【第十四話】幻の果物を求めて
善輝がシルクと戦っている一方、英司、愁人、雫のメンバーは『パック果物園』のビニールハウスの果物をしらみつぶしに見て回っていた。
「全部枯れてるな・・そっちはどうですか?」
愁人は声を張り上げながら二人に問いかける。
「ぜーんぶ枯れてるよー。」
「私もダメだ。もう三ヶ月近く放置されているからな」
英司はため息を零しながら、諦めの境地に居た。
『パック果物園』は元々、果物の採取体験ができたり、果物の生産や研究なども行われている大きな施設だった。
しかし、いくらビニールハウス内を探しても食べられる果物が見つかるという現実は存在しなかった。そんな四苦八苦を迫られる中、英司は一つの提案をした。
「もしかしたら、研究所なら、こことは違った育成方法で保存されているかも知れない。」
「確かにそれはありますね。行ってみますか。」
「さんせーい」
だが、現実はそう上手くはいかなかった。英司の提案通り、一行は研究所へと向かったはいいものの、目的の食べられる果物は全て、まるでカラスにでも食い荒らされたかのように部屋中に酷く傷つき、転がっていた。
「流石にこれを食べる訳にはいかないですよね・・」
愁人は足元に落ちていたイチゴを拾いあげながら、英司の顔色をうかがったその時だった。
「キャー」
雫の絶叫する声が研究所内を駆け巡った。声を聞きつけた英司と愁人が目にしたものは、研究所の拓けた中庭で数十体程の顔無しの鏡の住民から必死に逃げる雫の姿だった。愁人はその様子を見て、即座にお面を構え、契約をしようとした瞬間、英司は愁人のお面を持った腕を優しく下げさせ、首を振って言った。
「この数、近くに核となる鏡がある可能性が高い。だから契約時間の短い君は、今、契約するべきではじゃない。」
愁人はその言葉を聞き、ハッと我に帰ると素直にお面をしまった。それと同時に、英司は自身のお面を取り出し、契約をした。契約した直後、英司は使えるものは無いかと周囲を見渡すと、中庭の端に六トントラックが孤独に止められているのを見つけた。英司は一度口角を上げると、強欲の力でそのトラックを掴んだ。
「雫、今から全速力で走って、そいつらとの距離を一度、突き放してくれないか?」
英司は今も尚追いかけられている雫に対し、声を上げて指示を出した。すると、雫はコクリと頷き、
「分かったー」
と、素直に答えた後に、雫は腕を大きく振り上げ、地面を蹴り飛ばす勢いで、全速力で走り、鏡の住民たちとの距離を一時的に作った。
「イグザクトリー。完璧だ。」
英司は独り言のように雫を称賛すると、鏡の住民たちの方向を目掛け、トラックを掴んでいた右手をピッチャーの投球のように大きく振った。こうして能力が解除されることにより、トラックは元の大きさに戻り、弾丸の速度で十体の鏡の住民を撥ね、瞬く間に一掃した。
「英司さんの強欲の力にそんな運用法があったんですね。」
英司の戦い方を後ろで見ていた愁人は英司に関心していた。それに対し英司は、
「相手が多数の時とか、相手を捕まえられない時は、基本この方法を使っているよ。」
と、にっこりしながら言った。
数分後、やつれた髪に汗を滴らせる雫と合流すると、英司は二人に指示を出した。
「この果物園に、核となる鏡とそれを作った『大富豪』の鏡の住民がいる可能性が高い。今から三手に分かれてそれらを探そう。」
「えー、果物を探していたのに今度はそれ探すのー。」
雫は呼吸を乱しながら、呆れた様子で答えた。英司は腰に手を当て、小さなため息をつきながら
「じゃあ、そこの椅子で休んで居ていいよ。」
と、観葉植物に挟まれたソファーのような長細い椅子を指差し、許可をした。
こうして、愁人と英司の二手で、核となる鏡とそれを作った『大富豪』の鏡の住民を探すことになった。だが、何処を探しても核となる鏡も『大富豪』の鏡の住民も見つかることは無く、それどころかさっきまで現れていた鏡の住民の音沙汰も無くなった。そんな途方に暮れていた時、呑気に椅子で休んでいた雫が二人のことを呼び出し、不安げにシワを寄せながら、口を開いた。
「何か、そこの研究用のファイルとかが並べられた書架から違和感を感じるんだよねー。」
と、休んでいた椅子から少し離れた、薄暗く地味に置かれた大きな書架を指さした。
「至って普通の書架に見えますけど、どう違和感を感じるんですか?」
