すると味は完全に一定になるんだけど、ある段階以上にはクオリティが上がらないことが判明してね、やっぱり人の手が途中で入らないと茶葉にとっても最適な環境を作ることが出来ないってことになったんだよ。ただ、それを行うことが出来る職人を育てることが難しいってなって、魔法に頼るしかないのかなって思っちゃうんだよね」
「そう言うのってどこも頭を抱える問題っすよね。うちの親も伝統工芸の職人なんでそう言う話はよく聞いてたっすよ。うちの場合は二人の兄貴が後を継いでるんで問題ないんすけど、よそのお宅では後継者不足で廃業しちゃうしかないって話はよく聞いちゃってるんすよね。こんなに美味しい紅茶を作れる職人は絶やしちゃいけないって思うんすけど、なかなか難しい話っすよね」
「やっぱりどこも大変なんだねぇ。サキュバス娼館で働きたいってサキュバスちゃんも最近は減ってきちゃってたんだぁ。でもね、うちは幸運なことにイザーちゃんという大看板があるおかげで死亡者も多く来てくれてたんだよぉ。その上、うまなちゃんっていう次世代のスーパースターも生まれたんもんだから、あと数年はサキュバス不足に悩まなくて済みそうなのよねぇ。まー君が永久契約を結んでくれて、オプションも選択してくれたおかげで若い子たちの講習を行う余裕も生まれたって言うのは良いことだと思うなぁ」
「やっぱりまー君ってすごいんすね。自分らの中でもまー君の事は別格だってみんな言ってるんですけど、自分にはまだそのすごさが理解出来てなかったんすよ。でも、わかなさんとかリーダーの話を聞いていると、まー君が凄い人だって言うことは理解出来たっす。自分もみんなみたいに、一目見ただけであの人は凄い人だって気付けるように人を見る目を養いたいと思うところっす」
「当たり前のように会話に入ってきてるけど、君はいったい誰?」
零楼館乳首郎とわかなの会話に違和感なく入ってきた青年はよく鍛えられた体を誇るように筋肉を動かしながら挨拶をした。そんな事をしても威圧感は感じないはずの零楼館乳首郎ではあったのに、この時ばかりは何か嫌な予感がしていた。
そう言ったときの予感というものは、たいてい当たってしまうのがタチの悪いところである。
「あ、すいません。紅茶のいい匂いとどこかで聞いたことがあるようなお悩みが聞こえて気やったんでついつい口を挟んじゃったっす。本当に申し訳ないっす。申し遅れましたが、自分は男色家のダンっす。ダンちゃんって呼んでくれても構わないっすよ」
「男色家のダンって、男って意味?」
「よく間違われるけど自分の名前がダンっていう事っす。苗字はちょっと両親や家族に迷惑がかかっちゃうんで教えることが出来ないっすけど、サキュバス娼館さんもそれは一生だと思うんで了承していただけると嬉しいっす。でも、どうしても知りたいっていうんであれば教えることも出来るっすけど、零楼館乳首郎さんが自分の事を一番に指名してくれるのが条件ってことにしてほしいっす。ワガママなのは招致っすけど、自分に出来ることと言えばそれくらいしかないってことで勘弁してほしいっす」
「大丈夫よぉ。ダンちゃんの気持ちはよくわかるわぁ。今となっては世間様にある程度は認められる事になったサキュバス稼業ではあるけど、昔は闇夜に隠れてひっそりとおこなっていたのよねぇ。その時の名残なのか、よほどのことがない限りフルネームをお伝えすることなんて無いんだもんねぇ。乳首郎ちゃんみたいに自分に自信を持っている人なら問題ないと思うけど、あのまー君でさえ本名は誰も知らないってくらいだもんねぇ」
「うん、君の本名をあえて聞くなんて野暮なことはしないよ。それで、何か探し物でもしに来たのかな?」
「いや、そう言うわけじゃないっす。自分はあまりものを持たない主義なんで、モノを無くす事は滅多にないっす。ここに戻ってきたのはわかなさんに見本を色々と持ってきたからっす」
「もう準備が出来たなんて用意が良いねぇ。もっと時間がかかるかと思ってたよぉ」
「これがないと自分たちも辛いことになっちゃうっすから、マナーとしてみんな持ってるんすよ。ただ、人によっていろいろと好みがあるものっすから、零楼館乳首郎さんはどれがいいのか聞いた方が良いかなって思って選んでもらおうと思ったっすよ」
零楼館乳首郎は見た。
ダンが持っている透明の袋の中に危険物が複数存在しているという事実を。
本能がこの場を立ち去れと警戒しているのだが、それを察したのかわかなとダンが零楼館乳首郎の肘と膝をしっかりと固定して動けないように押さえつけてきたのだ。
「好みの問題と思うっすから、自分が愛用しているのじゃなくても平気っす。自分は他のやつでも出来るんで安心してほしいっす」
「乳首郎ちゃん、安心してねぇ。これは全部、男性用に開発されたものなんだってぇ」




