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八月二三日⑤
診療所を出た時から判りきっていたことだが、本橋が署にたどり着いたのは始業時刻である午前八時三〇分から三十分経った午前九時だった。灼熱の太陽の元、走ったり歩いたりを繰り返した本橋は水をかぶったように汗だくになっていた。ちょうどその時階段を下りてきた東原が、本橋のその姿を見て驚いて近寄ってきた。
「一体どうしたのよ」
「ちょっと汗をかかなければならなくなってな」
本橋は中途半端に笑った。
「汗もすごいけど、シャツ血だらけじゃない。また襲われたの?」
東原からの指摘を受け、本橋は自分のワイシャツが胸元から右腕にかけてまだらに赤く染まっているに気づいた。
「襲われたのはオレじゃないけど、確かにこれは酷いな。遅刻ついでにシャワー浴びて着替えるよ」
本橋の言葉に東原が不思議そうな表情を浮かべた。
「あら。さっき本橋の席に行ったら、鈴木くんが、先輩は事業場に直行してから出勤するって言ってたわよ」
「鈴木が?」
まあその様子じゃ事業場に寄っていたわけじゃなさそうね。よくできた後輩に感謝したら?」
東原は一人合点がいったように笑った。
「あいつ変なところで機転を利かせやがったな」
本橋も苦笑いした。