顎に手を当てながら愁人が問うと、雫は書架を指差す指を激しく上下に動かしながら、興奮するような、軽く怒るように声を上げた。
「そこから隙間風を感じたり、何かがいるような気配を感じるのー。」
「分かった、分かった。私たち二手で探しても見つからなかったのだし、取り敢えず、書架をどかそう。」
そう落ち着かせるように言うと、英司は書架の横に手をかけ、力一杯に引いた。と、その時、
『ガガガガガ』
と、歯車がひしめき合う混合曲が響くと共に隠された古びた木造の扉が現れた。
「ねっ、ねっ、言った通りでしょ。」
今度はさっきまでとは打って変わり、嬉しそうに書架を指差す指を激しく上下に動かした。
「そうか、ここにあったのか。でかしたぞ、雫。」
飛び跳ねる雫に対し、英司はグットマークを向けながら褒めた。
それから数分後、体力を回復させ、英司は再度契約をし、愁人と雫には落ちていた鉄パイプを握らせると、頷き合い、お互いの承認を確認した後に、英司がドアノブを捻り、ゆっくりと開けた。そこは、八畳程の広さで埃っぽく、窓一つ無い、真っ暗な一つの部屋だった。それ故、英司たちが開けたドアからほんの少しだけ差し込む陽の光だけが唯一の明かりとなっていた。その部屋には核となる鏡となった古びた三面鏡とその隣のソファでスヤスヤと気持ち良さそうに眠る、白色のワンピース姿のロングヘアでフワやかな肌を持つ中学生ぐらいの少女の姿をした鏡の住民がいた。
「これは一体?」
一同が困惑していると、少女の姿をした鏡の住民は突然、呪文のような寝言を言い出した。
「夢への導き、天への架け橋、さああなた方も共に参りましょうぞ。」
そんな淡々とした声を聞いた瞬間、一行は立てなくなる程の激しい頭痛と立ちくらみを起こす程の激しい眠気に突如襲われた。
「何、これ?凄く眠くなって・・きて・・」
そしてそのまま、もがくことすらもできず、その場で一行は雑魚寝してしまった。
ー夢の世界ー
「うっ、」
英司はなぜか、静かで不穏な電車の座席で一人、目を覚ました。その電車内は、風の音すらも感じない程の無音な空間で、揺り籠のように僅かに揺れながら、何処かへと走っていた。窓の外の景色からは、電車が空の上を走っていることが分かり、透き通る蒼穹と揺らぎ無い真っ青な海が窓の外の一面を美しい青景色で彩っていた。その景色の美しさは、英司のことを天国にでも来たのかと錯覚させる程のものだった。
「ここは何処だ?確かさっきまで愁人と雫と・・はっ、あの二人は?」
そうハッと我に返り、車内をキョロキョロと見渡していると、電車の貫通扉が静かに開いた。そこには迷い猫のように不思議そうに警戒して歩く愁人と雫の姿があった。
「愁人と雫、大丈夫か?」
英司は、真っ直ぐに二人の元へと駆け寄った。すると、愁人たちは多少、警戒を途切れさせると、英司の質問に対し、微笑むような笑みで頷きながら答えた。
「はい、大丈夫です。」
「二人が無事で本当に何よりだ。でも、これは今、一体どういう状況なんだ?」
「僕にも真相は分かりませんが、取り敢えず、合流を目的として、車両の最後尾からここまで進んで来たところです。」
「なるもどね、それでここは何車両目なんだ?」
「四車両目だと思います。」
愁人の淡々と言った答えに英司は思わず、目を丸くした。
「っと、言うことは、もしもこの電車が全五両車で・・今まで鏡の住民に会わなかったのなら・・」
「次の車両に鏡の住民がいるってこと?」
今まで何も言わずに話を聞いていた雫が、ハッと結論を出した。
「なら、戦いはこれからってことだね。二人とも準備はできた?」
「はい」
愁人は素直に意気込むように言うと、それに対し、雫はまた呆れたように、
「えー、もう疲れ・・うっ」
と、言おうとした瞬間、雫の口を愁人が手のひらで軽く押さえ、英司に不気味な笑みを浮かべながら、
「雫も行けるそうですよ。」
と、色々溜めたような声で言った。英司は何も言わず、ただ苦笑いを浮かべた。
一行は一車両目に繋がる貫通扉まで足を運んだ。そして、遂に貫通扉のそばまで来たその時だった。
「はっ、」
長方形の貫通扉の窓にまるで三人が来ることを待っていたかのように立つ、何者かの人影が映った。三人は唾を飲み、警戒心を強め、後ろ向きに同時にステップを踏んだ。三人の頬、それぞれにそれぞれの冷や汗が撫でられると、
「待ち伏せしているように見えなかった・・?」
「ああ、二人共、警戒を強めろ。」
そう緊迫した空気間で会話をしながら一歩、二歩と今度は後退りしたその時、
『ドンッ』
力強い破壊音、舞い上がる破片と同時に三人と何者かで挟んでいた貫通扉が豪快に破壊された。こうして三人の前へと立ちはだかったのは、黒色で不安を煽るベネチアンマスクを付けた一体の鏡の住民だった。その姿はさっき、工場で見た白色のワンピース姿のロングヘアでフワやかな肌を持つ中学生ぐらいの少女の姿と完全に一致した。三人は体制を戻し、威嚇するかのように鏡の住民の目を睨むと、鏡の住民の方から歌い出しそうなぐらい軽やかでフレンドリーに口を開いた。
「夢の迷い人さん。こんにちは。私の名前はドルミーレ。人間を九百人と契約者を三人吸収していまーす。」
すると、英司はそんな悪意の無さそうなドルミーレの態度をお構いなしに睨み付けながら質問を振った。
「ここは何処だ?お前の能力で造り出した世界なのか?」
そう聞くと、ドルミーレは人差し指を自分の顎に当てながら楽しそうに答えた。
「じゃあ早速、結論から言うと、ここは私の夢の世界。君たちは私の能力で夢の世界へと迷い込んでしまった迷い人。この世界の外の君たちは今、無防蟻でスヤスヤと眠っているよー。」
「夢の・・世界?」
愁人はシワを寄せながらドルミーレの言葉を繰り返した。それに対し、ドルミーレは大きく口角を上げ、手を大きく広げて言葉を続けた。
「そう、だからこの世界は私が自由にコントロールできるの。あっ、でも迷い人である君たちには不可能だけどね。じゃあ例えば・・・ソフトクリーム。」
そう言ってドルミーレが指を鳴らした瞬間、
『ポンッ』
という軽快な破裂音と共にドルミーレの目の前にコーンの上に乗せられたシンプルなソフトクリームが現れた。ドルミーレはそれを瞬時に掴み、大きく口の中で頬張ると、今度は片手を優しく頬に当てて、満面の笑みを作った。そしてその行為は、英司たちにそのソフトクリームが本物だということを教えた。ドルミーレは残りのソフトクリームをリズミカルに口に運びながら、この夢の世界について解説した。
「この夢の世界に存在する全ての物体は『現実のもの』と同じ。実際に食べ物なら食べることもできるし、猛獣などに噛まれたら本当に痛い。さらに、この夢の世界の死は現実の死へと繋がる。」
その真実を聞かされた時、愁人と雫には衝撃が走ったが、依然として、英司だけは何の同様も見せることは無かった。その愁人と雫の警戒する様子を見たドルミーレは、手のひらを二人の前で振りながら、誤解だよーっと言わんばかりの口調で言った。
「あっでも、君たちに危害を加えるつもりは一切無いよ。だから、心配しないで。んーじゃあ取り敢えず、君たちとの友情の誓いに君たちにもソフトクリームをあげるよ。」
「えっ、ほんとー。私、凄く疲れちゃって、私も食べたいなーって思っていたのよねー。」
そのドルミーレの甘い誘いに雫は警戒を途切れさせ、一歩進んだ瞬間、ドルミーレは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「はい、どうぞ。」
という言葉と同時に、背中から背丈が英司たちの五倍以上はある大蛇を雫の前へと放った。その大蛇は電車のシートを蹴散らし、ドルミーレの横を柔軟に通り過ぎると、猪突猛進で雫に近づき、突然見せた鋭気な牙で雫をしっかりと捕らえ、そのままの勢いで電車の車体を突き破り、真っ青な世界へと落ちていった。その様子を見て、ドルミーレは罵るように笑いながら言った。
「騙された、騙された。私が君たちに危害を加え無い訳が無いじゃない。」
その非道な様子に愁人は衝撃と憎悪を一瞬にして思い出し、英司に鋭い眼を向けながら聞いた。
「そろそろ、契約してもいいですか?」
すると、英司は依然として変えなかった顔を笑顔に変えて答えた。
「まあそう案ずるな愁人よ。」
その怒りを、その憎悪を、バカにするかのように言う英司の様子は、非道なドルミーレとそう変わる様子が無かった。そして、愁人は煮えたぎるような怒りに身を任せ、怒鳴るように英司に聞いた。
「どうして、あなたはそんなに悠長に居られるんですか?」
愁人の怒り狂うような声で聞く質問に対し、英司はドルミーレにキメ顔を向けながら堂々と答えた。
「私はこの戦いの結末を知っている。」
そして、英司はドルミーレに真っ直ぐな人指し指を指しながら続けて言った。
「君はこの戦いで全身が丸焦げになって死ぬってことをね。」
続




